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増え続ける高齢者の選挙に参加できない「投票難民」

斉藤徹超高齢未来観測所
投票所に赴けない高齢者が増えている(写真:イメージマート)

「投票難民化」する高齢者

先日、第50回衆議院選挙が行われました。来年7月には参議院選挙が実施されることもあり、政治への関心が高まっています。

選挙の度に話題となるのが、若者の政治への関心の低さや投票率の低さについてです。いかにして若者の政治への興味を高めるか。平成28年6月には選挙年齢を満18年以上に引き下げる法令改正も行われ、高校生に対する政治や選挙等に関する学習指導も行われています。

このように若者へ対して投票率を上げるためにはどうするかは、さまざまな形で行われていますが、実はもうひとつの投票率の低い年齢セクターがあることをご存知の方は少ないでしょう。それは「80歳以上の年齢層」です。

図表1は第49回衆議院選挙の年齢別投票率を示したものです。

図表1

総務省「よくわかる投票率」を筆者加工
総務省「よくわかる投票率」を筆者加工

※全国の投票区の中から抽出した188投票区の平均

これを見るとたしかに若者層の投票率は概ね低く、年齢が上がるに従って投票率も上昇していることがわかります。投票率のピークは70代前半で73.23%の投票率です。しかし70代後半になると投票率は下がり、80歳以上では48.51%と30代後半の投票率並みとなります。

図表2は同じく第49回衆議院選挙、青森県陸奥市の男女別の年齢別投票率を見たものですが、80歳以上の女性の投票率は3割程度であり、男性よりも女性の投票率の低下が目立ちます。

図表2

青森県陸奥市年齢別投票率を筆者加工
青森県陸奥市年齢別投票率を筆者加工

高齢者の投票率が低くなる理由

投票率が低くなる原因は、加齢に伴う体力や足腰の衰えで投票所に赴くことが困難となること、健康状態の低下、認知機能の衰えなどが考えられます。選挙そのものへの関心の低下もあるでしょう。過疎地では投票所の統廃合により、近隣の投票所がなくなったことも考えられます。投票所数は平成13年7月第19回参議院選挙の53,439箇所をピークに減少を続け、令和3年の第49回衆議院選挙では46,455箇所と約7千箇所も減少しています

こうした状況に対し、一部の市町村では投票所に赴くまでの乗合タクシーの運行や、コミュニティバスの無料乗車券の配布、期日前投票所の充実などを図っているものの十分な効果が上がっているとはいえません。

2020年時点の80歳以上人口は全国で115万4千人ですが、2030年には154万4千人、2035年には160万7千人に増加すると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所)。もし投票率が現在のままだと仮定しても、さらに多くの80歳以上高齢者が「投票難民」となる可能性があります

郵送投票の実施状況

物理的に投票所に赴くことが困難な人々に対して、代替手段として考えられるのが「郵送による投票」です。米国の大統領選挙でも、多くの投票者がポストに投票用紙を投函している姿がテレビでも流れていました。

コロナ禍という特殊要因はあったものの、2020年の大統領選挙では約46%の有権者が郵送投票を利用したと報告されています。郵送投票の利用率は、州によって異なっているようですが、以前は10%から20%の割合で推移していたようです。今回の大統領選の郵送投票率はまだあきらかになっていませんが、30%程度だろうと予想されています。

米国のこうした状況に対して、日本の郵送投票率はどうでしょうか。

「よくわかる投票率」(令和6年「総務省投票部」)によると、令和4年参議院選における郵送投票者数は18,857人に留まっています。投票者数(全国区・比例代表)54,655,446人のわずか0.03%です。米国の2、30%と比べるとあきらかに大きな開きがあります。

日本では、郵送投票については必要性が高い場合にのみこれを認めています。具体的には、身体障害者手帳(要介護5もしくは身体障害1級〜3級(部位による))、戦傷病者手帳を持っている選挙人などに限定されており、投票に先立ち、郵便等による不在者投票をすることができる者であることを証明する「郵便等投票証明書」の交付を、選挙人名簿登録地の市区町村の選挙管理委員会に申請するなど、一連の手続きを経る必要があり、この手順の煩雑さも郵送投票を選択する有権者が少ない理由となっています。

郵送投票の実施状況は、各国でだいぶ幅があるようです。特に大きな制限がなく広く認めているのは米国や英国です。ドイツやカナダ、スウェーデンも事前申請を行えば、郵送投票を認めています。日本と同じく、高齢者や障害者、病気などの理由がある人にのみ認めているのが、韓国、ニュージーランドなどの国々です。

検討すべき郵送投票の可能性

今後さらなる高齢化により投票所に赴くことが困難な高齢者が増加することは確実です。要支援・要介護の人には郵送投票を認めるなど、郵送投票の条件緩和も今後検討されるべきでしょう。

あるいは、事前申請により郵送投票を広く多くの人に認めるという考え方もあります。郵送投票を認めることにより、投票の利便性も向上します。忙しい有権者も、自分のスケジュールに合わせて投票できるため、投票率向上につながることが考えられます。これは高齢者のみならず、仕事に追われて投票する時間的ゆとりのない若者層や共働き層にも有効なはずです。

また数年前のパンデミックのように、物理的に投票所に赴くことが困難な状況下においても人々が安全に投票を行う方法が提供されることになります。もちろん、不正やセキュリティの懸念や郵便事情による影響、集計の遅れ、投票の秘密保持が難しいなどの懸念点は多々ありますが、すでに導入している諸外国の方法などをうまく取り入れれば、郵送投票は検討に値すると思います。

投票権は日本国民に等しく与えられた権利です。身体的理由により投票所に赴けない人に対しても、権利を行使するための代替的手段を国は積極的に講ずるべきではないでしょうか。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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