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サウナ×SFで配信で話題に。ととのい未経験の看板娘役で「暗いと言われて無駄な動きをたくさん入れて」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『銀河健康センター』に主演の田中なつ (C)映像製作団体 友

砂の惑星に建つ、さびれたサウナ施設が舞台の短編映画『銀河健康センター』が配信されて、話題を呼んでいる。サウナ×SFという異色の世界観。ホームセンターで揃えた材料で美術を手作りする“DIY映画”の坂田敦哉監督の最新作で、3部構成の第1弾だ。水風呂がなく「ととのい」を知らない施設の看板娘の役で田中なつが主演している。『浮かぶ』など陰のある役が多かったが、これまでになくコミカルな味わいも見せている。Xでの「俳優に一度区切りをつけて」との投稿の真意も聞いた。

オーディションでは体調が悪くて

――『銀河健康センター』のトト役は、坂田監督から声が掛かったんですか?

田中 オーディションがありました。大まかな台本もできていて、サウナ×SFというのが新しいなと思って。私はわりと静かな役が多くて、トトのようなキャラクターは演じたことがなかったので、気になって事務所から応募しました。

――オーディションではどんなシーンをやったんですか?

田中 トトが銀河の最強ドリンクを作るシーンとか、いくつかありました。たまたま監督がその場にいなくて、パソコン越しにリモートで指示を受けながら演技をしたんですけど、手応えは全然なくて。その日、体調がすごく悪くて、めっちゃ暗かったんです。

――トトは明るいキャラクターですけど。

田中 もっとトトに合いそうな人もいたと聞きました。でも、監督が何かを感じてくださったのか、選んでいただきました。

――田中さんは確かに、以前に主演した『浮かぶ』など暗めな役が多い印象があります。コミカルなテイストの作品は、自分で観てはいました?

田中 むしろ、そういう作品ばかり観ています(笑)。最近だと2回目の『記憶にございません!』を観たり、ああいう感じのコメディが好きです。

落ち込んだときにゾンビ映画を観ます

――SF作品はどうですか?

田中 ゾンビものは好きです(笑)。『ウォーキング・デッド』とかも押さえつつ、あまり知られてないB級のゾンビ映画もとりあえず観ます。タイトルは忘れちゃったんですけど、ゾンビが人の脳を食べて、その人の記憶が見えて、事件を解決するドラマも面白かったです。

――ゾンビものをどんな気持ちで観ているんですか?

田中 ゾンビって、たぶん実際にはいないじゃないですか。だからこそ観られる、というのはあります。気分が落ち込んだときは絶対、重い作品よりリアルでない作品を観ています。

――落ち込んだときに観るのが、ゾンビ映画なんですか(笑)。

田中 そうですね。私だったら、どうやって逃げようかと考えながら(笑)。

最初は台詞が少なかったのが変わりました

――今回のトトはガッツリ役作りをするより、ノリ的なものを重視する感じでした?

田中 撮影に入る前に監督とキャストが集まって、「ここはどう思っているの?」とか話し合いました。そこはしっかりやっています。監督がCM制作会社の方なので、立ち位置まで細かく決められたり、ものを撮るのに時間を掛けていたりするのが新鮮でした。

――演技で悩むこともありました?

田中 撮影を何回かに分けて、最初に撮ったときは「暗い」と言われました(笑)。やっぱり私は暗い役が多いので、「これはSFだから、そういうのは要らない」というところがあったらしくて。それからまた話し合って、次の撮影では、台本でトトが最初とだいぶ変わりました。

――どんなふうに?

田中 最初は台詞が少なくて、感情面もカラッとした感じだったんです。それが、サウナに対してこう思っているとか、実はこんな背景があるとか、みんなで共有できました。

落ち着きのない感じが出るように

――「暗い」と言われたのは、どう変えたんですか?

田中 自分が思っていた倍は明るくするようにしました。撮影の直前まで佐田(淳)さんとワイワイ話して、テンションが高いままで撮ったり。あと、あえて無駄な動きをたくさん入れてみました(笑)。気が散って違うところを見ていたり、落ち着きのない感じが出るように。

――普段の田中さんと比べると?

田中 私は意外と暗くありません(笑)。今までの役のイメージで、会った人に「思ったより明るいね」と言われます。口数も少ないわけではないので、普段はわりとトト寄りです。

――トトを演じるときに、さらにギアを上げたわけですか?

田中 はい。エネルギーを使いました。

セットが手作りでマンガから出てきたみたいで

――坂田監督はセットをDIYで作ることで知られていますが、そこも新鮮でした?

田中 本当に全部手作りなんです。だから、銀河健康センターの2階のベランダで撮影していると、「床が抜けるから荷物はどかして」とか、そういうことが多くて面白かったです(笑)。

――あの建物も手作りなんですね。

田中 そうなんです。足元がちょっとグラグラしましたけど(笑)、現場では普通の住宅や工場の真ん中に、銀河健康センターの世界があって不思議な感じでした。マンガから出てきたみたいで。

――ロボットのロウリュは動いていました。

田中 実は床下にスタッフさんが2人いて、手と繋がってる棒で動かしていたんです。本職は美術とかの方で、最初は動きがぎこちなかったのが、だんだんうまくなって。最後のほうは、ロウリュ君が本当に生きているみたいでした。

――水を積んできた宇宙船は、間近で見るとどんな感じでした?

田中 銀河最新型という設定ですけど、ちょっとチープな感じで(笑)。でも、鳥取砂丘にボーンと置いてあると、この世界にそのまま来た気分になれました。

真夏の砂丘での撮影は暑くて暑くて

――鳥取砂丘での撮影は大変なこともありました?

田中 本当に大変でした。去年の真夏に撮っていたので、もう暑くて暑くて(笑)。私の衣装は長袖でしたけど、直射日光に当たらないので、かえって良かったです。こまめに水を飲んでも、汗で全部出ちゃって、トイレには全然行きたくならなかったくらい。熱中症になりそうで、みんな疲弊していました。

――頭がクラクラしたりも?

田中 そんなに長いシーンはなかったので、1カット撮ったら、すぐ日陰に入ったり日傘を差したりして、大丈夫でした。たぶんスタッフさんのほうが、ヤバかったと思います。

体を張って跳ねるように転びました

――夜の砂丘を叫んで走って、転ぶシーンはどうでした?

田中 撮ったのは夕方でしたけど、1回で終わらせるつもりでやりました。砂丘に足跡が付いてしまうと、戻るまで時間が掛かるので。実際は演技以外のことで問題があって、2回撮っています。心情的には重いシーンで、気持ちを作るのは苦労しました。

――転ぶお芝居も難しいものですか?

田中 そうなんです。バーンと跳ねるように転ぶ、ということで、あまり細かい演出はなく、とりあえずやってみようと。

――練習したりは?

田中 しませんでした。ぶっつけ本番です。1回目で思い切り転んだら、体を強打して痛かったです。でも、絶対に1回で決めたい想いがあって。砂だったのでケガをしそうな怖さはなく、勢いを付けて体を張りました。

『銀河健康センター』より (C)映像製作団体 友
『銀河健康センター』より (C)映像製作団体 友

真冬の極寒に大量の水を浴びて

――宇宙船から放出された大量の水を、頭からかぶるシーンもありました。

田中 あれも真夏に1回でOKを出すつもりで2回撮って、結局はそれもNGになりました。現場ではOKが出たんですけど、映像を改めて観たら、タイミングとか水の感じとかダメだったみたいで。それで、真冬に撮り直したんです。

――別の意味で大変でしたか。

田中 もう寒くて寒くて(笑)。真夏だと濡れてもボーッと立っていたら、すぐ乾いたんです。真冬は極寒の中で大量の水を浴びて、1回で終わらせましたけど、カットが掛かった瞬間、すぐ控え室に駆け込みました(笑)。水の勢いもすごくて、頭がグワーッと持っていかれそうになるのを耐えました。

水風呂と3セットで何となくととのいます

――もともとサウナには馴染みがあったんですか?

田中 友だちに誘われたら一緒に行ってました。自分から行こうということは、たまにしかないです。

――トトが知らなかった「ととのう」感覚はわかりますか?

田中 水風呂と3セットとかやったことがあるので、何となくわかります。台詞の通り、疲れもイライラも吹き飛ぶというか。

――他にもストレス発散ですることはありますか?

田中 私は溜め込んでしまうほうなので、とにかく友だちと話して、スッキリさせます。

学校から帰ると再放送のドラマを観てました

――田中さんは小さい頃から、テレビっ子だったそうですね。

田中 毎日学校から帰ったら、再放送のドラマを観る生活でした。『相棒』は必ず観ていて、あとは『科捜研の女』とか『コード・ブルー』とか。

――それが直に、自分もやりたいと結び付いたんですか?

田中 何となく、こういう世界は面白そうだなと思っていたとき、たまたま映画のオーディションがあって。「これだ!」と受けて、急に飛び込んだ感じです。

――それが募集時間が約100時間だった『アイスと雨音』ですね。中止になった舞台公演をやろうとする若者たちの話を74分ワンカットで撮って、森田想さん、田中偉登さん、青木柚さんらが出演していた中、田中さんは演技未経験で参加したと。

田中 年が近い人たちと、稽古から2週間くらいずっと一緒にいました。他ではできない経験で、演じるのはすごく面白いなと思いました。

不安定な時期にしかできない役でした

――最初から演技が楽しい感覚があったんですね。

田中 『浮かぶ』も撮ったのは19歳のときで、かなり前ですけど、去年まで上映されていて。みんなと年に1回、同窓会みたいに会っていました。ちょっと大変な作品でしたけど、みんなといっぱい話して作っていった記憶があります。

――妹が神隠しにあっていたことに複雑な想いを抱く役でしたが、今観ると、どんなことを感じますか?

田中 余裕がなかったですね。当時はもう必死だったので。でも、不安定な19歳から20歳のあの時期にしか、できなかった役だったと思います。

俳優以外のこともやってみたい気持ちに

――2月に事務所の退所報告のXで、「俳優という職業に一度区切りをつけ、新しい環境に飛び込む覚悟を決めました」とありました。引退するということですか?

田中 まだ完全にやめるかどうかは……というところです。私は18歳で大学進学も兼ねて大阪から東京に出てきて、7年になりますけど、世の中には芸能の仕事しかないと思っていたんです(笑)。そしたら、大学の友だちが就職していって、意外と仕事っていっぱいあるんだなと。私はこの世界しか知らなかったから、他のこともやってみたい気持ちが湧いてきました。

――監督とかプロデュースとか制作側に回る、ということでもなくて?

田中 そういうことにも興味はあって、やろうとしたときもありましたけど、タイミングが合わなくて。今はまったく関係ない仕事をやりたいと思っています。マネージャーさんに相談したら、「社会人経験がある役者とない役者で差は出るから、一回会社勤めをしてみるのもいい」というお話でした。

まず会社に勤めたくて、その先はわかりません

――女優業に飽きたとか、行き詰まったわけではないんですね?

田中 そういうことではないです。単純に他の世界も見てみたくて。この世界は時間も不規則ですけど、会社勤めの方は9時から6時とかで働いていますよね。そういう仕事をしてみたいんです。社員証をピッとやって会社に入りたい(笑)。

――キラキラした芸能界から毎日定時で務める会社に入ったら、退屈に感じないですかね?

田中 私はそういうことはないと思います。たとえば、朝ドラの『虎に翼』を観てから出掛けるようなイメージです(笑)。

――会社で「はて?」とはなりませんか(笑)?

田中 確かに「会社で敵を作ったらいけない。自分に落ち度がなくても上司に謝る」という話も聞きます。理不尽だなと思いますけど、芸能界とは全然違うところがあるのは新鮮な気もします。

――やりたい職種はあるんですか?

田中 何であれ、まず会社に勤めたい気持ちがあります。その先はわかりません。芸能界に戻るのかどうか。お話があればやるかもしれませんし、具体的には何も決めていません。

自分で自分の中身を作っていけるように

――では、もしかしたら『銀河健康センター』が最後の作品になるかもしれませんが、3部作の2部と3部は、これから撮影なんですよね?

田中 そうです。監督も平日はご自分の会社のCM制作の仕事があるので、いずれにせよ、2部も3部も土・日を使ったり、お盆とかの長い休みに撮影することになりそうです。

――ストーリーの大枠は決まっていて?

田中 トトが幻のアロマストーンを手に入れるために宇宙に旅立って、新しいキャラクターも出てくるようです。

――改めて田中さん的には、この作品の面白みはどんなところだと思いますか?

田中 やっぱりサウナ×SFというのは新しいジャンルで、見たことのない世界を体験してほしいです。1部を自分で観ると、短く感じました。かなり撮影したのに、テンポが速くてギュッとなっていて。サウナに行く前か行ったあとに、気軽に観てもらうのもいいですね。

――そして、現在25歳の田中さんは、20代後半をどう過ごしていきますか?

田中 今まで、ひとつのことを長くやっていたので、もっといろいろなことを吸収していきたいです。それで、自分で自分の中身を作っていける人間になれたらと思います。

Profile

田中なつ(たなか・なつ)

1999年4月19日生まれ、大阪府出身。2018年に映画『アイスと雨音』でデビュー。主な出演作は映画『テロルンとルンルン』、『賭ケグルイ』、『浮かぶ』など。短編映画『銀河健康センター』が配信中。公開中の映画『思い立っても凶日』に出演。

『銀河健康センター』

監督・脚本・編集・特殊造形/坂田敦哉

出演/田中なつ、栗田かおり、渡部直也、佐田淳ほか

Amazon プライム・ビデオ、ビデオマーケット、music.jp、カンテレドーガ、FODで配信中

(C)映像製作団体 友
(C)映像製作団体 友

荒廃した砂の惑星に寂しくたたずむサウナ施設「銀河健康センター」。水風呂の枯れたサウナにお客は来ない。看板娘のトトは文字通り看板を磨くだけの退屈な日々を過ごしていた。ある日、大量の水を積んだ宇宙船が不時着。「ととのい」を求めて三光年、壮大な“星おこし”が始まる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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