Yahoo!ニュース

「ヘイニー優位。私もガルシアの健康状態を心配し始めている」 米記者が注目の世界戦を展望

杉浦大介スポーツライター
Golden Boy / Cris Esqueda

4月20日 ブルックリン バークレイズセンター

WBC世界スーパーライト級タイトル戦

王者、2階級制覇王者

デビン・ヘイニー(アメリカ/25歳/31-0, 15KOs)

12回戦

元WBC世界ライト級暫定王者

ライアン・ガルシア(アメリカ/25歳/24-1, 20KOs)

 中量級屈指の好カードが間近に迫っている。世界ライト級の4団体統一後、スーパーライト級でもWBC王者になったヘイニーに、現役最高級の人気ボクサー、ガルシアが挑む。アマチュア時代は6度対戦して3勝3敗というライバル同士だ。

 ただ、プロの実績ではヘイニーが大きく上回っており、特に2023年はワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、レジス・プログレイス(アメリカ)を撃破した25歳は波に乗っている。一方、ガルシアは昨年4月のジャーボンテ・デービス(アメリカ)戦で初黒星を喫し、精神面の危うさも指摘されている。実際にファイトウィーク中のイベントでも不安定な言動が目立ち、その心身のコンディションを危ぶむ声は少なくない。

 やはりヘイニーが圧倒的に優位と目されそうなビッグファイトで、ガルシアにも勝機はあるのか。ラスベガス在住のボクシング・ジャーナリスト、ショーン・ジッテル氏がこの試合の展望、勝敗予想をじっくりと語ってもらった。

 FightHype.comのレポーターを務め、厳格な全米ボクシング記者協会(BWAA)からビデオグラファーとしては史上初めてメンバーに迎えられたジッテル氏。甘いマスクと確かな眼力を備えた新進気鋭のジャーナリストも、やはり最後に勝ち残るのは近況の良さで大きく上回る王者だと考えているようだ。

ビデオグラファーとしては史上初めて全米ボクシング記者協会(BWAA)のメンバーに迎えられたジッテル氏 撮影:杉浦大介
ビデオグラファーとしては史上初めて全米ボクシング記者協会(BWAA)のメンバーに迎えられたジッテル氏 撮影:杉浦大介

 (以下、ジッテル記者の1人語り)

100%のコンディションとは思えないガルシア

 今回の試合はビッグイベントではあっても、最高級のマッチアップとは言えないと思う。ガルシアは“タンク”・デービスにKO負けして以降、オスカル・デュアルテ(メキシコ)との1戦をこなしただけで、多くの実績を積み上げたとは言えない。ヘイニーに勝てると思わせることは何も成し遂げてはいないから、賭け率では10-1に近いほどの大差がついている。私もまたヘイニーがかなり優位だと思う。

 プロモーション期間中もガルシアは不可解な言動が多く、正直、メディアの1人である私もその健康状態を心配し始めている。プライベートにも多くの問題があるようで、私たちはSNSを通じてそれを目の当たりにしている。

 おそらく100%ではないメンタルのコンディションで、今が旬のヘイニーという王者に挑もうとしている。だから大きな勝機があるとは考えていない。ガルシアは耳を噛んでやるとか、首を折ってやるとか話しているが、そんなことをやろうとしたら反則負けになってしまう。

Golden Boy / Cris Esqueda
Golden Boy / Cris Esqueda

 この試合に負ければ辛い時間を味わうだろうから、その点も懸念している。ボクシングを愛する人は誰もガルシアがダークな方にいくことは望んでいないからだ。

王者に落とし穴は打ち気に逸りすぎた場合

 ヘイニーも多くの重圧を背負って戦いに臨むことになる。ガルシアはスーパーライト級に上げて体重調整はより容易だとしても、これまで話してきた通り、精神的には不安定なこともあって、今戦ではヘイニーが断然優位と見られている。だから人々はKO決着を期待している。“タンク”がKOした選手を持て余し、判定までいくようであれば、ヘイニーは批判を浴びかねない。

 ヘイニーはこれまでKOを確約したことは一度もないのに、今戦ではKOを予告している。口先だけではなく、本気でKOを狙ってくることが予想できる。

 彼が対戦相手に「リング中央で戦え」などと言い放つのを聞くのもこれが初めて。“タンク”が決め手になる左を打ち込んだように、自身の右が早い回から生きると考えているかもしれない。

 絶対有利とされるヘイニーに不安材料があるとすれば、その点ではないかとも思う。ガルシアの得意の左フックを浴びないために、序盤のヘイニーは常にその右手を顎の前に置いてガードしておく必要があるが、この試合では一刻も早く自身の右を打ち込みたいと願っているはずだ。

Golden Boy / Cris Esqueda
Golden Boy / Cris Esqueda

 トレーニングキャンプ中も執拗に右に磨きをかけており、そのパンチで戦いを終わらせたいと思っていることは一目瞭然だった。少し強引に攻めた場合、ガルシアにチャンスを与えることにもなりかねない。普段のヘイニーには言う必要のない言葉だが、今戦に限っては少し辛抱強く戦うべきなのだろう。

序盤の左フックにかけるガルシア

 ガルシアが指導を受けているデリック・ジェームズ・トレーナーは、相手のパンチをガードで受け止めて自身のパンチを放つ“キャッチ&シュート”の戦術指導が得意なトレーナー。ガルシアはその指導通りにガードを上げ、ヘイニーの攻撃を避け、早いラウンドにいいパンチを当てなければいけない。

 ガルシアにチャンスがあるのはやはり序盤だ。中盤以降までもつれれば、その動きはヘイニーに見切られ、スピードとリズム感を生かされてしまう。

 ヘイニーの長いジャブにガードを突き破られた場合、ヘッドムーブメントの少ないガルシアは厳しくなる。そんな展開を避けるべく、ガルシアは開始直後から距離を詰め、ハイガードでパンチを受け止め、タイミングを見計った左フックにつなげなければいけない。ただ、最近のヘイニーの充実度を見ても、そんな展開になる可能性は低いと言わざるを得ない。

Golden Boy / Cris Esqueda
Golden Boy / Cris Esqueda

 私の予想を述べておくと、ヘイニーが12ラウンズを必要とせずにガルシアを打ち破ると見る。最初の3回、ガルシアはとても危険だ。多くのエナジーを費やして攻め込んでくるに違いない。ヘイニーは受けて立つと述べてはいたが、実際にはここでは右を多用せず、ジャブを重視する方が賢明だろう。

 最初の3ラウンドが終われば、ヘイニーが主導権を握る。今戦ではプログレイス戦以上に攻撃的な戦い方をするのではないか。

 ジョージ・カンボソス Jr.(オーストラリア)戦、プログレイス戦でのヘイニーはもっと攻めるべきと一部のファンから指摘された。今回はそれらの試合以上に前に出て、コンビネーションパンチを放っていくのだろう。最終的にはヘイニーの目論見通り、右パンチが決め手になってKO勝ちを飾ると思う。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事