一本が多くなった柔道だけど,つまらない? ルール変更で狭隘化(きょうあいか)する柔道
駆け引きできない柔道で、反則負け
リオ五輪を来年に控えたこの時期、スポーツ界では五輪出場をかけて国際大会が目白押しである。
お家芸柔道でも「グランドスラム東京2015」が東京体育館で12月4日~6日に行われた。男子は7階級中6階級、女子は7階中5階級を制すなど日本柔道は好成績を収めた。
とはいえ、現場の柔道関係者からこんな声があがった。「ルール変更で一本が多くなったけど、やっている方は駆け引きがなくてつまらない」
そんな声を反映するような場面が大会で見られた。81キロ級準決勝、現世界王者の永瀬貴規(筑波大)選手と李選手(韓国)の一戦である。
結局、永瀬選手は反則負けし3位に終わった。
このような混乱が起きているのは、2年前の2013年から国際際柔道連盟(IJF)は立ち技の攻防での足取りを禁じたから。
組み合わず双手刈を繰り返す選手が増えため、組み合って投げ合う柔道にしたいというIJFのディレクションによってルールが変更された。
とはいえこのルール、現場では評判がよくない。当初、組み合うことで日本人に有利なルールと言われていたが、実際運用されると組み合うことにより、とりわけフィジカルやパワーが重要視される重量級ではむしろ、外国人の方が有利なルールであるといえる。実際、かつて日本が常勝していた最重量男子100kg超級では、パワー柔道の潮流に日本の重量級は苦戦している。
狭隘化する柔道
一方で、外国人に有利かとおもいきや、グランドスラムに出場していた各国のコーチが口を揃えていう。「ルール変更して、柔道がタクティックス(戦略的)じゃなくなったよね。よりフィジカルな柔道になってつまらなくなった。足取りもないし、組手争いも減った。」
つまり、足取りに対する防御やカウンターの技術が失われ、柔道技術体系の幅を狭め、駆け引き(戦略的要素)が減っていると、外国人柔道家も同じように感じていたのだ。
さらに、年末の格闘技イベントに桜庭和志と対戦する青木真也氏は、
五輪金メダリストで総合格闘技家の石井慧氏も
と述べているように、短絡的に組み合うことを促すルールに変更したことによって、柔道の本質そのものが失われる危機にもなっているといえる。
私自身も教え子と稽古中、思わず組手をきったり、足をとってしまうと「反則です。先生の柔道は昭和の柔道です!」とガラパゴス化されてしまう。朽木倒しも両手刈も伝統的な柔道の技にもかかわらず、今では教えることができない。とりわけ寝技が得意な選手にとって、足取りから寝技への移行は定石。これでは柔道の魅力がなくなってしまうのではないだろうか。
さらに石井氏は、
また青木氏は
と述べている。
「柔道がどうであるべきか?」については、柔道の方向性を決定する最高機関のIJF理事会では、これまで日本人理事が不在で、そのディレクションをIJFに負託するしかなかった。しかし今年9月、ヴィゼール会長の鶴の一声で、山下泰裕氏、上村春樹氏の二人が同時に指名理事としてIJF理事に就任いた。
とりわけ剛腕のヴィゼールIJF会長の下で形だけの「みなし理事」にされないよう、お二人には是々非々で、日本柔道の主張、柔道の本質をIJF理事会で議論してほしい。さらに私たち日本人柔道家もSNS等を通じながら議論し、日本柔道の世論を形成すべき時期にきているのではないだろうか。