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なぜメッシは“衰えない”のか?エムバペ、ヴィニシウス…バロンドール受賞と次を狙う新たな世代。

森田泰史スポーツライター
ドリブルするメッシ(写真:ロイター/アフロ)

世界最高の称号を、再び手にした。

現地時間の10月30日に2023年のバロンドールの授賞式が行われた。受賞を果たしたのは、リオネル・メッシ(インテル・マイアミ/アルゼンチン代表)だった。

写真:ロイター/アフロ

「バルセロナでプレーしていた時、多くのバロンドールを獲得することができた。また、この数年の2つのトロフィーは、アルゼンチン代表での活躍が評価されてのものだと思う。でも、今回のものは特別だ。ワールドカップがあった後の賞だからね。それが意味するところは大きい。特別で、違いのある一年だった」とはメッシの言葉だ。

「バルセロナでは、史上最高のチームでプレーさせてもらった。素晴らしい数年を過ごした。すべてを勝ち取った。ワールドカップのタイトルだけが、僕に欠けていた。誰もが世界王者になりたいと憧れると思う」

■メッシの挑戦

メッシが初めてバロンドールを受賞したのは2009年だ。

2008−09シーズン、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるバルセロナは“無双状態”だった。チャンピオンズリーグ、リーガエスパニョーラ、コパ・デル・レイ、スーペル・コパ・デ・エスパーニャ、UEFAスーパーカップ、クラブ・ワールドカップ(W杯)と6つのタイトルを獲得。前人未到のセクステテ(6冠)を達成したチームとなった。

メッシとグアルディオラ監督
メッシとグアルディオラ監督写真:アフロ

そして、そのシーズンを終えた後のバロンドールで、メッシが1位に選ばれた。グアルディオラ監督の下、ファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)という戦術を伴い、メッシは得点能力を開花させた。

“ペップ・チーム”と呼ばれたバルセロナは、スペインと欧州を席巻。グアルディオラ政権(2008−2012)で、バルセロナはチームとして14個のタイトルを獲得した。なお、2008年から2012年までの期間で、メッシは4度バロンドール受賞を果たしている。

■アルゼンチン代表で苦しむ日々

所属クラブで活躍する一方、メッシはアルゼンチン代表で苦しんでいた。

メッシは2006年のドイツ大会で初めてW杯のピッチに立った。その時はヤング・タレントの一人で、アルゼンチン代表の上位進出が彼の双肩にかかっているという期待はなかった。

いつか、メッシがジュール・リメ杯を手にするーー。アルゼンチン国民の想いはしかし、悉(ことごと)く裏切られることになる。2010年の南アフリカ大会(ベスト8)、2014年のブラジル大会(準優勝)、2018年のロシア大会(ベスト16)とアルゼンチン代表はタイトル獲得に至らなかった。

強さを取り戻したアルゼンチン代表
強さを取り戻したアルゼンチン代表写真:ロイター/アフロ

メッシとアルゼンチン代表について語る時、言及せざるを得ない人物がいる。ディエゴ・マラドーナである。

マラドーナは、1986年のメキシコW杯で、母国にジュール・リメ杯をもたらした。「神の手」「5人抜き」という伝説的なプレーを残し、圧倒的なパフォーマンスでアルゼンチンを優勝に導いた。

小柄で、左利き。テクニック、ドリブル、ラストパスの精度…。メッシとマラドーナの類似点は多かった。いや、あまりに、似過ぎていた。ゆえに、メッシに対する希望は募るばかりだった。

■代表引退の撤回と新たな世代

メッシは厳しい日々を過ごしていた。2016年には、一度、代表引退を表明。心身ともに疲弊していたのは間違いないだろう。

だが引退を撤回してカムバックしたメッシに、チャンスが訪れる。ロドリゴ・デ・パウル、エンソ・フェルナンデス、ラウタロ・マルティネス、アレクシス・マク・アリステル、フリアン・アルバレスといった、「メッシに憧れていた」世代が台頭。素晴らしいジェネレーションに恵まれ、強いアルゼンチンが戻ってきた。

アルゼンチンは2019年以降、無敗記録を更新していった。2022年のカタールW杯ではグループステージ初戦でサウジアラビアに敗れたが、立ち直り、一気にタイトル奪取まで駆け抜けた。

35歳で迎えたカタールW杯、メッシは輝きを放っていた。経験に裏打ちされたプレーは当然ながら、何より、チームメートとアルゼンチン国民が求めていたリーダーシップを如何なく発揮。最後はメッシが何とかしてくれる。その信頼に支えられているアルゼンチン代表は非常に強かった。

メッシは7試合で7得点3アシストを記録。フランス代表と対戦した決勝では、キリアン・エムバペと“ゴールショー”を演じ、PK戦(4−2)の末に劇的な形で幕引きを行った。メッシがマラドーナに並んだ瞬間だった。

カタールW杯決勝のメッシとエムバペ
カタールW杯決勝のメッシとエムバペ写真:ロイター/アフロ

「メッシのようなケースは、今後、生まれないだろう。ロス・ヘニオス(天才)を分析するのは難しい。例えば、目標を達成する際、他の選手が1万メートル走る必要があるところで、メッシは7000メートルで済ませてしまう。また、メッシは感情的にプレーしない。それもひとつの要素だ」とはメッシのフィジカルトレーナーを務めるフアン・ブラウの弁だ。

「そして、栄養面だ。スポーツ的なサプリメントを含めて、近年、非常に進化している。それが、メッシのキャリアを長く持続させたのだと思う」

競り合うハーランドとヴィニシウス
競り合うハーランドとヴィニシウス写真:ロイター/アフロ

メッシの枠を別に作るべきだ。先日、グアルディオラ監督が冗談まじりにそのように語っていた。

ただ、8度目のバロンドール受賞を経て、「メッシ時代」は終わりを告げるだろう。エムバペ、アーリング・ハーランド、ヴィニシウス・ジュニオール…。メッシ自身が認めていた通り、今後、そういった若い選手たちが世界一の称号を争う流れになる。

彼らはメッシに追いつけるだろうか。メッシがマラドーナの呪縛に縛られ、最終的に解き放たれたように、フットボールの世界は続いていく。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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