波平さんも「リスキリング」が必要の時代か? 本当に必要なのはリスキリングではなく「○○習慣」!
■ついに「仕事人生80年時代」がやってきた
もし「サザエさん」が現代風に描かれていたら、波平さんはセカンドキャリアのために「リスキリング」に力を入れていたかもしれない――。
「サザエさん」でおなじみの磯野波平さん(サザエさんのお父様)は何歳かご存じだろうか。設定では「54歳」。私(53歳)とほぼ同じ年である。
当時1950年代は、55歳定年制の時代だった。そう考えると、波平さんはあと1年で定年退職していたのかもしれない。
頭のてっぺんに残った一本の髪の毛、浴衣のような着物、怒ったら怖い性格、自分のことを「わし」と呼ぶ振る舞いなど。
年齢はほぼ同じでも、とても波平さんのような威厳を持ち合わせてはいないと私は思う。というか、あんな貫禄のある50代は、ほとんど見かけなくなった。ずいぶんと時代は変わったものだ。
波平さんは、現代の感覚だと70歳ぐらいに見える。
その70歳。今では70歳男性の就労率は45%にものぼるという。私が70歳を迎える17年後は、おそらく60~70%まで増加していることだろう。つまり70歳を過ぎても男性のほとんどは何らかの形で働いているということだ。
波平さんの年齢になっても、まだまだ先は長い。人生100年時代なのだから、もはや「仕事人生80年時代」と考えていいのではないか。
■波平さんは格好の「リスキリング」対象者
それでは「仕事人生80年時代」を生き抜くためには、何が必要なのだろうか。80歳まで働くのに、気力や体力が必要なのは当然だ。では、能力はどうだろう?
よほど特殊な技能でない限り、新たな能力開発は必要だ。
多くの企業が今後、事業転換を迫られていく。産業構造が大きく変化するのは間違いないからだ。同じ会社で働くにしても、どこかで新たな能力を身につけなければ働き続けることはできない。
そのために必要なのが「リスキリング」だ。リスキリングとは、新しい知識やスキルを身につけることである。技術革新やビジネスモデルの変化に対応するため、大企業を中心に近年取組みが進んでいる。
もし現代バージョンの磯野一家が存在したら、波平さんも「リスキリング」で忙しい毎日を送っていただろう。
波平さんは上場会社の課長である。「人的資本への投資」を推し進める岸田首相にとっては、格好のリスキリング対象者だ。
悠々自適な年金生活を送りながら、好きな盆栽に向き合える時期はまだ先だったろう。
今勤めている総合商社を早期退職して、動画編集やデザインの仕事を在宅ワークでやっていたかもしれない。
■「リスキリング」は焦らなくていいが……
中高年にとって、セカンドキャリアは切実な課題だ。
セカンドキャリアを真剣に考えはじめるのに、50代では遅いともいわれる。昨年、新浪剛史氏(サントリーホールディングス社長)が「45歳定年制」を提唱したように、45歳が一つの目安。セカンドキャリアは40代前半から考えるべきだろう。
だが、焦る必要はないとも言える。
昔と違って、能力開発にそれほど時間がかからないからだ。ノウハウの蓄積と、最先端のテクノロジーによって、学習プログラムそのものが進化している。
おかげで、たいていの能力は、1年や2年、しっかりトレーニングを受ければ大丈夫。仕事を任されるぐらいにはなる。だから、どんな新しい能力を身につけなければならないのか、焦って探す必要はない。
いっぽう、焦って身につけなくてはならないこともある。それは「学習習慣」である。
「学習習慣」がなければ、本格的な能力開発に取り組んでも、なかなか身につかない。長い間、学習する習慣がない人は認知機能が衰えるからだ。
わかりやすい例を書こう。
認知機能が衰えている人は、「長い説明」に耐えられない。耐えられたとしても、要点をうまく整理できない。理解力が落ちているので、結果、トレーニングを受けても途中で投げ出してしまうのだ。
これは年齢の差ではなく、「学習習慣」の差なのだ。
「50歳を過ぎたら、なかなか頭に入らない」
と言う人がいるが、違う。20代でも、日ごろから学習習慣がない人は、本も読めないし、セミナーに出席しても集中力が続かない。
いっぽう、60歳過ぎても、70歳過ぎても長い研修に耐えられる人はいる。勤勉な社長とかは、好例だ。
先述したとおり、音声や動画教材、eラーニングなど、学習プログラムはドンドン進化している。「学習習慣」があって認知機能が高い人は、新しいスタイルにすぐ馴染むことができるだろう。
働きながらでも、隙間時間を使って新たな能力を身につけることができるのだ。
重要なことは年齢ではなく、日ごろの「学習習慣」だ。認知機能が衰えていると、世の中の変化にも鈍感になる。