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「新・ガザからの報告」(23)(2024年11月2日)―「ガザ北部の無人化」計画」―

土井敏邦ジャーナリスト
(多くの子どもたちの心が病んでいる/撮影・ガザ住民)

 ここ数日、ガザ地区へのイスラエル軍の空爆が激しさを増しています。イスラエル軍はガザ北部での攻撃を強化しています。最初はジャバリア難民キャンプを攻撃し、その後、ベイトラヒヤ地区へと攻撃を拡大しています。最近では、ジャバリア難民キャンプではなく、隣接するジャバリア町を攻撃しています。

 ガザ北部の状況は非常に困難な状況です。もちろん、多くの住民は南部へ避難しました。大多数はガザ市に向かいました。

 そして少数派は、南のデイルバラ町やハンユニス市、その周辺地域へ向かうために、ネツァリーム回廊を通ることを選択しました。とにかくガザ地区北部の状況は非常に深刻です。

 爆撃の後、数百人が行方が分からなくなっています。彼らの遺体は回収されていません。救急車、医療関係者、民間防衛隊、消防士たちは、ジャバリアとベトラヒアの内部に入るためのイスラエル軍との調整ができていません。そのため、数百体の遺体が埋葬されず、回収されず、病院にも運ばれていません。そのため、毎日、新たに死亡した人の遺体を発見しているのです。

(Q・イスラエル軍の空爆は続いているのですか?)

 昨日、非常に危険な最新情報を知りました。イスラエル軍は避難命令なしに突然、ヌセイラート難民キャンプ北部を攻撃しました。このキャンプはジャバリア難民キャンプに次いでガザ地区で2番目に大きなキャンプです。

 最近、イスラエル軍の戦車がキャンプ北部に進軍しているのが目撃されています。その戦車の砲撃、無人機の攻撃、戦車の砲撃、狙撃兵による銃撃により、数十人が死亡しました。そのため今、住民はヌサラート難民キャンプから避難しています。このキャンプはとてもひどい状況です。

 軍事作戦や地上作戦を行う前には、通常、イスラエル軍の報道官が、攻撃対象地域について宣言します。そして、その地域に住む住民に対して避難命令を出すのが通例でした。

 しかしヌセイラート難民キャンプでは、そのようなことは起こりませんでした。イスラエル軍の攻撃は突然でした。

ヌセイラート難民キャンの状況は、北部の状況は、ジャバリア難民キャンプやベイトラヒヤ町と同等にひどい状況です。

(Q・なぜ突然、イスラエル軍がヌサイラートを攻撃したのですか?)

 

 今はまだわかりません。以前にも同様の事件を目撃したことがありましたが、その時は理由が明らかでした。イスラエル軍がその地域でイスラエル人人質を捜索し、それらの人質を確保するために事前の警告なしに突然攻撃を決定したと推測できましたが、現在、ヌセイラート地区で人質に関する問題について何も聞いていません。おそらくイスラエル軍は何人かの人質を確保しようとしているのかもしれませんが、はっきりわかりません。十分な情報がないので、なぜ突然ヌセイラート難民キャンプを攻撃したのか、その動機については推測するしかありません。

 これまでの例では、他の地域でイスラエル軍は人質を救出したり、人質の遺体を発見するために突然攻撃を仕掛けていていました。ヌセイラート難民キャンプでは、何も見つかっていません。

 事前の警告や注意なしに突然イスラエル軍が攻撃するときには、通常、人質を救出することが目的です。ハマスに事前に警告すれば、ハマスは人質の遺体を別の場所に移すかもしれません。

(ガザ地区の地図/作成・土井敏邦)
(ガザ地区の地図/作成・土井敏邦)

【ガザ地区北部の無人化を狙う「将軍の計画」】

(Q・前回、あなたは「将軍の計画」について言及しました。つまりガザ地区北部へのトラックでの食料や生活物資の搬入を阻止し、飢餓状態に追い込め、北部住民をガザ地区中部や南部に追い出す。残った者はハマスやイスラム聖戦の戦闘員だとみなし、壊滅する。その無人化した北部にイスラエルはユダヤ人入植地を建設する退役将軍ギオラ・アイランダの計画です。イスラエルの有力紙「ハアレツ」は、すでにその計画が実施されつつあると報じていますが?)

 まず、ガザ地区全般についてお話する必要があります。ご存知のように、ガザ地区北部はイスラエルにとってより大きな課題です。ガザ北部はイスラエルの都市に近いためです。

イスラエル南部には、アシュケロン市から北部のアシュドッド市、テルアビブ市など、ロッド市など、人口の多い都市が密集しています。これらの都市は、ガザ地区北部の都市と地理的に非常に隣接しています。

 「地政学」はとても重要です。国家やその政治にとって、地理や地理的な要素がとても重要なのです。地政学の視点から、ガザ地区北部はイスラエルの海岸沿いの主要都市やイスラエル国内の平野部に近く重要です。しかもガザ北部の人口密度は南部より非常に高い。ガザ市は人口100万人の都市です。私が話しているのはガザ市についてです。その人口は100万人です。

 ジャバリア難民キャンプは他のすべての難民キャンプと比較しても最大の難民キャンプです。ジャバリア難民キャンプとガザ市に加えて、 ベイトラヒヤ町やベイトハヌーン町などのもあります。ガザ地区の人口のほとんどは北部に集中しており、イスラエルとの国境沿いにあります。一方、ガザ南部の人口密度は低く、イスラエルの主要都市から遠く離れています。

 そして、ご存知のように、イスラエルの主要都市は工業都市であり、地中海に面した港を持っています。それらの都市のほとんどは、山でも砂漠でもなく、海岸平野に位置しています。だからガザ地区北部は、イスラエルの主要都市にとってより大きな脅威です。これが第一です。

 10月7日の越境攻撃についてよく考えてみると、重要なことがさらに理解できるでしょう。最も深刻かつ危険な攻撃はガザ地区北部から実行されました。つまり最も脅威的な攻撃はガザ北部から、ガザ市、ジャバリア、ベイトラヒヤなどから実行されたのです。なぜなら、先ほど述べたように、それらの場所はイスラエルの重要な都市の近隣だからです。

 エレズ検問所(イスラエルとガザ地区の間の検問所)へのハマスの攻撃は血なまぐさいものでした。イスラエル軍の兵士が数十名死亡しました。また、ジャバリア難民キャンプの東に位置するスデロット町に対する攻撃もありました。ハマスの戦闘員はスデロットに対して最も血なまぐさく、残酷な攻撃を仕掛け、数日間、スデロットの警察署を占拠しました。また町の内部では、多くの衝突が起こりました。

 つまり10月7日のハマスによる大規模な攻撃の最も残酷で激しい攻撃のほとんどは、ガザ地区北部、つまりジャバリア、ベイトラヒヤ、ベイトハヌーン、ガザ市に近い国境で実施されました。イスラエルがガザ北部に対して特別な報復を行ったのはそのためです。

 いわゆる「将軍の計画」については、現在のところ、イスラエルの内閣、イスラエル政府は、その計画を実行しているとはまだ公式に宣言していません。メディアの会見でも、イスラエル政府はジャーナリストから、「政府は今、将軍の計画を計画しているのか、していないのか?」と質問された際に、政府はコメントを拒否しました。

 

 しかしガザ地区北部で起きていることは、確かにこの計画が実施されているということです。ただ、今は、ガザ市はジャバリア難民キャンプのような攻撃を受けてはいない。ガザ市内の住民にも、南部に移動するよう命令、強制もまだされていない。だから、イスラエルが計画を実施していると言うにはまだ早いかもしれません。ガザ市に対してジャバリアと同じことが実施されるまでは、すでに「将軍の計画」が実施されているとは宣言できないかもしれません。

 ですから、ガザ市で何が起こるかを見れば、この質問に適切に答えられると思います。今後、数週間のうちに、答えが出るでしょう。今後、イスラエルが北部のジャバリア難民キャンプだけを止めるのか、それともガザ市の市街地や近隣地域にどんどん進軍するのか、見守りましょう。

(Qベイトラヒヤ・プロジェクト地区のあなたの友人の家族を、2018年と19年にインタビューしました。その家族の父親と息子が殺されたということですが?)

 父親のアティフ・ヒジャージと次男ムアーズは家がイスラエルの戦車で砲撃されに殺さました。れた。ええ、彼らの家は戦車の砲撃で破壊された。長男のムハンマドについては、今は何も情報もありません。私は彼に尋ねようとしました。近所の何人かが、ムハンマドは負傷したが、誰も彼を病院に運ばなかったと私に教えてくれました。おそらく彼はすでに死んでいるでしょう。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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