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イエメン紛争:UAEに対する弾道ミサイル、ドローン攻撃が相次ぐ

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
ハリーファ・タワーへの攻撃扇動画像。出典:2021年1月23日「真実約束旅団」

 2022年2月2日、UAEの国防省は同国の領空に侵入したドローン3機を撃墜したと発表したUAEに対しては、2022年1月17日に同国の首都であるアブダビに対してドローンと思しき物体による航空攻撃が行われ、国営石油会社とアブダビ国際空港の敷地で被害が出た。この攻撃では、アブダビ国営石油に勤務する外国人(インド人2人、パキスタン人1人)が死亡した。さらに、1月24日と31日にもUAE軍や同国に駐留するアメリカ軍がイエメンから発射された弾道ミサイルを迎撃したと発表しており、2日の事件はおよそ半月ほどで4度にわたってUAEがミサイル・ドローン攻撃を受けるという、状況の緊迫化を示すものとなった。

 UAEは、サウジとともにハーディー前大統領派に与してイエメン紛争に介入しつつ、イエメン国内でハーディー前大統領派とは異なる利害関係を持つ政治勢力・民兵を支援し、イエメン領内で交通の要衝など様々な権益を確保している。こうしたUAEの動きに対し、アンサール・アッラー(俗称:フーシー派)が率いる政府・軍は反発を強め、1月17日の攻撃をはじめとする過去の攻撃のうち3回については攻撃を実行したと発表し、さらなる攻撃を行うと表明していた。

 ところが、2日のドローンの事件については、これまでとはちょっと違った展開が見られた。事件について、「真実約束旅団」と名乗る団体が「犯行声明」を発表したのである。カタルの衛星放送の「ジャジーラ」によると、この団体はイラクの団体であるとのことだ。この団体名義のSNSのアカウントでは、今般の「犯行声明」を含む3点ほどの駄文が発信されており、今般の「犯行声明」にもちゃんと「声明3号」と番号がふってある。声明は、4機のドローンによってアブダビに痛撃を加えたと主張する一方、UAEに対しイラクとイエメンをはじめとする地域諸国に対する干渉をやめるまで攻撃を続けると脅迫した。なお、2021年1月下旬に出回った「真実約束旅団」の「声明1号」は、サウジのリヤードに対する攻撃予告とアブダビのハリーファ・タワーにドローンをぶつける画像入りでの攻撃予告を内容とするもので、こちらもその界隈でちょっとした話題になった作品である。

 「真実約束旅団」の実在性や「犯行声明」の信憑性については疑問の余地が大いにあるのだが、ここまでの情勢の推移はUAEによるイエメン紛争への関与が抱える問題を示すものともいえる。というのも、中東とその周辺では2001年のアフガン戦争を契機に、紛争の当事者の片方は最新鋭の軍事技術を駆使するとともに現場での戦闘を傭兵企業や地元の「提携勢力」に委託し、自国の正規軍の人的被害や財政上の負担を軽減・隠蔽するのに対し、紛争のもう片方や紛争の現場となる地域には民間人も含む甚大な破壊と殺戮被害をもたらすという「新しい戦争」のやり方が浸透しているからである。UAEも、2015年にイエメン紛争に軍事介入した当初は自国の軍要員が多数戦死するなどの被害に苦しんできたが、2019年ごろからは南イエメンに「提携勢力」を見出し、彼らを傭兵として組織することで地上戦への関与とそれに伴う負担と犠牲を避けようとしてきた。1月以来のUAEに対する攻撃は、こうして自らの手を汚さずに紛争によって得られる成果を最大化しようとするUAEの振る舞いに対する反応の一つといえよう。ここに、真正性や信憑性はともかくとして「真実約束旅団」が情報戦・プロパガンダ合戦の当事者として参入してきたのである。

 UAEは産油国として、ペルシャ湾岸の経済・運輸の拠点として重要な地位を占めており、本邦をはじめとする諸外国からの進出企業者その従業員も多数活動している場所である。そのようなわけで、同国に対する実際の攻撃はもちろん、攻撃予告・扇動・脅迫も、いたずら書きレベルであろうとも一応捕捉してその真正性・信憑性について一通り検討しなくてはならない。「真実約束旅団」の「犯行声明」は、イエメン紛争が弾道ミサイルやドローンを用いた現実世界の「空中戦」へと拡大するのと同時に、胡乱なものも含む様々な攻撃予告や脅迫も乱舞する情報の世界での「空中戦」へと拡大しつつあることを示している。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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