東京五輪代表、初戦敗退でもプロでは価値あり
鍛えられた上半身の筋肉は38歳とは思えないほど隆々だった。アルゼンチンからやってきた37勝(22KO)4敗1分マルセリノ・ロペスは、2017年10月から挙げた5つの白星を全てノックアウトで飾っていた。とはいえ、2021年3月20日を最後に勝利から遠ざかり、2連敗中の選手だった。
そのロペスの相手は、13戦全勝8KOのドミニカ人で東京五輪に出場したロハン・ポランコ(25)。ここまで読めば、上り坂の若手に、斬られ役がぶつけられた一戦だとご理解いただけるだろう。
マディソン・スクエア・ガーデンで行われたウエルター級10回戦は、元オリンピアンが初回から積極的に手を出した。フリッカーに構え、ジャブ、左フック、ボディへの右ストレート、2つのジャブからの右ストレートをヒットし、早くもペースを奪う。
38歳は受け身に回るばかりで手が出ない。多少フットワークも見せたが、あくまで逃げの足だ。2ラウンド開始早々にドミニカンの左ボディアッパーを喰らったアルゼンティーナは動きが鈍り、さらに防戦一方となる。時折、左フックで反撃したが、自ら下がりロープを背にするシーンが目に付いた。
3回以降は、――いつ期待の若手がベテランを倒すか――といった内容になっていく。余裕のあるポランコは、ガードを低くし、ローブローを交えながら、様々なアングルから力を込めたショットを放った。そして、第3ラウンド残り11秒に右アッパーをヒットし、ダウンを奪う。カウント8で起き上がったアルゼンティーナだったが、自身のコーナーを間違えるほど、深刻なダメージを負っていた。
翌4ラウンド、強弱をつけずに一発一発、ノックアウトを狙ってフルスイングするポランコの右フックを浴びたロペスが、自ら左膝をつく。この時点で既に心は折れていた。ただ、25歳の若さか、ここからポランコは雑になる。コンビネーションは打たず、2発のパンチでフィニッシュする策を選んだ。リング上で笑みを浮かべるシーンもあった。
結局、6回にもロペスが2度、自分から膝をつき、試合は終了した。東京五輪には2回戦から登場し、初戦で姿を消したポランコだが、“オリンピアン”ならではの恩恵を受けている。それにしても、勝敗の行方が簡単に見えるマッチメイクは、面白みに欠ける。