iPhoneはガラケーになるのか? = 新型iPhoneとAppleの戦略
米国西海岸時間9月10日午前10時から行われたAppleのメディアイベントで、噂通り、ハイエンドのiPhone 5sとiPhone 5cが発表されました。米国や日本を含む各国ではiPhone 5cについて、9月13日に予約を開始し、9月20日に発売するというスケジュールが組まれています。
新たに発表された2機種は概ね噂通りのものだったためか、発表の壇上に立ったAppleのPhil Schiller上級副社長は「知っての通り」というフレーズや「これはまだ披露してなかったことなんだけれど」という言葉を挟んでいたのが印象的でした。
新たに発表されたiPhoneについて、簡単にまとめました。
【iPhone 5s】
- iPhone 5の後継機種。
- 4インチRetinaディスプレイ、筐体のデザイン、サイズ、重さはiPhone 5と同じ。
- ゴールドの新色が加えられ、スレートはスペースグレーに変更。シルバーを加えた3色展開。
- 「A7」プロセッサを搭載し、スマートフォン初の64ビット機となる。
- 加速度・ジャイロ・電子コンパスのセンサーと処理を行う「M7」モーション・コプロセッサ搭載。
- 背面のiSightカメラは800万画素のままだが撮影素子の大型化とF2.2の明るいレンズを搭載。
- 秒間10コマの静止画連写と、秒間120フレームのスローモーション動画撮影に対応。
- 2色のフラッシュを搭載し、シーンに応じて1000種類以上のパターンで発光。自然な色合いを出す。
- 内側のFaceTimeカメラは暗所での撮影でも明るく。
- 指紋センサー「Touch ID」をホームボタンに搭載、A7チップの専用領域に保存。
- バッテリー持続時間はiPhone 5よりわずかに向上。
- より多くのLTEバンドに対応。
【iPhone 5c】
- iPhone 5とほぼ同等の仕様(A6プロセッサ、4インチRetinaディスプレイ、800万画素カメラ)
- ボディの素材はポリカーボネイトプラスティックに変更され、5色展開に。
- バッテリ容量がiPhone 5より増え、 重さ・厚みが増す。iPhone 5sと同等のバッテリ持続時間に。
- 内側のFaceTimeカメラは暗所での撮影でも明るく。
- 専用のカバーが6色展開で発売され、端末の色との組み合わせは30種類に。
- より多くのLTEバンドに対応。
このように並べてみると、上位機種のiPhone 5sとエントリーモデルのiPhone 5cの差別化要因は、A7プロセッサ、M7コプロセッサ、カメラモジュールとA7に起因する撮影機能、フラッシュ、指紋センサー、そして筐体デザインになります。
価格差は、米国で2年間の契約を前提とした価格で、iPhone 5sが16GB 199ドルに対してiPhone 5cは16GB 99ドルと、100ドルの差を付けています。今回の発表に合わせて、iPhone 5はラインアップからなくなり、2世代前のiPhone 4Sが2年契約を前提に端末価格無料として残されました。
「Appleはそういうもんだから」で片付くようになった
今回の発表は概ね噂通りで、特に大きなサプライズが用意されていたわけではありませんでした。しかし発表会終了後、発表内容に対する不満の声や批判がさほど目立ったわけでもありません。一定の納得感があったという感覚です。
競合他社のスペックを引き合いに、どんな機能を盛り込むべきかの星取り表に注目が集まっていました。昨年からのトレンドをなぞると、5インチクラスの大型ディスプレイ、フルHD、1000万画素以上のカメラ、非接触IC規格NFCへの対応、ワイヤレス充電などが挙げられます。
これらのいずれもサポートしなかったにも関わらず、概ね受け入れられている様子を見ると、「まあ、こんなものか」という納得感に落ち着いています。それは、2012年に発売したiPhone 5が、米国の年末年始の四半期に、売上シェアのトップの座に輝いたこともあったのかもしれません。
それまで米国のスマートフォン市場は、ハイエンドからエントリーモデルまで、SamsungのGALAXYシリーズの独壇場となっていましたが、スペックや派手さに劣り、トレンドを全く追いかけなかったiPhone 5が、トップを取ったことは、Appleの方法論に対する評価を決めたようでした。
Appleはスペックではなく体験をていねいに作り出しながらiPhoneを育ててきました。その結果がiPhone 5の成功に結びつき、今回もその歩をゆっくりと進化させようとしています。
市場への対応とトレンドへの布石
しかし現状、AppleとiPhoneを取り巻く状況は良くありません。
iPhoneのスマートフォンにおけるシェアは下がり続け、米国では13%台にまで落ち込んでおり、巨大なAndroid陣営に押し込まれている現状です。iPhoneそのものは成熟していますが、マーケットの拡大の大きな流れをキチンと追いかけ切れていないと言えます。
iPhoneの現状を筆者は、2008年頃日本の携帯電話市場における、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)と、iPhoneを代表するスマートフォンの構図に似ているように感じています。もちろん、今度は、ガラケー側がiPhone、ということになります。
今回、廉価版のiPhone 5cを、iPhone 5からスペックダウンさせることなく、よりカラフルでカジュアルに手に取れるモデルとして再デザインして投入しました。前述の通り、一般的なスマートフォンからすれば、画面サイズやスペックなどの面でAndroidスマートフォンの競合モデルに劣る面もありますが、エントリーモデルだからこそ、体験が大切であるという見方もできます。
iPhone 5cは成功する
筆者はiPhone 5cは成功すると考えています。
1点懸念するなら、ハイエンドのiPhone 5sのシェアを大きく食い込むこともあるかもしれない、ということです。指紋認証やより優れたカメラ機能など競合にない差別化要因を顧客が選ばなければ、Appleが提案する体験の発展スピードが1年遅れるかもしれません。しかし、それも顧客の選択として、体験の発展の進行に反映させれば良いだけなのでしょう。
iPhone 5sとiPhone 5cは顧客や市場のニーズに応えているようで、Appleがどういうスピードと方向性でモバイル体験を発展させれば良いのか、顧客との対話のチャンスを作っているようにも感じるのです。
しかしガラケーとの違いもあります。iPhoneとガラケーとの差は、機能や体験の進化の方法が、ハードウエアの更新だけではない点です。iOS 7は3世代前のiPhone 4から利用でき、新しいインターフェイスやカメラ機能、クラウド機能を最新の物にアップグレードすることができるのです。
ハードウエアとソフトウエアの両輪で体験を進化させる体制は、日本のガラケーからの反省を生かしていると見ることもできます。
iPhoneがどれだけ受け入れられるのか、5sと5cがどのような割合で選ばれるのか、年内までの動向を追いかけていこうと思います。