夏に向けて、河川とため池での子供の水難事故に警戒しなければならない
6月9日に令和3年における水難の概況(注)が警察庁生活安全局生活安全企画課から公開されました。今年は例年通り子供の河川の水難事故に警戒するとともに、ため池での事故を重点警戒する必要があります。
(注)水難は事件の可能性を常に考えなければならず、統計では「水難」としています。
全体の傾向
全国で令和3年の1年間に発生した水難件数は1395件(前年対比+42件)、水難者は1625人(前年対比+78人)で、うち死者・行方不明者は744人(前年対比+22人)でした。夏の期間中がコロナ渦の影響を受けていたため、外出自粛によりすべての数で減少するかと希望的観測にありましたが、結果としては明らかな増加となりました。
このうち中学生以下の子供に焦点を当てると、発生件数は119件(前年対比+2件)、水難者は183人(前年対比+7人)で、うち死者・行方不明者は31人 (前年対比+3人)でした。このところ死者・行方不明者は微増傾向にあり、子供の水難事故に対してはより一層の警戒が求められます。
子供の重大事故の推移
図1をご覧ください。2000年からの中学生以下の子供の水難事故による死者・行方不明者数の推移をまとめています。
2000年には年間に116人の子供の犠牲者が出ていた頃に比べれば、最近の数は少なくなっています。2018人には22人まで減りました。しかしながら、ここのところ3年間では微増に転じたように見受けられます。そして、なによりも数は少なくなったとはいえ、未来のあるお子さんが防ぐことのできる事故死で命を落とすことはあってはならないことです。やはり、家庭、学校、地域で取り組んで悲しい事故死を減らしていかなければなりません。
2000年には、子供の水難事故は海で多くが発生していました。夏休みの期間中は毎週のように海水浴中の子供の犠牲者の数がニュースで話題になっていたくらいでした。しかしながら、そのような海の事故は時代と共に少なくなっていきました。図2をご覧ください。これは子供の水難を発生場所別で分けたグラフです。
2014年には、子供の水難事故は海よりも河川で多くが発生するようになりました。海での犠牲者は2016年には急激に減り、毎年5人前後で推移するようになりました。その一方で河川での事故による犠牲者数はそれほど減少することもなく、2018年に子供の水難事故による死者・行方不明者が一次的に減少したのは、実は河川の事故による犠牲者が減ったためだったことがわかります。
2020年には、5月から6月にかけてコロナ渦での学校の休校や時間短縮があり、平日の河川での水難事故が目立ちました。そういった影響もあり河川での子供の犠牲者は18人となり、そのまま2021年に至っても同数となってしまいました。
今年の重大事故は警報級
今年は、4月から子供の重大水難事故が続いています。
4月5日 宮城県栗原市ため池 小学1年男児
4月11日 大阪府枚方市ため池 小学男児
4月12日 福岡県行橋市河川 小学1年女児
4月16日 広島県広島市河川 保育園男児
5月10日 青森県弘前市ため池 中学男子
5月12日 福岡県久留米市河川 小学4年女児
5月19日 広島県三次市河川 中学2年女子
今年の傾向は、例年発生する河川での事故ばかりでなく、ため池での事故が続いたことが特徴です。
河川では、幼い子供の単独行動とみられる事故が行橋市と広島市とで続いたことが例年と異なります。これまでの子供の河川での水難事故は、友達同士やきょうだい同士で水辺に出かけて事故に遭う傾向が強かった中で、厳しい現実を突きつけられたように感じます。
三次市で発生した河川の水難事故では中学生が何人かで川を渡ろうとした形跡がありました。これは2020年8月に宮城県柴田町の白石川で発生した水難事故にも通じるものがあります。白石川では、やはり女子中学生5人が川の中央に向かって川の中を歩いていた際に、2人が溺れてしまいました。
ため池での事故も続いています。今年の事故では、釣りや魚とりに集まった小学生や中学生の集団を悲劇が襲っています。中にはフェンスなどで立ち入りを制限していたため池もありましたが、多くのため池では水面に容易に近づけるようになっていました。
どうやって事故を防ぐか ー 安全パトロールは雨天時に
ハードとソフトの両面作戦が必要です。それには、まず学校や地域で安全パトロールをしっかりと行うことから始まります。
多くの学校の実態を聴取しますと、安全パトロールは雨天中止とのこと。逆に晴れていると、側溝に水は流れておらず、川が増水していることも稀有です。水に関して言えば、安全パトロールは雨天決行である必要があります。通学路の脇の増水した河川を見ると「子供たちはこんな危険な場所を歩いている」ということに気が付きます。
ハードとしては、例えば学校が声を出さなければ、誰も対策をしません。学区内の子供の自転車で行くことのできるため池には立ち入り制限の対策を要望するべきですし、通学路脇の用水路には転落防止の対策を要望すべきです。
ソフトとしては、「子供同士で水辺に近づかない」という約束の徹底と、万が一の落水事故に対応する「ういてまて教室」の実施が重要な位置を占めます。子供同士で水辺に行くと、誰かが「川を渡ろう」と言い出した時に、同調圧力によってそれをストップすることが子供同士でできなくなります。それは大昔から子供の川の事故の定番でもありました。だからこそ、「子供同士で川に近づいてはいけない」のです。また、ため池事故のような万が一の水難事故でも、図3に示すように浮いて救助を待つことで助かる命があります。すべての危険に対してハードで対策を十分たてられない中、最後は自分で自分の命を守る術をぜひ身につけさせてください。
令和3年のその他のデータ
水難による死者・行方不明者数の都道府県別データにより、少ない方と多い方は次の通りです。
少ない方
群馬県 1人
栃木県 3人
長野県 4人
京都府 5人
徳島県 5人
香川県 5人
多い方
沖縄県 45人
東京都 45人
千葉県 43人
北海道 34人
長崎県 26人
水難からの生還率(無事救出数/水難者数x100)の高い方と低い方は次の通りです。全国平均は54%です。
高い方
神奈川県 76%
宮崎県 73%
静岡県 72%
福岡県 70%
茨城県 69%
低い方
大阪府 8%
富山県 16%
長野県 29%
佐賀県 33%
山梨県 33%
水難からの生還率の推移は図4の通りです。中学生以下の子供では常に80%以上を確保できています。高校相当年齢以上でも最近は50%を割ることなく推移しています。