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「新・ガザからの報告」(16) (2024年9月27日)    ―前編・「レバノン情勢の影響」―

土井敏邦ジャーナリスト
(空爆で家を破壊され、残った生活用品を捜す住民/撮影・ガザ住民)


(Q・ご存知のように、この4日間、世界のすべての注目がレバノンに集まっています。イスラエル国防軍とヒズボラの間の緊張が高まっています。

 残念ながら、ガザ地区に関するニュースはほとんどありません。ガザ地区内の日々の状況、イスラエルがガザ地区を攻撃しているかどうか、ガザ地区で人的被害が出ているかどうか、死者や負傷者、投獄された人がいるかどうかなど、残念ながら、ニュースを見つけることはできません。なぜなら、すべての注目がレバノンに向けられているからです。

(Q・このレバノン情勢に対するガザ住民の反応を教えてください)

 
お伝えしたいのは、この4日間、イスラエルのガザ地区に対する空爆は一度も止んだことがないということです。昼夜を問わず、常に砲撃や空爆が続いています。空からの攻撃であれ、地上攻撃であれです。毎日、同数の死者が出ています。

 毎日、平均25~35人が死亡し150~200人が負傷しています。これは過去4日間の平均的な数字です。ガザ地区での戦闘は止んでいません。状況は同じです。現在、ハマスの主要拠点である2か所で戦闘や衝突、地上作戦を行っています。

 ガザ地区の中間にはネツァリム回廊があります。そして南のエジプトとの国境沿いにはフィラデルフィー回廊があります。つまり、ネツァリム回廊とフィラデルフィー回廊の2つの回廊では、地上攻撃が依然として続いています。毎日の攻撃は依然として続いています。

(ガザの地図/作成・土井敏邦)
(ガザの地図/作成・土井敏邦)



(Q・戦車についてはどうですか?)

 戦
車は2つの回廊で活動しています。フィラデルフィーとネツァリムには、依然として多数の旅団が駐屯し、何千台もの戦車があります。それらが北部のガザ市の中心部、南端のラファ市などで依然として活動しています。

イスラエル軍の各旅団は約1,500人から2,000人で構成されています。それらの2つの旅団をネツァリム回廊に、さらに2つの旅団をフィラデルフィー回廊に展開しています。つまり、合計でイスラエル軍の4個旅団が現在2つの回廊に展開しているのです。そこでは戦車や装甲車両が2つの回廊内での日常的な活動をしています。

 イスラエル地上軍の中で最も強力で最も過酷な部隊は「第98師団」と呼ばれています。4~5つの旅団を組み合わせると、1つの師団となります。
 最も強力で、最も過酷な師団であり、ガザ地区で最も多くの人々を殺し、ハマス戦闘員を最も多く殺害したのが、第98師団です。
 この師団は、ガザ攻撃の当初から境界線上に陣取り、任務があるたびに境界線を越えてガザ内部に入り任務を遂行し、その後、境界線上の陣地に戻っていました。
 
 数週間前、イスラエル軍はこの部隊に、ガザから撤退するよう命じました。つまりガザから離れ、イスラエル北部へ移動するよう命じられたのです。現在、彼らはガリラヤ、北部の高地ガリラヤに駐留しています。イスラエル軍で最も強力なこの師団がガザを離れ、現在はレバノンとの国境に駐留しているのです。
 イスラエルはヒズボラが国境から侵入する何らかの攻撃を準備しているのではないかという懸念を持っています。10月7日にハマスが行ったのと同じような攻撃をすることを警戒しているのです。

(Q・ガザ住民の現在の生活について教えてください)

 
通常の生活と人道状況という2つのことについてお話しします。そしてレバノンで起こっていることに対するガザ住民の感情、反応についてもお話しします。

 今、ガザ地区では、住民は2つのグループに分かれています。
1つは、イスラエル軍がレバノンへの攻撃を開始したことを喜んでいます。なぜなら独立国家であるレバノンに対するイスラエルの攻撃によって、世界がイスラエルに対して圧力をかけ、イスラエルに攻撃を停止させることができるのではないかと考えているからです。つまり、ヒズボラに対するイスラエルの空爆・攻撃は、ガザの状況や戦争の終結に役立つと期待しているからです。

 パレスチナ人は今はもう国際社会から忘れ去られていると思っています。誰ももうガザのことを尋ねません。パレスチナ人は1948年以来殺され続けています。しかし世界はもうパレスチナ人のことは尋ねようともしません。
 しかし、レバノンは国家であり、フランスなど西側諸国と何らかの関係があります。そのレバノンがイスラエル軍に攻撃されることに世界は注目します。それによって、もしかしたらガザでの戦争を終わらせるのに役立つかもしれないとガザ住民は楽観視しているのです。私が話しているのは人びとの感情や希望は、街や市場、ソーシャルメディアで交わされている会話から聞いたことです。

 もう1つの声はとても悲観的です。イスラエル軍がヒズボラを破壊・粉砕し、またシリア内の反イスラエル勢力を粉砕し、さらにイエメンのフーシ派の戦力を紅海のホデイダ港の爆撃によって粉砕することなどで外部からの脅威をすべて排除した後、彼らはガザに戻ってきて、新たな暴力と新たな殺戮の嵐を巻き起こしてくると恐れています。そして、ガザのハマスの残党を潰し、ガザは完全に破壊されるだろうと考えているのです。なぜなら、イスラエルは自由になり、ガザだけに専念できるからです。彼らの強大な軍事力、多数の師団や旅団を投入してガザ地区を攻撃し、人質を奪還するためにガザ地区全域に侵攻するでしょう。ガザ地区をすべて破壊し、ハマスを永遠に終わらせるためにガザ地区すべてに侵攻し、残りの91人の人質を取り戻すだろうと信じています。
 これが、この4日間のガザの人々の感情や感覚です。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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