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高齢者事故が多発する現在、AI型自動車運転評価システムが高齢者を加害運転から救う

斉藤徹超高齢未来観測所
いかにすれば高齢者の加害事故を減少させることができるか(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

高齢者事故が多発する現在

このところ、高齢者による運転加害事故が続いている。原因ははっきりしないものもあるが、多くは老化に伴う運動・反射神経、認知力の低下などを原因とする事故だ。

全交通死亡事故件数に占める75歳以上高齢運転者の割合は年々増加している。平成19年の8.2%から平成29年で12.8%と10年間で5%近く増えた。増加原因は明確で、これは高齢免許保有者数の増加によるものだ。75歳以上の免許保有者数は、現在540万人。10年前(257万人)と比べるとなんと2倍以上に増えている。現在の高齢者の若かりし頃は、まさに1960年代のマイカーブームにあたったことも影響しているのだろう。540万人という数値は、全運転免許保有者の9%を占めており、(65歳以上で見ると25%)もはや高齢者による運転を少数派として無視できるものではない。

しかし、高齢者による事故が目立つからと言って、強制的に免許返納を義務づければ良いというものでもない。買い物や通院など、高齢期でも自動車の存在が生活の欠かせない一部となっている方も多数おり、いかにして高齢者が危険無く運転が可能となるか、そのための仕組みや方策を考えなくてはならない。

重要な事のひとつは、高齢者自身が、自分の運転能力がどのレベルであるのか、はっきりと自覚することだ。高齢者は、長年運転し続けているという自負もあり、自分の運転を過信しがちだ。運動能力が落ちているのは明らかなのだが、たとえ軽い事故を起こしても偶発的な出来事だと正常バイアスをかけてしまいがちだ。

第三者による自らの運転能力が可視化できる評価システムがあれば、免許返納の決断も早まるかもしれない。

今回紹介する宮崎県のベンチャー企業、株式会社オファサポートが開発した「AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))」は、まさにそれを実現したものである。同社は、高齢者の運転評価システムをAIや各種センサー技術を活用しながら開発し、実際に自社の自動車教習所、デイ・サービス・プログラムに取り入れている極めてユニークなベンチャー企業である。

オファサポートの経営する南九州自動車教習所(筆者撮影)
オファサポートの経営する南九州自動車教習所(筆者撮影)

AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))の仕組み

オファサポートによるAI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))の仕組みを簡単に紹介しよう。

現在、運転評価は実車ではないシミュレーターによるものが一般的だが、S.D.A.P.(R)は、実車による運転評価システムである。実際に車に乗車し、自動車教習所内のコースを運転することで運転能力を評価する。運転の際のハンドルの切り方、スピードの出し方、ブレーキを踏むタイミング、カーブの曲がり方、左右の確認の仕方など、留意すべき点は多数ある。それらをすべてデータ計測し、模範運転と比較して、どの点が劣っており、どこに留意すべきか、それらをすべて点数化し評価してくれるシステムである。

理想的な運転方法の基準づくりは、自動車教習所の指導教官による運転をベースとしている。これを自動車や運転者に取り付けたGPS、視線計測などの各種センサーで測定し、AIに機械学習させることで模範運転のデータ化を図った。測定に当たっては、さまざまな専門家から協力を頂いている。AI技術に関しては、人工知能と人の共生による創造性の拡張を研究する株式会社Qosmo代表徳井直生氏、視線計測は宮崎大学工学研究部の田村宏樹氏の協力を得ながら開発を進めていった。

現在は、この仕組みを活かして、自社教習所に併設するデイ・サービス(カーリハ&菜園デイ みなみ)のリハビリ・プログラムとして自動車運転評価システムを取り入れている。

AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))を体験する筆者(提供:オファサポート)
AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))を体験する筆者(提供:オファサポート)

AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))の結果サンプル(提供:オファサポート)
AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))の結果サンプル(提供:オファサポート)

AI型自動車運転評価システムをはじめたきっかけ

なぜ、このようなAI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))を思いついたのか?オファサポート代表取締役社長の服部幸雄さん、現在は、訪問リハビリ、訪問介護、デイ・サービスなど幅広く事業を展開されているが、もともとは宮崎郊外にある自動車教習所(南九州自動車教習所)の経営からのスタートだった。

ある時、そこでリハビリ病院からの相談を受けた。相談内容は、高次脳機能障害の患者のリハビリ、社会復帰プログラムとして、運転の評価をしてもらえないかというものだった。これは社会的にも意義のあることだと引き受けたのだが、評価するのは教習所の教官。評価される側も高齢者が多く、運転に問題ありと指摘されると、自尊心が傷つく方も数多くいた。そこで、思いついたのが、より客観性の高い評価測定方法はないかということ。当時、AIブームのはしりだったこともあり、AIによる評価システムが出来ないかという考えに至ったのである。

どこが新しい?

AI型自動車運転評価システム(S.D.A.P.(R))の開発そのものも、極めて興味深い試みだが、さらに面白いところは、そのプログラムを単独で展開するのではなく、介護施設(デイ・サービス)のリハビリ・プログラムとして取り入れているところである。

この「明るい高齢社会のミカタ」でも、クッキングを活用したデイ・サービスや、野菜作りをプログラムに入れた老人ホームなどを紹介してきたが、自動車運転をリハビリ・プログラムに取り入れているデイ・サービスは、おそらく日本でここだけだろう。

実際、デイ・サービスにお伺いしたところ、圧倒的に男性が多いのが特徴だ。一般的には、デイ・サービスは女性が多いが、「運転」に惹かれてやってくるのは男性だ。免許返納した後でも、車の運転がしたいからとデイ・サービスに来られる方も多いとのこと。プログラムもまさに教習所と同じようなシステムで、教習原簿が渡され一定のプログラムが終了するとハンコがもらえるシステムだ。

「カーリハ&菜園デイ みなみ」の室内風景(筆者撮影)
「カーリハ&菜園デイ みなみ」の室内風景(筆者撮影)

カーリハビリ(R)の教習原簿(筆者撮影)
カーリハビリ(R)の教習原簿(筆者撮影)

AI型自動車運転評価システムの可能性

自動車運転の評価システム+自動車教習所、加えてデイ・サービスという組み合わせは、なかなか思いつくものでは無いが、一方で将来的な可能性を感じる組み合わせでもある。

ご存じのとおり、少子化の影響や自動車を欲しがらない若者世代の影響を受けて、自動車教習所経営は、次第に経営的に厳しい環境に置かれつつある。

自動車教習所を運転免許取得のための施設と位置づけるのではなく、高齢者向けリハビリ施設と位置づける発想は極めて斬新であり、同様のコンセプトの教習所が増えてくれば、一定の土地や設備(自動車)を必要とする自動車教習事業の新たな可能性を示すものにもなっていくだろう。

服部社長は、将来的には培ってきたAI型自動車運転評価システムを他の自動車教習所でも採用されるよう進めるべく、現在、ある自動車メーカーと教習車に同システムをオプション搭載すべく交渉しているという。このような試みが進むことで、一件でも高齢者の交通死亡事故が減ることを願っていますと服部社長は語る。

オファサポート服部社長(撮影筆者)
オファサポート服部社長(撮影筆者)
超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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