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北朝鮮への対応で日米韓に温度差 対話再開に意欲的な日米に無関心の韓国

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
(2022.11月にプノンペンで行われた日米韓首脳会談(大統領室SNSから)

 日米韓3か国の北朝鮮への対応では核やミサイル、人権問題では完全に歩調を合わせているが、対北朝鮮外交では足並みが乱れつつあるようだ。

 米国務省のジュン・パク北朝鮮担当特別代表代行は3月5日、カーネギー国際平和財団が主催したセミナに出席し、「北朝鮮の非核化が究極的な目標であることには変わりはないが、一朝一夕で実現できるものではない」と述べ、「非核化に向かうには中間段階が必要である」との認識を示していた。

 パク特別代表代行は「中間段階」が何を指すのかについては言及を避けていたが、会場からの「中間段階の措置に核凍結が含まれるのか?」との質問に「戦術核兵器の固体燃料化、極超音速能力、無人潜水艇など北朝鮮の兵器関連活動及び拡散範囲などを考慮した場合、我々が扱わなければならない兵器が多いことを認めることが重要である」と発言していた。「(兵器の)拡散範囲」とは北朝鮮の対露武器許与を指していることは明らかだ。

 そのうえで、「北朝鮮は軍縮交渉を主張しているようだが、北朝鮮が軍縮対話で言いたいことが何なのかを聞いてみる必要がある」と述べたうえで「朝鮮半島の恒久的な平和を達成する唯一の道は対話と外交である」として、北朝鮮に対して「どのようなレベルでも関心事項について対話を無条件再開したいとのメッセージを発信している」ことを明らかにしていた。

 「米朝軍縮交渉」についてバイデン政権の高官が触れたのはこれが初めてではない。一昨年(2022年)もジェンキンス国務次官(軍備管理担当)がワシントンでの会合(2月27日)で、「我々と対話してくれるなら軍縮はいつでも選択肢になり得る」と発言していた。ジェンキンス次官は金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「仮に電話を取って『軍縮について話したい』と言ったら、我々はノーと言うつもりはない」とも述べていた

 米朝両国は誰もが認めるように敵対関係にはあるが、米国はこれまでホワイトハウスのジョン・カービー米国家安全保障会議(NSC)戦略広報調整官や米国務省及び国防総省のスポークスマンを通じて「米国は北朝鮮に対して敵意を持っていない」(米国務省のミラー報道官)とのメッセージを再三送り、北朝鮮に対話再開を呼び掛けている。

 日本も同様である。岸田文雄首相は就任以来、一貫して金総書記にハイレベルの協議を提唱している。

 昨年5月27日に岸田首相は拉致問題の解決を訴える国民大集会で「今こそ大胆に現状を変えていかなければならない。私直轄のハイレベルで協議を行っていく」と、初めて首相直轄のハイレベル協議に言及し、この年の11月にも同じ国民大集会で「現在の状況が長引けば長引くほど、日朝が新しい関係を築こうとしても、その実現は困難なものになってしまいかねない。今こそ大胆に現状を変えていかなければならない。そのためには我が国自身が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくことが極めて重要であると考えている」と発言し、金総書記に「お互いが大局観に基づき、あらゆる障害を乗り越え、地域や国際社会の平和と安定、日朝双方のため、共に決断していこう」と呼び掛けていた。

 直近では先月9日に開かれた衆議院予算委員会で「さまざまなルートを通じて(北朝鮮に対して)絶えず働きかけを行っている。私自身が主体的に動いて、トップ同士の関係を構築する」と決意を表明していたが、様々なルートを通じて北朝鮮に働きかけを行っているのは事実で、実際に昨年には両国の大使館があるシンガポールなどで接触が行われていた。

 その結果が、昨年5月29日の朴相吉(パク・サンギル)外務次官の「(岸田政権が)大局的姿勢で新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由がない」との談話であり、今年1月15日に金総書記が「岸田文雄総理大臣閣下」に宛てた能登半島地震お見舞い電報であり、それから1か月後の金与正(キム・ヨジョン)党副部長の条件付きの「(岸田)首相が平壌を訪問する日が来ることもあり得る」との談話である。

(参考資料:「日本が決断すれば、岸田首相が平壌を訪問する日が訪れる」と発言した金与正党副長の狙いは?)

 岸田政権の日朝首脳会談実現のための対北アプローチに対して米国務省のジュン・パク特別代表代行は支持を表明し、国防省も「我々は北朝鮮との外交接触を支持し、歓迎する。我々も北朝鮮が望むならば北朝鮮と外交接触を行う用意がある」(サブリナ・シン副報道官)と表明していた。日朝交渉が糸口となり、米朝交渉に繋がることへの期待感が滲み出ていた。

 一方、韓国は歓迎も支持も表明していない。韓国外交部がただ一言「(日朝対話は)北朝鮮の非核化と朝鮮半島の平和と安定に寄与する方向で行われなければならない」とのコメントを出しただけだ。また、対北朝鮮窓口である統一部は「北朝鮮問題では日米と緊密に意思疎通を行っている」(キム・イネ副報道官)と述べ、「韓国が疎外されるのでは」とか「はしごを外されるのでは」との一部憶測を否定していた。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は政権発足(2022年5月)以来、北朝鮮との対話、交流を一切断っている。全く興味も示していない。それもこれも北朝鮮に非核化の意思がないとみているからだ。

 それよりも何よりも尹大統領が南北対話重視の前任の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領を「北朝鮮の偽善に騙され、利用された。首脳会談も所詮政治ショーに過ぎなかった」と手厳しく批判し、「我々は戦争終結宣言など相手の善意に依存する偽りの平和から完全に抜け出し、万全な戦争準備態勢を備えることが大事であり、朝鮮半島平和のためには対話よりも圧倒的な力を蓄えることだ」として対話よりも国防力の強化を最優先していることが最大の要因だ。

 加えて、金政権が尹政権を「歴代最悪の政権である」との烙印を押し、尹政権との関係のみならず、韓国を同族でなく「第1の敵、不変の敵」とみなし、関係をすべて断絶したことも決定的な要因となっている。

 尹政権は岸田、バイデン政権と違って北朝鮮に対して強硬で、対決姿勢を鮮明にしている。例えば、日米と違って、尹政権は金政権を「非理性的集団」と呼び、国防白書には金政権と朝鮮人民軍を「主敵」と定めている。

 また、統一部も北朝鮮が対南事業を担う機関を閉鎖したこともあって、南北対話の窓口としての機能は完全に喪失し、金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官曰く、統一部が「北朝鮮の劣悪な人権の実情を告発する」部署に衣替えしているのが実情である。

 韓国は「北朝鮮はソウルの頭越しに東京とワシントンには行けない」(金統一部長官)と自信たっぷりだが、仮に日朝交渉が再開され、首脳会談に向け動き出した場合、傍観するのか、阻止するのか、それとも便乗するのか、大いに注目される。

(参考資料:日朝「失われた20年」 実らなかった「拉致」公式・非公式接触の全記録)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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