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福島からの証言・10(後半)

土井敏邦ジャーナリスト

(佐藤昌子さん/撮影・土井敏邦)
(佐藤昌子さん/撮影・土井敏邦)

【佐藤昌子】(2015年2月収録/郡山市在住)

【分断】

 福島は、線量で避難区域を決めました。避難区域内の人は賠償金をもらえましたが、避難区域外の人はもらえませんでした。避難した人と、被爆覚悟で留まるしかなかった人。「放射能は安全だ」と思っている人たちと、不安を抱える人たち。住民同士がいがみ合っています。それが分断だと思います。

(Q・誰が、また何が分断をさせているんですか?)

 国だと思います。意図的にです。住民をいがみ合わせておけば、国は思うようなストーリーを作りやすいんです。住民が何も言わなくなりました。放射能の話をみんなができるようになっていたら、福島県自体が大変な騒動になっていたと思います。しかしそのことを言葉に出来ないし、させないのです。妬みもあったと思います。避難民は、故郷に戻れなくて苦しい思いをしているのに、避難先の目は誹謗中傷も飛び交い冷ややかでした。富岡町からいわきに避難した親戚は、「絶対に避難しているとは言わない」と言っていました。

(Q・何がさせないんですか?)

 仲たがいしたくないからです。国のマスコミを動員し「復興」だけを推し進める政策が、少数派に意見を言わせなくなるんだと思います。特別な目で見られたくないし。疲れ果てて議論したくなくなってくるんです。家族でも「もう言わないでくれ!」だし、近所同士はもっと無理。線量の高い保育園に通わせているお母さんに伝えても同じです。

 ここの住民は“当事者”です。“当事者”はすべてが“現実”なんです。子供の保育園がすごく線量の高い所だとか、食べている物が放射能で汚染されているとか、放射能を吸い込んでいるとか。“現実”そのものなんです。諦めないで危険性を訴えようと思った人たちが、裁判の原告になったり、いろいろな活動をしています。

(Q・反原発論者から「線量の高い福島に住むべきではない」という声がありますね。「どうしてこんなところで子どもを生み育てるのか」と言う声も。)

 したくても出来なかったんです。被爆させない為に、誰もの生活が保障され、避難する権利を認めさせることが必要なんだと思います。反原発を唱える人たちのそういった声が、どれだけ福島の人に届いていたのかも疑問です。甲状線がんの子供が104人出たということも地元の人は知りませんでしたから。だからチラシを持って歩いた時に「えっ?」と驚かれたんです。ニュースでは意図的に流さないですから。

(Q・「福島民友」「福島民報」など地元紙は意図的にそんなニュースを流さないと感じますか?)

 地方紙は、私たちがほんとに伝えたいこと、知りたいことはほとんど流しません。流せなくなっていると聞いています。

(Q・意図的に?)

 意図的にそういう情報は操作されていると感じます。ネットを見てるい人は、情報を得ることが出来るけど限られた人だけです。「反原発」や、「放射能の危険性」のニュースには出会えないんです。「復興の為のイベント」のニュースは嫌でも毎日やっていて、テレビも「安全・安心」を植え付ける番組ばかりですから。それがマスコミの仕事になっています。そうやって、復興の為に団結しなければならないという機運を高めようとしているんだと思います。

(Q・そのバックに誰かいると思いますか?)

 財界、国がすべてを操作していると思います。県もそうです。

【二重基準】

 私は中村和夫さん(郡山市の農家)たちを支援していいます。うちで食べる野菜も中村さんのところから取り寄せているし、東京から来る人は必ずあそこへ連れていきます。農家の現実を知ってほしいからです。

 でも私が孫に食べさせる米は九州から取り寄せています。「ダブルスタンダード」(二重基準)に生きるしかないんです。東京の集会に行った時は、農民を支えるために中村さんを応援してほしいと訴えます。私も本当ににそう思っているし、彼の訴えを国が聞くまで応援したいと思っています。でも切ないのは、自分の孫に食べさせられるかというと、食べさせられない。一方で、自分たちは小出さんが言うように、もう歳だから食べています。

 もう一つは、友人の話です。お嫁さんが妊娠中です。友だちの作った野菜を食卓に並べるのが日常の食事だったけど、お嫁さんは、お腹の子供を心配して、恐がってご飯を食べてくれない。自宅で作った野菜を並べられるのは恐いって。友人は泣いていました。家庭の中が、とてもギクシャクした関係になっているって。そういう家はいっぱいあります。実家から貰った野菜や米も、そのまま棄てるというんです。「いらない」と言えないから、貰ってくるけど棄ててしまというんです。昔だったら、美徳だとされたことが、今の福島では逆になっています。

(佐藤晶子さん/撮影・土井敏邦)
(佐藤晶子さん/撮影・土井敏邦)

(Q・自己矛盾と闘っているんですね)

 一番難しいのが、消費者と生産者の問題、その関係性です。理屈では考えられないんです。消費者と生産者は同じ犠牲者です。農家の生活を守るために、農家に賠償させる取り組みを一緒に出来る関係性だと思っています。同じ方向でスクラムが組めます。でも、「誰にでも食べて」とは言えないのも本当です。

(Q・学校の給食で「地元の農産物を使う」という動きに、どう思いますか?)

 それが「復興キャンペーン」に使われています。「子どもたちが食べているから、安全なんだ」というキャンペーンに使われていることに、もの凄い怒りを感じています。

PTAでそれを訴えたら、「そんなことを言うだったら、ここから出ていけばいいだろう!」って、即座にバッシングを受けた方がいます。

【棄民】

(Q・「福島が見捨てられた」という感覚はありますか?)

 最初からあります。まず最初、モノが入ってこなかったということです。福島県民は「放射能が来るから」といじめられました。一番感じるのは、「逃げたいと思っているのに、逃げられない」ということです。「逃げればいいだろう」と言われるけど、逃げられるのだったら、みんな逃げています。状況のためにそれが出来ないから留まるしかないんです。そのために凄まじいキャンペーンが張られました。山下・長崎大教授(当時)は「100ミリシーベルト/時でも大丈夫だ」と宣伝しました。あれを聞いて留まった人もいます。私の友人もその一人です。友人の夫が、「福島があることで、東北の復興が進まないと言っているが、いくらでも福島を通ってくれ。その代わり自分たちは逃がしてくれ」と、言っていました。東北の復興の為に、福島の住民を避難させるわけにはいかないというのです。避難させるべきでした。

(Q・今もそう思いますか?)

 思います。子供たちの小児性甲状腺がんの2次検査で、また人数が増えています。郡山市が一番多くて、24人です。それなのに、子どもたちを留めたまま、復興を進めようとしています。小さい子どもさんを持っている人たちの多くが不安を感じています。しかし国は分かっているのに、それに何も対処しません。だから「棄てられた」と思っています。棄民です。

【オリンピックの影響】

(Q・何に対して一番怒りを感じますか?)

 国が、国民の話を聞かないことです。国が決めたら、国民はそれに従えと。逆だと思います。オリンピックで国民の意識を、福島からそらそうとしていることに怒りを感じます。

(Q・オリンピック招致を福島の人はどう見ていますか?)

 多くの人がオリンピックどころではないと思っています。それが当たり前の気持ちです。国はその後の、経済効果を期待しているのかもしれないけど、それに使うお金があるんだったら、その前に福島に回してくれよと、ほとんどの人は思っているはずです。

建築資材がオリンピックのために持っていかれてしまうので、福島に回ってこないんです。作業員もです。福島では2、3年待ちで、家を建てたり修理したりしています。

 今、除染労働者も足りません。みんなオリンピックの建設現場に行ってしまうからです。そのために工期が延びて、それでもどうしても期限までにやらなければならないと、「手抜き除染」になります。そういう傾向が多く出ているそうです。本当は土を剥がなければならないのに、剥がない。仮設住宅にいる人をあのまましておいて、オリンピックどころではないと思うんです。

(佐藤晶子さん/撮影・土井敏邦)
(佐藤晶子さん/撮影・土井敏邦)

【なぜ自民党か】

(Q・原発に反発する福島県民が、どうして原発政策を推進してきた自民党に投票するのでしょうか?)

 イデオロギーで選挙に行く人は少ないと思います。反原発派が少ないとは思っていません。でも選挙は別物です。農家も多いし、保守層です。政治に対し「どうせ変わらない」という諦めもあって投票にも行かない。政治に無関心になり、無気力にされてしまうことに不安を感じます。

(Q・福島を忘れかけている人に何を言いたい?)

 原発がある限り、「第二の福島」が起こらない保証はありません。私たちは原発の苦しみを経験してしまいました。そこからいっぱい学んでほしいんです。すべてを放射能で汚染され、故郷を奪い、仕事を奪い、人間関係を奪い、これまで築き上げた、人生の過去も未来も奪いました。命もです。分断で住民のいがみ合いも起きました。簡単に避難などできません。今も、除染廃棄物を焼却し放射能をまき散らしています。放射能の恐怖は今も続いています。忘れてしまうことで得をするのは、国と、原発推進派だけです。どうか福島を忘れないでください。(了)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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