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スコットランドと北アイルランドに橋を架ける案が浮上中。ジョンソン首相が指示:イギリス・ブレグジットで

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
北アイルランドとスコットランドの最短距離は約19キロ。チャンネル4のビデオより

「橋さえかければ、ブレグジットは解決だ」。

スコットランドから北アイルランドに橋を架ける案が浮上している。政府当局者が「この計画に関するペーパーを作成するよう、ジョンソン首相から求められている」と明らかにした。今週9月10日『チャンネル4ニュース』が伝えた

同ニュースが見た文書では、財務省と運輸省が考えられる費用とリスクについて首相から助言を求められているという。リスクの中には、海中に潜んでいるかもしれない第二次世界大戦中の弾薬も含まれている。しかも、やや緊急の扱いだそうだ。

スコットランドのストランラーから北アイルランドのラーンまで、かかる費用は150億ポンド(約2兆円)。

2つの島の距離は最短で、約12マイル(約19.3キロ)だという。東京駅ー川崎くらいの距離である。

橋といえば、四国と本州を結ぶ3本の橋が思い浮かぶ。3本3ルートのうち、最長は神戸・鳴門ルートの全長89キロである。「なんだ、それなら19キロなんて楽勝じゃないか」と思ってしまうが、3本とも瀬戸内海の小さい島と島をつなぎながら架かっているのだ。

島のない部分の最長は「明石海峡大橋」。世界最長の吊り橋で本州と淡路島を結んでいて、全長は約4キロ(3,911メートル)である。19キロにはとても及ばない。

グーグル・アースで見た限りでは、スコットランドのストランラーから北アイルランドのラーンまでの間には島はない。

スコットランドのストランラー地域。寒い地域で、風が強く荒涼とした感じである。チャンネル4のビデオより
スコットランドのストランラー地域。寒い地域で、風が強く荒涼とした感じである。チャンネル4のビデオより

同地の橋といえば、有名なのがフォース橋という世界遺産だ。エジンバラ近郊のフォース湾にかかるカンチレバー(片持ち梁)トラス橋で、強風に耐える設計になっているのが特徴だ。しかしこちらは、2530メートルしかない。

「鋼の恐竜」という別名をもつ。wikipediaより。
「鋼の恐竜」という別名をもつ。wikipediaより。

「橋さえあればブレグジット問題は解決」

実はこの案、今回初めて浮上したのではない。

ジョンソン氏が外務大臣だった昨年から討議されているという。

『ガーディアン』によると、ジョンソン氏は昨年、『サンデー・タイムズ』のインタビューでこの考えを明らかにしていた。この記事は、引退したオフショア技術者が書いた手紙の中の一文、「月に橋を架けるのと同じくらい実現可能だ」で終わっていた。

政府の広報担当者は、複数ある政府の定期委員会は、実行する可能性のある議題については、首相交代のキャンペーン期間中であっても継続審議していると語る。

運輸省は「この件に関する実際のペーパー」を作成しており、これは前運輸大臣だったクリス・グレイリング氏とDUP党(北アイルランドの強硬イギリス派)との対話でうまれたものだという。DUPは下院議会で保守派を支持して与党の一部となっている。

DUPは、橋がブレグジット問題の行き詰まりを打破できる、橋がアイルランド海にある境界の問題を取り除くことができる、と信じているというのだ。

参照記事:バックストップは北アイルランドに限定か。法の抜け道を探るジョンソン首相と政府

その気持が痛いほどわかるのは、筆者が島国出身の日本人だからだろうか。四国に3本の橋、北海道にトンネル・・・「つながりたい!」という欲求は、島国国民のDNAなのか?

どうも大陸側の人間は「(2つの島の間の)アイリッシュ海にバックストップの境界を引いたっていいじゃないか。どうせ海だから、検問があっても目立たないだろう」と考えているフシがあると思う。

実際のところ検問は、本当に大陸と違って海は目立たない。いったいどれだけの日本人が、実際には行われている港での検問を目にしたことがあるだろうか。大陸は全然違う。日本人にはわかりにくいが、高速の料金所に検問所がセットになっているイメージを描けば、割と近いだろうか。

でも橋さえできれば、両者は「陸続き」と似た感じになる。欧州連合(EU)に対しても「橋の所に検問所をつくるのか?!両者を分断するつもりか?!」と主張しやすくなるではないか。

アイルランドは、冷戦時代に分断された東ドイツを引き合いに出して、「アイルランド島を分断するな!」と言ってEU全体を味方につけた。それなら「橋さえあれば、北アイルランドだって『イギリスと分断するな!』と言える。同じ戦略で対抗できる」ということだろうと思う。

参照記事:アイルランドは統一され、英国は北アイルランドを失うのか:なぜ英国 VS アイルランド+EU26カ国か

ハコモノ好き。特に橋が大好き

ジョンソン氏は、こういったハコモノを建てたくてたまらない政治家のようだ。特に橋が大好きに見える。

ロンドン市長時代、「ガーデンブリッジ」構想の支持に熱をあげていた。これはテムズ川に新たに橋を架け、浮かぶ庭のようにするという構想だった(ガーデンに橋にエコ・・・いかにもイギリス人の心をくすぐりそうだ)。

予算は1億8500万ポンド(約247億円)と言われた。結局、約4300万ポンド(約57億円)の税金を使った後に中止となった。

ガーデン・ブリッジのイメージ。次期市長により計画は正式に中止となった。
ガーデン・ブリッジのイメージ。次期市長により計画は正式に中止となった。

さらに、橋ではないが、テムズ河口に空港をつくる計画も支持した。これは「ボリス島」と呼ばれた。

どちらも否定されて、実現の見込みはない。

彼は外務大臣だった時代に、フランスとイギリスの間に橋をかけると言ったことすらある。この発想自体は、ビクトリア女王時代からあり、サッチャー首相の時代にも浮上したことがあり、新しくはないという。しかし、今はユーロトンネルがあるではないか。列車ユーロスターも通り、車も運ばれている。なぜ橋の必要性があるのだろう・・・???

北アイルランドとスコットランドの間だって、トンネルを掘ればいいのに。青函トンネルみたいに。そのほうが技術的にも可能性が高いのではないだろうか。

でも、トンネルだと目立たない。やっぱり橋じゃないとパフォーマンス力が弱い。EUに対して「検問反対!分断するのか!」という主張が弱くなってしまうという理由だけではなく、自分の政治家としての虚栄心が満たされないからに違いない。

とはいえ、虚栄心が橋建設に向かうのは、やっぱりイギリス人と日本人は島国で似ているのかなと、ちょっと親しみを覚えないこともない。

しかしまあ「次から次へと、よく考えるなあ・・・」と感心はする。

ブレグジットは、正念場の前の、嵐の静けさの真っ只中だ。ボコボコ出てくる話が面白すぎて(すみません)、目が離せない。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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