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笑いと風刺の夏ドラマ「民王」が、猛暑を吹き飛ばす!?

碓井広義メディア文化評論家

全国的に、バンコクを凌ぐような猛暑が続いている。それに加えて、安保法案、新国立競技場問題、TPP閣僚会合と、体だけでなく精神的にも疲労度の高い夏だ。せめてテレビドラマくらいは心の涼を提供して欲しいと思う人は多いのではないか。猛暑を吹き飛ばしてくれそうな夏ドラマを探してみた。

既視感にあふれた恋愛ドラマ「恋仲」

7月に今期ドラマがスタートしてみると、別の意味で寒くなるようなものが目立った。まず、“王道ラブストーリー”を自称する「恋仲」(フジテレビ系)だ。

「あまちゃん」バブルを引きずる福士蒼汰が主演で、以前から演技力に疑問符がつく本田翼がヒロインだが、キャスティングの弱さは隠しようがない。

確かに、「あまちゃん」の福士は良かったかもしれないが、彼をいきなり月9の主役として扱ってよかったのか。本田もモデルとしてはいいが、女優としての需要はあるのか。制作側に、そのあたりの読み違いがあったとしか言いようがない。

肝心のストーリーも、非常に既視感のある場面展開やセリフが続いて、過去の恋愛ドラマのパロディに見える。これが月9として渾身の一作だと言われると困ってしまうほどだ。

“声優・満島ひかり”ばかりが光る「ど根性ガエル」

往年の人気アニメを実写化した「ど根性ガエル」(日本テレビ系)は、Tシャツに張りついた平面ガエル、ピョン吉の声を担当する満島ひかりの天才的上手さと、高度なCG技術だけが、やけに印象に残る。ストーリーが大事なドラマで、声の出演とCGが注目されるのでは本末転倒だろう。

それにしても、なぜ、ここまで原作の世界観を壊してしまう必要があったのか。見る側は、ニートでだらだらした30歳のひろし(松山ケンイチ)や、離婚して帰ってきて不貞腐れている京子ちゃん(前田敦子)に困惑するばかりだ。しかも前田の演技には奥行きがなく、芝居はAKB48を卒業した頃にまで後退したようにさえ見える。

一方、同じ日本テレビ系ながら好調なのが、ヒットシリーズとなった「花咲舞が黙ってない」である。「お言葉を返すようですが・・」という言葉をきっかけに、舞(杏)が見事なたんかを切るのは、水戸黄門の印籠のようなものだ。一話完結で見終わってすがすがしい作りは、まさに夏向きだろう。

笑いと風刺の変化球コメディ「民王(たみおう)」

「花咲」と同様、池井戸潤の小説を原作とするのが「民王」(テレビ朝日系)だ。時の総理大臣(遠藤憲一)と、その不肖の息子(菅田将暉)の心が、突然入れ替わってしまうという破天荒な物語である。

登場人物の“心が入れ替わる”という設定はこれまでにもあった。大林宣彦監督「転校生」(82年公開)の幼なじみ男女、ドラマでは「パパとムスメの7日間」(TBS系)の父と娘、「さよなら私」(NHK)の親友同士のアラフォー女性などだ。

しかし、総理大臣父子となると、本人たちだけの問題では済まない。話が外交など国家レベルにまで発展するあたりが大いに笑える。基本的にはドタバタコメディでありながら、政治や権力をめぐる風刺劇にもなっている点が秀逸だ。この夏一番の清涼剤かもしれない。

遠藤と菅田のテンションの高さも尋常ではない。2人はさだまさしの自伝ドラマ「ちゃんぽん食べたか」(NHK)でも父子を演じていたが、どちらもまるで別人だ。ワニ顔を千変万化させる遠藤はもちろん、傍若無人な父親の心を持ったダメ息子を演じる菅田の怪演も一見の価値あり。“黙ってない”のは花咲舞だけではなさそうだ。

直球勝負の青春ドラマ「表参道高校合唱部!」

もう1本、意外な佳作がある。「表参道高校合唱部!」(TBS系)は、香川県小豆島から東京の私立高校に転校してきた合唱好きの女子生徒(芳根京子)が、廃部寸前の合唱部の再建に奔走する物語だ。

このドラマの良さは、まず劇中の歌に本物感があり、仲間と歌う合唱の楽しさが伝わってくること。また芳根をはじめ、森川葵、吉本美憂、志尊淳など“次世代”を感じさせる若手俳優たちの魅力である。特に、単なる表層的な美少女ではなく、地に足のついた骨太な少女像を体現している芳根に注目したい。「民王」と並んで、猛暑に負けない元気が出る夏ドラマだ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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