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「1部で勝てるチーム」を目指すちふれASエルフェン埼玉。MF薊理絵が放つ13年目の輝き

松原渓スポーツジャーナリスト
好調のちふれで得点力が光る薊理絵(筆者撮影/右は菅澤大我監督)

【リーグカップ2部決勝にも注目】

 なでしこリーグカップが佳境を迎えている。1部は7月27日(土)と28日(日)に準決勝が行われ、8月3日(土)に決勝戦(味の素フィールド西が丘、18:30キックオフ)が予定されている。

 また、同試合の前に行われる2部の決勝戦(15:30キックオフ)は、AグループのちふれASエルフェン埼玉(エルフェン)と、Bグループのセレッソ大阪堺レディース(C大阪堺)が、それぞれ決勝進出を決めている。こちらも熱い試合になることは間違いない。

 C大阪堺は、平均年齢が20歳未満の若いチームだ。17年のリーグカップ(2部)で優勝経験があり、昨季は1部で戦っていた。2部から唯一、女子W杯メンバーに選出された19歳のFW宝田沙織を筆頭に、U-20女子W杯で優勝したMF林穂之香やDF北村菜々美など、年代別代表で実績を持つ選手が多い。

 一方、エルフェンは大会初優勝をかけて戦う。FW荒川恵理子、GK福元美穂、MF伊藤香菜子ら、元日本代表のベテラン選手が多い。加えて、今季の開幕前には、1部のカテゴリーでプレーしていた選手たちが一気に8名加入。昨年のU-20女子W杯優勝メンバーの一人であるMF長野風花の加入も話題になった。多くの選手が加入を希望した理由が、昨年からエルフェンで指揮をとる菅澤大我監督のサッカーだった。

参考記事:

大型補強をしたちふれASエルフェン埼玉。経験豊富な選手たちを惹きつける菅澤サッカーの魅力(1)

大型補強をしたちふれASエルフェン埼玉。経験豊富な選手たちを惹きつける菅澤サッカーの魅力(2)

 前回の取材から半年が経ち、チームはどのように進化しているのか。7月14日に味の素フィールド西が丘で行われたリーグカップ第10節(○3-0 vsスフィーダ世田谷FC)と、練習風景を改めて取材した。

 エルフェンの練習場は埼玉県の南西部、自然豊かな飯能市の丘陵地帯にある「ちふれ飯能グラウンド」。

 1月の練習取材時に比べると、新加入選手も含めて個々の判断スピードが上がり、タッチ数も少なくなっていた。また、11人が1本の紐でつながっているように、動きに統一感が感じられるようになった。

 昨季は前半戦を3勝2分け4敗、菅澤監督の戦術が浸透した後半戦は5勝4分けの無敗で、最終順位は3位だった。

 2年目の今季はリーグ前半戦の9試合を終えて5勝3分1敗、首位の愛媛FCレディースとは勝ち点4差、2位のオルカ鴨川FCとは2差の3位。1部昇格圏内の2位以内を十分に狙える順位につけている。

 

 好調を支えているのが得点力だ。公式戦17試合で32得点。これは、昨季(20得点)を大幅に上回っている。そして、攻撃陣の中で一頭地を抜く存在感を示しているのが、16試合で12得点しているMF薊理絵(あざみ・りえ)だ。

【得点力を支えるサイドアタッカー】

 東京都東村山市出身の薊は、2007年にエルフェンに入団してから13シーズン目を迎える、チームの象徴的存在だ。過去には日本代表選出経験もある。

 後半アディショナルタイムになっても、薊は球際で果敢に攻める。他の選手が疲れて走れなくなる時間帯でも、全力で走りきるプレーが見る者の心を揺さぶる。菅澤監督は彼女の魅力についてこう語る。

「彼女の一番の良さは、強靭で、尋常じゃないスタミナというんでしょうか。言い方がちょっと素人っぽいけれど、心の持久力もかなり高いと思います。今シーズンはリーグ戦とカップ戦を合わせて二桁以上得点(12得点)を取っている。相当伸びていると思いますよ。ランニングやポジショニングの質が高くなって、それを得点という結果に結びつけているのは大したものだな、と思っています」

 薊は07年になでしこリーグデビューを果たしてから、リーグ戦243試合中239試合に出場。サイドハーフやサイドバックを主戦場としながら83得点と、ゴールも数多く決めてきた。

 筆者がそのスタミナを目の当たりにしたのは、15年2月の代表合宿だ。当時、代表メンバーの多くが11年の女子W杯優勝経験者だったが、薊は体力測定でMF川澄奈穂美と並んでトップの数値を記録した。

 一見華奢にも見える体格だが、一瞬のスピードで相手より先にボールに触り、味方のパスのズレも走りでカバーする。そしてオフザボールでも足を止めない。その走りにも強弱があり、自分の特徴を生かすポイントを知り抜いているように見える。

 スフィーダとのリーグカップ第10節でも、薊の存在感は光っていた。

「私は周りの選手と比べて巧さというものがないんです。だから、とにかく走ることと、最後まで戦うことだけは負けたくないところです。その上で、技術はもっと磨いていかないといけないと思っています」(薊)

 口調は優しいが、相手の目をしっかりと見て話し、言葉には力強い芯があった。

 この試合で決めた3点目は、彼女らしいガッツを感じさせるゴールだった。76分、左サイドからFW齊藤あかねがクロスを上げると、中央でクリアしようとした相手ディフェンダーの背後から一歩早くボールに飛びつき、体勢を崩しながら頭で合わせた。試合後、そのゴールがカップ戦(2部)で得点ランク単独トップの5点目であることを伝えたところ、薊は知らなかった。そして、申し訳なさそうに言った。

「試合後はシュートを外したシーンばかり頭に浮かぶんです。GKと1対1になれるような、『どうぞ決めてください』というパスを味方からもらえるんですが、そこで外すことが多いので…。メンタルしっかり!という感じですよ(苦笑)。今はそこを改善して、しっかりと決めきる力をつけたいなと思っています」(薊)

【1部定着に向けて】

 薊はそのキャリアにおいて、1部昇格と2部降格を3度ずつ経験している。攻撃的なサッカーで2部を制しても、1部では守備に徹することを余儀なくされ、不完全燃焼に終わったシーズンもあった。

 昇格と降格を1年ごとに繰り返していた17年のシーズン前には、こんなコメントを残している。

「どのチームも『泥臭さ』というものを持っていると思うのですが、私たちはチャレンジャー精神を持ち続けて、最後まで、(足の)指先まで力を込めて全身で戦う意識を全員が持たなければいけないと思います」

13シーズン、ほとんど休みなく出場を続けてきた(筆者撮影)
13シーズン、ほとんど休みなく出場を続けてきた(筆者撮影)

 ハイレベルな環境でプレーするために新天地を求める選手もいる。だが、薊はカテゴリーが1部から2部になっても、育ててくれたクラブやサポーターへの感謝を胸にプレーを続けてきた。

 200試合出場達成を果たした17年末のリーグ表彰式でのスピーチは印象的だった。

「毎年苦しいシーズンが続いていて、くじけそうなシーズンもたくさんありました。そんな中でもずっと支えてくださったスポンサーやサポーター、ファンの皆様、一緒に戦ってきた仲間がいるからこそ、200試合をエルフェンで達成することができました。これからも感謝の心を忘れずに戦っていきたいと思います」

 エルフェンが菅澤監督を招聘したのは、1部昇格のみならず、1部で上位を目指すためだ。現在は、そのために腰を据えたチーム作りをしている。複数の戦術をベースに、緻密なポジショニングを徹底し、試合ではそれらを状況に応じて柔軟に組み合わせながら、全員で同じ絵を描いていくーーそのサッカーを表現するためには、しっかりとした土台を築く地道なプロセスが必要で、選手にも相当な覚悟が求められる。

 それでも目指す方向性がはっきりしていることや、練習の中で各々が着実に成長しているという手応えがチームの士気を支える。薊は明るい表情でこう語った。

「菅澤監督の下でたくさんの新しいことに取り組んできた中で、チームの意識、向かっていく方向が一つになっていると思います。頭を使いますし、分からなくて苦しんだり、判断に迷って自分の良さが消えた時期もありました。でも、そういう時には選手同士でも話をします。(エルフェンには)年上の選手も多くて、本当に頼もしいんです。自分はこの歳(30歳)なのでしっかりしないといけないんですが、頼ってばかりですね(笑)」

 薊は現在のチームで最古参選手になったが、年上の選手からも年下の選手からも慕われ、時にはいじられ役になる。笑顔を絶やさず、一体感を大切にし、熱いプレーでチームを牽引する。

 8月3日のリーグカップ決勝はぜひ、1部と2部の決勝2試合をダブル観戦することをオススメしたい。その中で、初タイトルをかけて戦うエルフェンの背番号7に注目してほしい。

 また、エルフェンが昨年からどのような変化を遂げてきたのか、そして今季のチーム作りについて菅澤監督にインタビューを行った。その内容を次の記事で掲載する。

【「1部で戦えるチーム」へーーなでしこ2部エルフェン、菅澤監督が示す手応え。リーグ女王との共通点とは?】

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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