最低賃金の引き上げより不足分を配った方がよい理由
先日、厚労省の中央最低賃金審議会が最低賃金を全国平均で26円引き上げるべきとの答申を出しました。引き上げ幅は2002年以降で最大で、このペースでいけば東京都は来年にも1000円を突破するはずです。
一方で、格差是正のためにさらなる引き上げを要求する声もあります。最低賃金はどこまで引き上げるのが適切でしょうか。
【参考リンク】最賃目安額 生活保障に遠く/今すぐ1000円 めざせ1500円
既にアルバイト時給が1000円を超えている東京都なら、最低時給1500円に耐えられるかもしれません。でも産業の少ない地方の中小企業では廃業に追い込まれる企業が続出するはずです。ちなみに昨年度の最賃引き上げで最賃を下回った労働者の割合は、従業員数30人未満の零細企業で11.8%に上りました。
「付加価値の低い産業から高い産業へ人を移すのが成長戦略だ」と考える人は、学者や官僚の中にも少なくありません。でも、現実問題、地方の廃業した中小企業から都市部に転職する人がどれだけいるでしょうか。
筆者の田舎にも「時給700円くらいで漬物工場で働いているお爺さんお婆さん」がいますが、あの人たちが街に出て働くとはとても思えません。少なからぬ数の失業者が福祉のお世話になるだろうというのが筆者の見方です。
本来、格差是正の主役となるのは、企業ではなく政府のはずです。そこで発想を変え、雇い主ではなく、政府が社会保障給付として不足分を支給するのがベストでしょう。最低限度の生活を送るためには時給換算で1500円程度必要だというのであれば、その差額を「負の所得税」のような形で一律で支給するイメージです。
これなら働ける人たちのモチベーションを削ぐこともなく、人手不足の日本で労働市場への参加者を増やす効果も見込めるでしょう。本来、大きな政府を志向するリベラルにとっても「出来るかどうか、いちかばちかで民間企業に丸投げする政策」よりも親和性が高いはずです。