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カルト的な人気で繰り返し再上映。今なお斬新に感じる、異色映画たちの魅力を解説

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

旧作映画のなかには、繰り返しテレビで放送されたり、映画館で再上映されたりする作品があります。そんな公開から時間が経っても人気が衰えない映画をざっくりと二つに分けると、誰もが知っているような名作映画と、ファンの間でカルト的な人気を持つ異色作とに分けられます。

再上映作品のうちで知名度の高い名作映画が面白いのは間違いありません。
ですが、今回注目したいのは、あまり有名ではない異色の再上映作品たちです。

(※映画ファンや業界内ではとても有名な作品ですが、たまに話題作を見るくらいの一般の人にはあまり知られていない傾向がある作品です。ただし、再上映するくらいなので、知っている人もそれなりにいると思います)

知る人ぞ知る異色の再上映作品は、刺激的でクセが強いものが多く、どこかに突き抜けた斬新さがあるため、旧作であってもあまり古さを感じずに楽しむことができるのです。

たとえば、本日から4Kリマスター版が全国の映画館で期間限定上映される今敏監督のアニメ映画『パーフェクトブルー』は、公開が1997年と30年近く前の映画ですが、「地下アイドルと変質的なアイドルオタク」、「芸能事務所からの重圧」、「精神障害」、「SNSアカウントの成りすまし」など、現代の社会問題にも通じるテーマを扱った作品で、制作当時はもちろんのこと、今見ても決して古臭くない斬新かつ衝撃的な物語です。

今回は、そのような繰り返し再上映されている映画のなかでも、独特な世界観を持ち、今見てもなお斬新さを感じられそうな作品を数点紹介します!

見るなら今のうちかも!?

パンズ・ラビリンス

公開は2006年、PG12指定です。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー賞監督賞の獲得や、ロード・オブ・ザ・リングの前日譚『ホビット』の脚本などで知られるギレルモ・デル・トロ監督が監督・脚本を手がけています。

本作は、内戦終結直後のスペインを舞台に、現実とファンタジーの世界を行き来する少女・オフェリアを描いたダーク・ファンタジーです。

戦争やレジスタンス狩りが描かれていて、生々しい拷問の場面などもある本作。
幼い少女を取り巻く世界には、辛すぎる現実が広がっています。

そんななかオフェリアは妖精の導きで、パン(ギリシア神話の神)と出会い、自分が地下の魔法の国を治める姫なのだと知らされ、地下の国に戻るための試練を課されます。
オフェリアはパンの言いつけにしたがって行動しようと頑張りますが、彼女の周囲の現実は過酷さを増すばかり。オフェリアはどんどん追い詰められていきます。

お願い。遠くに連れて行って…!

オフェリアは母にそうすがりますが、妊娠中で体調のすぐれない母ではオフェリアの助けになれません。オフェリアはファンタジーの世界にしか救いを求められない状況に追い込まれていきます。

パンの言うことが真実なのか嘘なのか。そもそも魔法の国は実在するのか、それとも辛い現実から逃れるためにオフェリアが作り出した虚構なのか。それすら曖昧なまま物語は進みます。この物語の結末が悲劇なのか、ハッピーエンドなのかも、見る人によって意見が分かれるところでしょう。

イメージ:ダークファンタジー
イメージ:ダークファンタジー

ファンタジーといっても、明るく楽しい作品ではなく、見てて苦しくなるような場面も多いダーク・ファンタジーなのですが、本作には様々な魅力が詰まっています。

まず、夢であって欲しいような過酷な現実世界と、単なるおとぎ話ではない厳しいファンタジー世界とが織りなす物語には独特の緊張感があり、先の読めない展開が続きます。
その世界観をより引き締めるのが数々の映画音楽を手がけるスペインの作曲家ハビエル・ナバレテの音楽です。

静謐なのにどこか不安気な音楽と、現実と虚構のはざまで繰り広げられる重厚な物語は、見ている人の感情を強く揺さぶります。怖いのか、悲しいのか、ワクワクするのか、ハラハラするのか、本作を見ていると、自分自身もよく分からない不思議な感情を味わえるはずです。

そして、さらに魅力的なのが、登場するクリーチャーたちの造形です。前述のパンや、オフェリアを導く妖精たちは怪しい存在感を持っています。敵として現れる異形のクリーチャーの姿も、醜悪なだけでなく、不気味ながらもどこか心惹かれる印象的な姿をしています。

本作は、今年の9月で日本での上映権が切れてしまうため、日本最終上映と題して3月に全国で大規模な再上映が行われました。

上映と配信とでは事情が違いますが、上映権切れ以降には配信終了の可能性もあります。
本作に興味のある方は、いくつかのサイトの見放題配信でお手軽に見られる今のうちに見ておくのがオススメだと思います。

多くのアーティストに影響を与えた絵画的SFアニメ

ファンタスティック・プラネット

ルネ・ラルー監督の1973年のアニメ映画。半世紀も前の映画であるにも関わらず、今なお小規模な映画館などで上映されている。現在でも決して色あせることなく、世界中で高く評価され続けている。

本作の舞台は、半魚人のような見た目をした巨大な人類「ドラーグ族」と、普通の人間らしき小さな人類「オム族」とが住んでいるイガムという惑星です。
オム族はドラーグ族からは虫けらのような扱いを受けていて、ときには害虫のように大量に殺されたり、またあるときにはペットとして飼われたりしている状態です。

そんなオム族の少年が、ドラーグ族の少女のペットになったところから物語が動き出します。

ドラーグ族の少女は飼い始めたオム族の少年を気に入り、服を着せ変えたり、勉強するときに手元に置いておいたりします。オム族の少年は少女のそばで知識を身につけていき、やがて世界に変革をもたらすような存在になっていきます。

イメージ:二つの惑星
イメージ:二つの惑星

巨大なドラーグ族に怯え、原始的な生活を強いられているオム族たちの姿を見ていると、ちょっと『進撃の巨人』を彷彿とさせられます。
ただし、本作ではドラーグ族には高い知性があり、一方で、人間の姿をしたオム族はまるで野生動物のように本能で生きているような描かれ方をしています。

オム族が知識や知恵を得たことで、状況がどう変化して行くのか。その辺りに注目しながら見ていると、とても楽しい作品です。

また、独特な絵も魅力的です。

日本のアニメのようなスムーズで可愛らしいタッチの絵ではなく、絵本や絵画のような絵で描かれたアニメは、最初こそ少し見づらいかもしれませんが、慣れてくるとグッと世界観に引き込まれます。
シーン一つ一つが芸術作品のようで、気に入った場面で一時停止して絵を眺めているだけでも楽しめるはずです。

この他にも、前に記事にしたことのある『ミッドサマー』や、見る前と後で作品への印象が大きく変わる『ファイト・クラブ』などなど、たくさんの作品が大小さまざまな映画館で再上映されています。

公開から時間が経ってからわざわざ映画館で再上映されるということは、テレビや配信ではなく、1000~2000円くらいのお金を払ってでもスクリーンで見たい人がいるということ。

つまり、名作であるという証拠です!!

もちろん有名な映画も多く再上映されていますが、「良く知らない作品だけどリバイバル上映されてるんだ!」という作品を見つけたら、新たな名作と出会うチャンスかもしれません!

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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