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ブリティッシュ・ブルースの逆襲。ザ・バッド・デイ・ブルース・バンド登場

山崎智之音楽ライター
The Bad Day Blues Band / P-Vine Records

英国ロンドンのソーホー地区は、数々のブルース・ミュージシャンを育んできた。1960年代のザ・ローリング・ストーンズ、ヤードバーズ、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、フリーなどはソーホーのブルース・シーンで腕を磨き、世界へと羽ばたいている。

そして2021年、ブルース新世代の担い手と期待されるのがザ・バッド・デイ・ブルース・バンドだ。彼らのデビュー・アルバム『テーブル・バイ・ザ・ウォール』には、濃厚なブルース&ロックと鮮烈なエネルギーが込められている。

ヴォーカルとベースを担当するアダム・リグが、バンドの成り立ちとその音楽性、そしてブルースへの想いを語った。

The Bad Day Blues Band『Table By The Wall』ジャケット(P-Vine Records / 2021年2月5日発売)
The Bad Day Blues Band『Table By The Wall』ジャケット(P-Vine Records / 2021年2月5日発売)

<懐古趣味のブルース・バンドではなく、現代ならではのエッジがある>

●ザ・バッド・デイ・ブルース・バンドの音楽をどのように表現しますか?

ありったけのエネルギーを込めた、生々しいブルース&ロックだ。あまり洗練されていない、エッジのある音楽だよ。俺たちは基本的にライヴ・バンドで、一番輝くのがステージの上だ。『テーブル・バイ・ザ・ウォール』の課題は、どこまでライヴの熱気を込められるか...だった。良い仕上がりになったと思うよ。

●バンド名に“ブルース・バンド”と入っていますが、ブルースに対しどんなこだわりがありますか?

ブルースから多大な影響を受けてきたし、昔のブルースを聴くのも大好きだけど、俺たちはどちらかといえば“ハーモニカの入ったロック・バンド”なんだ。結成当初は正統派のブルースをやろうとしたけど、12小節のブルースにこだわり過ぎると、自分たちの音楽性に制限を設けてしまうことに気づいた。常に自分自身に挑戦し続けたいんだ。

●バンドはどのようにして結成したのですか?

2017年、ロンドンのソーホーにある“エイント・ナッシング・バット・ザ・ブルース・バー”のジャム・ナイトを訪れたことで、バンドを結成することにしたんだ。“エイント・ナッシング・バット〜”は1993年に開店した、現代イギリスのブルース・シーンの中心といえるクラブだよ。俺はしばらくギターやベースを弾いていない時期で、友人のニック(ペック/ギター)に誘われて行ったんだ。その日はジャムに参加せず、見ていただけだけど、最高に楽しそうで、音楽への愛情を新たにした。絶対にバンドをやらなきゃと思ったんだ。それでハーモニカ奏者とドラマーを見つけてバンドを結成した。それからライヴをやるようになって、比較的早くにレコード会社からオファーを受けたのは、懐古趣味のブルース・バンドではなく、現代ならではのエッジがあったからだったと思う。

●1960年代後半ソーホーのブリティッシュ・ブルース・ブームから影響は受けましたか?

もちろん!ジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズやフリートウッド・マック、ヤードバーズなどは大好きだし、いつもレコードプレイヤーで聴いている。ソーホーはイギリスのブルースの発信地だったんだ。伝説的なクラブだった“マーキー”や“フラミンゴ”は閉店してしまったけど、“100クラブ”は健在だし、俺たちも何度もプレイしている。今では“エイント・ナッシング・バット〜”がロンドンのブルース・シーンの中心となっているよ。

●メンバー達はどんなアーティストから影響を受けてきましたか?

俺は初めて買ったレコードがザ・ビートルズだった。それから昔の音楽が好きになって、ハンブル・パイ、ザ・ローリング・ストーンズ、アニマルズ、フェイセズ...憧れのシンガーはスティーヴ・マリオットだ。ロバート・ジョンソンやサニー・ボーイ・ウィリアムソンも好きだけど本気でハマっているのは1960年代以降の音楽だな。ニックはもっとロック寄りの、ガンズ&ローゼズとかが好きだ。サム(スプラングラー/ハーモニカ)はダーティーなブルース・ハープを得意としていて、1920年代から40年代の戦前ブルースに傾倒している。

●メンバー達の年齢を教えて下さい。

俺とアンドレア(トレモラーダ/ドラムス)は39歳、ニックが年上で40歳だか41歳だ。一番若いサムが27歳だよ。みんな決して若手ではないけど、それなりに人生経験を積んだ方がブルースという音楽は味が出るんだ(笑)。

●あなた自身の音楽遍歴を教えて下さい。

俺はイングランド北部ハートルプール出身なんだ。11歳のときにベースを始めて、クリーム時代のジャック・ブルースのコード進行を軸にしてインプロヴァイズするスタイルから影響を受けた。20歳ぐらいまでブルース・ロックのバンドでプレイしていたけど、その後にロック・バンドに入って5、6年ぐらいやっていた。ちょうどリバティーンズとかが出てきた時期だった。それから3、4年ぐらいバンドから離れていたんだ。それで“エイント・ナッシング・バット〜”に行って、ザ・バッド・デイ・ブルース・バンドを組むことにしたんだ。このバンドでの初ライヴは2017年で、それからイギリス中のクラブを回って、そしてワイト島フェスティバルにも2018年・2019年と連続して出演した。そのあいだオリジナル曲を書き溜めて、ネットで公開してきたけど、『テーブル・バイ・ザ・ウォール』をイギリスでは新興のルナリア・レコーズ、日本ではP-ヴァイン・レコーズから出して、本格的に出撃するところだ。とてもスリルを感じているよ。

●ワイト島フェスティバルに出演することは、あなたにとって大きな意味のあることですか?

もちろん!ワイト島フェスティバルといえばジミ・ヘンドリックスやロリー・ギャラガー、フリーが出演したことで思い入れがあるんだ。まさに伝説的な野外フェスだよ。近年ではロックやブルースは減って、よりコマーシャルなフェスになったけど、それでもクールなイベントだし、毎年でも出演したいね。

The Bad Day Blues Band / courtesy P-Vine Records
The Bad Day Blues Band / courtesy P-Vine Records

<通常の評価基準に囚われない独自のブルース>

●20世紀に生まれたブルース音楽を21世紀に継承する義務感はありますか?

自分たちがブルースの王道を受け継ぐなんて大それたことは考えてないけど、自分たちを入口にして若い世代の人たちがブルースを聴くようになったら最高だ。最近では若者がストリーミングのプレイリストを経由して昔のブルースを発見したりするし、俺たちにもチャンスがあると思うよ。ただ、過去を踏襲するのではなく、ブルースの新しいヴァージョンでありたいね。

●ライヴでブルースの名曲をプレイしたりしますか?

「ホールド・オン(アイム・カミング)」はサム&デイヴの曲で、ブルースではないけど名曲だよ。素晴らしい曲だし、俺たちのような新人バンドが一般の音楽リスナーから注目を得るにはピッタリの曲だ。それでビデオを作って、バンドの名刺代わりにしたんだよ。それからマディ・ウォーターズの「フーチー・クーチー・マン」もプレイしていて、ライヴ・ヴァージョンを日本盤CDのボーナス・トラックとして収録している。ブルース・クラブで3時間ぐらいプレイするときはクリーム・ヴァージョンの「クロスロード」を10分ぐらいジャムしたり、オーティス・レディングの「ミスター・ピティフル」、B.B.キングの「エヴリディ・アイ・ガット・ザ・ブルース」のファンキー・ヴァージョン、ブルース・ブラザーズのレパートリーなどをやっているよ。

●あなた達はイギリスの“ザ・デジタル・ブルース・アワード”で2019年のベスト・ニュー・ブルース・バンドに選ばれましたが、自分たちと同世代の盟友などはいますか?

まず頭に浮かぶのはライヴァル・サンズだな。多くの人は彼らをロック・バンド扱いするだろうけど、ギター・リフにはブルースの要素を感じるよ。タイラー・ブライアントやラーキン・ポーもお気に入りだ。ブルースは決して死に絶えてなんかいない。みんなそれぞれ異なった新しい解釈をしながら、健全なシーンを形成しているんだよ。もちろん俺たちの音楽を聴いて「あんなのブルースじゃない!」と言う人もいるだろうけど、俺たちは既存のブルースを繰り返しているわけではないし、むしろ褒め言葉と捉えているよ。

●ブルース以外ではどんな影響を受けましたか?

クラシック・ロックとソウルかな。ベースを弾いていると、ソウルやファンクからいろんなヒントを得るんだ。マーヴィン・ゲイやスティーヴィ・ワンダーとかね。ジェイムズ・ジェマーソンのプレイからも影響を受けたよ。ブラック・サバスやメタリカのようなヘヴィ・メタルも好きだけど、あまりエクストリームになってしまうと付いていけない(苦笑)。

●「ビー・ケアフル・ホワット・ユー・ウィッシュ・フォー」のファルセット・ヴォイスがスパークスっぽく感じましたが、それは偶然ですね...?

ハハハ、言われてみれば確かにそうだ(笑)。スパークスからの影響はないと思うけど、「ディス・タウン」とかは好きだよ。この曲のヴォーカルはザ・ビートルズの「アイヴ・ガッタ・フィーリング」のハーモニーからインスピレーションを受けたんだ。曲はまったく似ていないけどね。

●『テーブル・バイ・ザ・ウォール』では、アルバムとしてのトータル性は考えていますか?

これまでデジタルでシングルを発表して、曲数も揃ってきたし、アルバムを出すことにしたんだ。EP『The Abbey Road Session』からの曲もリミックスして収録している。プログレッシヴ・ロックのアルバムみたいなトータル・コンセプトやストーリーはないけど、起承転結があるし、1枚のアルバムとしての流れがあると思うよ。

●『テーブル・バイ・ザ・ウォール』をアルバム・タイトルにしたのは?

内輪のジョークなんだよ。世界一おいしいオイスター・バーは?...という話になって、ニューヨークのグランド・セントラル駅にあるオイスター・バーが候補に挙がったんだ。通常レストランで良い席というと景色の見える“テーブル・バイ・ザ・ウィンドウ”だけど、その店は窓がないんで、“テーブル・バイ・ザ・ウォール=壁際”が良い席なんだよ。通常の評価基準に囚われない独自のブルースというメッセージを込めているんだ。

●アルバム発表後、新曲は書いていますか?

もう2枚目のアルバムに向けて曲を書いているんだ。アルバム半分ぐらいは書いたかな。ライヴを出来ないから、そのぶん曲作りに専心したよ。1曲単位で発表していくか、アルバムとしてまとめて出すかまだ判らないけど、俺はオールドスクールだし、アルバムとして出すことになると思う。大勢の人がファースト・アルバムを聴いてくれて、セカンド・アルバムも聴いてくれたら嬉しい。2022年には次のアルバムを出して、ツアーに出たいね。『テーブル・バイ・ザ・ウォール』を発表することになって、バンドにとっても俺にとってもすごくエキサイティングな時期だよ。

●これからどんな音楽を追求していきますか?

生のブルースとロックだよ。決してファッショナブルではないかも知れないけど、世界は広いし、あらゆる音楽に居場所がある。ヒップホップやEDMとブルースが共存することには問題がない。俺は今朝カントリーのチャンネルを聴いていたし、ヒップホップを聴くこともある。ジャンルに固執せず、その日の気分でさまざまな音楽を聴けばいいんだ。気分を高揚させるエキサイティングでエモーショナルな音楽を聴きたいときには『テーブル・バイ・ザ・ウォール』を聴いて欲しいね!

●これまでイギリス国外でライヴをやったことはありますか?

ニューヨークのタイムズ・スクエアにある“ソニー・ホール”で演奏したことがあるよ。デルバート・マクリントンのオープニング・アクトを務めたんだ(2018年5月)。デルバートのソウルフルなヴォイスは素晴らしいし、大ファンだから、彼と同じステージに立てるのは光栄だった。2021年の夏にはスペインやルーマニアの野外フェスに出演することになっている。ベス・ハート、サマンサ・フィッシュ、エリック・ゲイルズなどと一緒に出演する予定だ。現在の世界の状況下で、どうなるか判らないけどね。『テーブル・バイ・ザ・ウォール』が日本でも発売となるから、ぜひ日本でもライヴをやりたい。それが俺の夢だよ!日本の音楽リスナーはブルースやブルース・ロックが好きだと聞いているし、きっと俺たちの音楽を気に入ってくれるだろう。世界が元に戻ったら、すぐにでも日本行きの飛行機チケットを予約するよ。

【新作アルバム】

ザ・バッド・デイ・ブルース・バンド

『テーブル・バイ・ザ・ウォール』

P-Vine Records

2021年2月5日発売

【日本レーベル・ウェブサイト】

http://p-vine.jp/music/pcd-94014

【公式ウェブサイト】

https://www.bad-day.net/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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