バイデン大統領を日本で逮捕する方法~過去にはフランス等での事例も #ガザ
*本記事は「志葉玲ジャーナル-より良い世界のために」 に掲載したものの転載です。https://reishiva.theletter.jp/
昨年10月以降、パレスチナ自治区ガザに猛攻撃を続けているイスラエル。ガザでの犠牲者は3万3000人以上にのぼり、そのほとんどが女性や子ども等の非戦闘員だとされています。軍事作戦であれ、非戦闘員である民間人への攻撃は国際人道法違反であり、戦争犯罪です。国際社会からの批判はますます高まっていますが、イスラエルのネタニヤフ首相はそうした批判に反発しています。世界各国や国連関連の各機関から批判されても「米国さえ味方であるならば問題ない」というのがイスラエルの姿勢であり、実際、米国はイスラエルを擁護し、支援してきました。
最近になって、米国のバイデン大統領は、米国内、とりわけ、自身の支持層である民主党支持者達の中でガザ攻撃への憤りが高まっていることもあり、ネタニヤフ首相らに対し民間人の保護を強く求めるようになったのですが、遅きに失した感がありますし、あくまで口先だけのことです。ガザの人道危機を憂慮しているポーズをしながら、対イスラエル軍事支援は継続しています。
つまり、ガザの人道危機について、バイデン大統領はネタニヤフ首相と「共犯関係」にあります。ネタニヤフ首相の暴走を止めず、ガザの人道危機を目の当たりにしながら、イスラエルへの軍事支援を継続するならば、バイデン大統領自身の法的な責任が問われること、そして日本でバイデン大統領が逮捕されることも、理論上はあり得る―そうしたことからバイデン大統領に圧力をかけることが、イスラエル軍によるガザでの虐殺を止める上で役立つのではないでしょうか。
〇兵器供与も戦争犯罪になり得る
国際的な人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は、イスラエル軍がガザで民間人を攻撃した際に米国産のJDAM(統合直接攻撃弾)が使用されたことを、爆弾の破片に刻まれたシリアル番号から特定しました。特定された二つのケースで、19人の子どもを含む43人のガザ市民が殺害されたとのことです。さらに、アムネスティ・インターナショナルのアニエス・カラマール事務局長は次のように、米国の責任を指摘しています。
「ガザにおける前例のない民間人の死亡者数と破壊の規模に直面して、米国および他の政府は、国際法違反を犯したりそのリスクを高めるために使用される可能性が高いイスラエルへの兵器の供給を直ちに中止しなければならない。故意に違反を幇助することは、国際人道法の尊重を確保する義務に反する。違反行為に使用される兵器を供給し続ける国家は、これらの違反への責任を問われる可能性がある」
もはや、イスラエル軍のガザ攻撃は無差別ですらありません。意図的に人口密集地への大型爆弾の使用、病院や避難所となっている国連管理の学校等への執拗な攻撃、援助物資の供給を阻害し、ガザの人々の約半数が深刻な飢餓に直面していること等、明らかにガザの一般市民を狙い撃ちにした攻撃を行っています。これは、露骨な国際人道法の蹂躙であり、極めて悪質な戦争犯罪です。今年1月には、国際司法裁判所もイスラエルに「ジェノサイド」防止の暫定命令を下しています。こうした中で、米国はイスラエルに兵器支援を行っていますが、そのことにより、イスラエルの国際人道法違反=戦争犯罪だけでなく、米国も戦争犯罪の責任を問われることになり得るとカラマール事務局長は指摘しているのです。
〇バイデン大統領を逮捕する???
また、先月29日付けの米国有力紙ワシントン・ポストは、バイデン政権が先月、イスラエルに対し、最新鋭のステルス戦闘機、25機や2300発以上の爆弾などの兵器の売却を承認したと報じていますが、このことにより、バイデン大統領自身の法的な責任も問われることになるかもしれません。
というのも、国際社会において、戦争犯罪等の重大な国際法違反について、その犯罪行為が行われた国や地域、犯罪行為に責任のある人物の国籍に関係なく犯罪行為を裁く(=普遍的管轄権の行使)という責務があるのです。この、普遍的管轄権が実際に市民の手によって行使された事例の一つが、2007年10月、フランスの人権団体等が、当時の米国の国防長官であったドナルド・ラムフェルド氏を告訴した件です。この告訴は、イラク戦争での米軍による捕虜虐待についてラムズフェルド氏の責任を問うものでした。この告訴を受け、当時フランスを訪れていたラムズフェルド氏は慌てて米国に逃げ帰ることになったのでした。
似たようなケースとしては、2009年12月にイスラエルのツィピ・リブニ元外相が急遽、予定していた訪英を取りやめることがありました。これは、2008年末から2009年1月に行われたイスラエルによるガザ攻撃で戦争犯罪が行われたとして、イギリスの弁護士が同国の裁判所に告訴し、逮捕状が出されたためでした。
最近のケースでは、ロシアのプーチン大統領に対し、国際刑事裁判所(ICC)がウクライナから子ども達をロシアに連れ去ったことについて、それが大統領令に基づくものであったとして、プーチン大統領の個人的な法的責任を認め、逮捕状を出しています。これにより、プーチン大統領は訪問先の国々で逮捕される可能性が生じたために、その移動が大幅に制限されることとなりました。
つまり、バイデン大統領もガザ攻撃でイスラエルが戦争犯罪を繰り返していることを知りながら、イスラエルに兵器を供与していることについて、その責任を問われ得るし、日本においても、普遍的管轄権を行使することは、理論上は可能だということです。
〇米国の責任は大きい
イスラエルにとって、米国は外交上、そして軍事上の最大の支援国です。米国はごく一部の例外的な事例を除いて、常にイスラエルを擁護し、国連安保理でイスラエルに不利な決議に拒否権を行使することを繰り返してきました。また、米国は毎年38億ドル(1ドル=150円とすると約5700億円)もの巨額の対イスラエル軍事事支援を行っています。それに加え、昨年10月以降のガザ攻撃に対し、バイデン政権は最大で150億ドル、つまり2兆円規模の対イスラエル軍事支援を行う意向も表明しています。
ガザ攻撃での巨額の戦費はイスラエル経済を圧迫しており、逆に言えば、もし米国が支援をやめれば、イスラエルがガザ攻撃を続けることはできません。今年1月末には、国際司法裁判所(ICJ)がガザ攻撃に関して、ジェノサイド(大量虐殺/計画的・意図的に民族等の集団を破壊する行為)を防ぐ「全ての措置」を取ることをイスラエルに命じています。ジェノサイド禁止条約においても、ジェノサイドへの加担それ自体がその責任を問われる、すなわち、米国の責任も問われうるのです。
イスラエルのガザ攻撃を支持・支援し続けることは、米国にとっても、バイデン大統領個人にとっても、良くないことであると、日本としても説得する必要があるでしょう。米国のダブルスタンダードは、ロシアによるウクライナ侵攻に対する国際的な包囲網を築く上でもデメリットしかありません。ガザの人々の生命や生活を護ることは勿論、国際秩序を護る上でも、米国の独善的な外交・安全保障政策及び国際法等の軽視を見直させることが重要なのでしょう。
(了)