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イギリスがEUとの和解へ。ウクライナ戦争への影響、米国EUとの板挟みとは。激動の欧州(2)

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
10月2日、スターマー英首相がブリュッセルでデアライエン委員長と会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

イギリスが、EU(欧州連合)を離脱することを国民投票で決定してから、7年が経った。

冷え切っていたEUとの関係を改善するために、今年7月に英首相に就任したスターマー氏は、EUとの部分的な和解をはかろうとしている。

今年7月に14年ぶりに政権交代が起きた。保守党から労働党へ。とはいえ、ウクライナ支援の姿勢に関しては、前の保守党と今の労働党で、路線に変わりがないように見えるだろう。率先して武器等を提供する姿勢である。

しかし、前と今とでは、大変重大な違いが一つある。

保守党政権は、防衛・安全保障の分野でEUとの交渉の可能性を拒否していた。しかし、労働党のスターマー首相は、この点でEUとの和解を行う方針なのだ。

何度も書くが、たとえイギリスが重要な軍事大国であり、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国であっても、今のままでは欧州の防衛・軍事において、最も重要な中心的政治リーダーの一カ国には決してなれないだろう。27カ国が集まり欧州の政治を決めている大組織・EUから離脱しているからだ。

そして欧州大陸側にとっても、核兵器を保有するイギリスの軍事力は必要である。しかし、EU関係者やヨーロッパ大陸の人々には、ブレグジットで、根強いイギリス不信が存在する。

イギリスは、もしウクライナ戦争の停戦交渉で重要な役割を担いたいのなら、自国が軍事・防衛の政治で欧州で重きをなしたいと思うのなら、部分的であってもEUと和解しなければならないのだ。

イギリスとドイツの防衛協定

それでは7月5日から首相となったスターマー氏と労働党は、どのようなことをしてきたのだろうか。

まず特筆するべきは、イギリスがドイツと「歴史的な」防衛協定を10月23日に結んだことだ。このような種類の協定が両国で結ばれるのは、初めてのことだ。

英国の国防省のプレスリリースによると「トリニティ・ハウス協定」と名付けられている。

このようにEU加盟国との二国間防衛・軍事関係を深めていくことは、大変理にかなっていると言えるだろう。

イギリスのヒーリー国防相は声明の中で、「この合意はドイツとの関係における転換点であり、ヨーロッパの安全保障を大幅に強化するものだ」と述べた。ロシアの侵略が強まり脅威が増大する中で、国家安全保障と経済成長を強化することを目的としている。

ヒーリー英国防相のXより。
ヒーリー英国防相のXより。

具体的には、両国は今後何年にもわたり、あらゆる領域(空、陸、海、宇宙、サイバー)にわたって、様々な画期的な防衛プロジェクトで体系的に協力することになる。これには、ストームシャドウなど、現在のシステムよりも、より高い精度でより遠くまで到達できる、最新の拡張型ディープストライク兵器を、共同で迅速に開発することが含まれる。

また、欧州の東部側面を強化するために、両軍はより多くの訓練と演習を共に行い、東部戦線を新たな戦闘方法を開発するためのきっかけとして利用する。

さらに、スコットランドのロッシーマウスからは、ドイツがアメリカから購入したP8哨戒機(通称「ポセイドン」)が定期的に運用されるようになる。

確かに、今までNATOという枠組みはあったにせよ、ドイツとイギリスが手を携えて欧州防衛にのぞむというのは、新しい光景に見える。

ピストリウス独国防相は、英国がEUを離脱した14年間の保守党政権を経て、今回の合意は「英国とドイツが接近している」証拠だと述べた。そして「ヨーロッパの安全保障を当然のものと考えてはならない」と警告した。

欧州政治の面でも、スターマー首相は意欲的である。

独英の防衛協定に先立って、7月18日には、イギリスは欧州政治共同体の第4回会合を、英南部オックスフォード近郊のブレナム宮殿で開催した。首相就任後、わずかに13日後のことだ。

スターマー新首相は演説で「欧州の全ての国々との関係をリセットし、共通の利益を見出したい」と述べたのだった。EU回帰への宣言とも見える。

マクロン仏大統領の創設した欧州政治共同体は、役割を発揮しだしたようだ。

7月18日、欧州政治共同体会合で、移民問題に関するワーキングセッションに出席する欧州の首脳たち。
7月18日、欧州政治共同体会合で、移民問題に関するワーキングセッションに出席する欧州の首脳たち。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そして、11月26日には、フランスとイギリスが、ウクライナに軍を派遣することを検討していると、『ル・モンド』紙が報じた。

参考記事:仏英が欧州軍のウクライナ派遣を検討している。目的は何?平和維持軍? 欧州人は欧州防衛をどうする(2)

これらのことはイギリスとEUが、部分的にではあるが、関係を修復し始めた証と言えるだろう。

野党の「影の内閣」時代から練られてきた戦略

ブレグジットを実現した、保守党のジョンソン首相(当時)のパフォーマンスぶりは、ウクライナ支援においても大変なものだった。

武器を率先して供与する姿勢は、当然だが、ウクライナ人からは大変感謝された。

そしてこれは「ブダペスト覚書」を重視する姿勢でもあったに違いない。

この覚書は、冷戦が終了しソ連が崩壊した後の1994年に、米国・英国・ロシアの間で調印されたものだ。

独立したウクライナに存在するソ連の核兵器(当時、世界第3位の規模)を、ウクライナは放棄することと引き換えに、三国政府はウクライナの領土一体性に対して、軍事力を行使または利用しないことを保障する内容だ。

また、この規約への疑問が生じた場合には、英国、米国、ロシアが協議の場を持つことを義務づけていた。

この覚書が全く無駄な紙になってしまった現実で、英国政府は大なり小なり責任を感じて、ウクライナ支援に熱心だったのかもしれない。

とはいえ、EUとの連携を拒否して援助を行うジョンソン首相の姿は、欧州大陸からは、自己顕示欲の強いスタンドプレーに見えないでもなかった。

独自外交と言えば聞こえはいいが、そうする以外にイギリスの存在感を示す方法がないと皮肉交じりの見方もあったと思う。

ジョンソン首相。2019年。プーチン氏を裁くための特別法廷を求めるフィリップ・サンズ教授は、彼を「レイシスト」と非難。彼の中傷と分断の言葉で、特定のアイデンティティに対する憎悪が悪化したと批判した。
ジョンソン首相。2019年。プーチン氏を裁くための特別法廷を求めるフィリップ・サンズ教授は、彼を「レイシスト」と非難。彼の中傷と分断の言葉で、特定のアイデンティティに対する憎悪が悪化したと批判した。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そのような保守党政権の間、野党だった労働党のスターマー氏は2020年から「影の首相」を務めていたが、戦略を練って行動にうつしていた。

彼は、保守党と同じく、イギリスはNATOで最も影響力のあるメンバーの一国であり続けるという野心をもっていたが、同時にEUとの密接な関係を望んだ。そして野党時代に、既にチームで準備を進めていた。

中心となったのは、現在国防大臣となったヒーリー氏と、外務大臣となったラミー氏だという。

ヒーリー国防相は、元々はジャーナリストだが、労働党のブレア政権とブラウン政権の時代に大臣を務めた経験をもち、ラミー外相は、同政権時代に弁護士を務めた経験をもつ。

野党時代に二人は、EUの首都ブリュッセルやベルリンとコンタクトをとって、政権を取る日のために着々と準備を進めてきた。

スターマー氏のチームは、2010年にキャメロン元英首相とサルコジ元フランス大統領の間で調印された「ランカスター・ハウス条約」(軍事協力の深化、共同研究開発プログラム)に沿って、ベルリンとの防衛協定に取り組んできたと、仏紙『ル・モンド』は報じている。

スターマー氏の外交デビューは、就任4日目に7月9日にワシントンで行われた、NATO首脳会議への出席だった。彼が組んだ予定は、まずゼレンスキー大統領と、到着したばかりのマクロン大統領と会談、そしてバイデン大統領と直接会うことだった。

そして前述したように、7月18日には欧州政治共同体の会合でホストを務め、10月23日ロンドンで、ヒーリー英国防相とピストリウス独国防相が、防衛協定に署名した。

NATO首脳会談を前に、ワシントンD.C.のホテルで会談を行ったスターマー氏とゼレンスキー氏。7月10日。
NATO首脳会談を前に、ワシントンD.C.のホテルで会談を行ったスターマー氏とゼレンスキー氏。7月10日。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ただし、スターマー首相がEUとの距離を縮めようとしているといっても、単一市場や関税同盟への再統合を要求することは考えていない。

ダウニング街は、ブレグジットをめぐるいまだ毒の残る議論を再開させるリスクを冒したくないのだという。

EU側は、18歳から30歳までの若者に限って、EU域内とイギリスで学び働くことを容易にするという計画をイギリスに提案していたが、前保守党政権も、労働党政権も、どちらも拒否した。

この案では、イギリス人は一カ国のみの滞在で、EU市民と異なり自由にEU域内を移動することはできない。

それにもかかわらず、「労働党は、労働力の自由な移動制度に復帰するつもりはないという立場を明確にしている」とラミー外相は述べている。

恐ろしい閉鎖性だと感じる。欧州の出身国の異なる若者の交流の場から、イギリス人を排除するようなものだからだ。

英国とEUの「安全保障協定に関する共同声明」は実現するのか

今、行方が気になるのは、イギリスとEUが、安全保障協定(wide-ranging security pact)に関する共同声明を出すという話である。

7月にイギリスの『ガーディアン』やフランスの『ル・モンド』が報じていたが、これぞEUとの和解と思える重要な内容なのに、進展が見られない。

労働党は、防衛、エネルギー、気候危機、パンデミック、さらには不法移民までをカバーする広範囲な安全保障協定の導入に向けて、EUとの包括的な共同宣言を求めていると、ラミー外相は『ガーディアン』に述べたのだった。

EUとの関係を再構築し「ブレグジット時代に終止符を打つ」という新政府の計画の一環である。

ラミー外相。12月2日。
ラミー外相。12月2日。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

「我々は、マニフェストで野心的な安全保障協定を望んでいると述べましたが、それは数年にわたって、ヨーロッパとこの件について話し合ってきたからです。特にウクライナ戦争や、エネルギーと気候に関してEUが直面している課題を受けて、防衛だけにとどまらない幅広い取り組みを望む声があると思います」と、外相として初めて欧州大陸を訪問した際に述べた。

EU側の人々には、拭い難いイギリス不信があるが、それでも、政権を交代する前からEUと会合を重ねてきた労働党に、期待はしている。

例えば、EU外務・安全保障政策を担当するボレル上級代表(当時)は、EU外務理事会の10月会合に、ラミー外相を招待した。EU外の国が出席するのは、大変まれである。保守党政権は拒否していた。

労働党は、計画されている安全保障協定がもし進展すれば、不定期に出席することも可能かもしれないと考えている。

「私は、EUとの構造化された対話の場を設けることを、大変切望していると述べてきました。そこに到達できることを期待しています」とラミー外相は述べた。

イギリスは欧州防衛基金に参加するのか

ただ、イギリスのEUへの接近について、英『ガーディアン』と仏『ル・モンド』の報道では、よくわからない、かなりの違いが見えた。

フランス側の報道によれば、共同政治宣言の形をとる可能性があるのは、条約を締結するよりずっと早く署名できるからで、これは最初の一歩だという。

そして次のステップとして、イギリスの欧州防衛基金の参加が考えられているというのだ。この二段階のアプローチが、ブリュッセルとパリで綿密に検討されていると報じた。

「欧州防衛基金(EDF)」とは、防衛産業に対して支援を提供することで、研究開発の効率の向上を目指すものだ。2021年から2027年までの総予算は、約80億ユーロだ。

大きく二つに分けられており、研究段階の共同プロジェクトへの資金提供に約27億ユーロ、開発段階の共同プロジェクトへの共同資金提供に約53億ユーロとなっている。

この基金には、条件さえ満たせば、EU域外に設立された企業や研究機関も参加できる、オープンで透明性のあるプログラムだ(ただし、助成金を直接受け取ることはできない)。

先駆けて実施された欧州防衛産業開発計画(EDIDP)で選出されたプロジェクトには、日本、米国、スイス、インド、イスラエル、オマーンなどの国や企業・機関が管理する10の事業体が含まれていた。日本については、日本企業の欧州子会社が支援を受けた。

一方、イギリス側の報道では、労働党は、法的拘束力のある共同文書に反対していると言われているという。

そして、労働党は、安全保障協定について、いくつかの小委員会を持って年次サミットを開催するEU・米国技術評議会のようなものを設立できるかどうかを検討しているということだ。こうすれば、EU・英の年次サミットが実現できる。

欧州防衛基金の報道など、イギリス側では書かれていなかった。EU側(特にフランス?)の希望に過ぎないのだろうか。

何が到達点かは不明だが、どちらの報道にも共通しているのは、交渉は困難なものになるという予測である。

ただ、フランス側では、トランプ氏が当選してホワイトハウスに復帰する可能性を見越して、11月に米大統領選の結果がでる前にこの政治共同宣言が行われる可能性があることが報じられていた。

しかし未だに何もない。どのように進んでいるのか、続報を待つしかない。

とても良好とは言えない米英関係

なぜ今もって何もないのだろうか。

欧州の問題ではなく、米英関係が問題なのかもしれない。イギリスがEUに近づきすぎることは、トランプ氏の怒りをかうリスクがあるかもしれないからだ。

保守党のジョンソン首相は、精力的に米英関係を推し進めた。バイデン大統領は、オバマ大統領とは異なり、まだ米英の歴史的な絆を理解する人だった。オーカス(米・英・豪の軍事同盟)は2021年9月に発足させることができた。

トランプ氏は、今のイギリスをどう思っているのだろうか。

個人的なレベルでは、スターマー首相は、9月末にニューヨークで事前にトランプ氏に会い、つながりを築こうとしていた。他の多くの国々の政治家と同じように。

しかし、10月中旬、トランプの選挙運動チームは、「民主党のカマラ・ハリス候補の選挙運動を支援するために、数十人の活動家を送り込んだ」として、「労働党を英国選挙管理委員会に訴える」と脅した。

首相のパートナーであるラミー外相は、2018年の野党議員時代に、トランプ大統領を「暴君」「女性嫌いで、ネオナチに共感する社会病質者」と評したことがある。

さらに2019年には、トランプ大統領の英国公式訪問を前に、「妄想に陥り、不誠実で、外国人嫌いで、自己中心的」であり「英国の友人ではない」と投稿したこともある。

個人対個人の交渉を好むトランプ陣営は、重要政治家の言動を忘れてはいないということだろうか。

また国内でも、政敵である保守党は、アメリカや英連邦王国の仲間の国々との関係を重視したので、スターマー労働党政権がとるEU回帰への姿勢には、批判や懐疑の目がある。

スターマー政権としては、アメリカとEUの板挟みになりかねない状況と言えるだろう。

同首相は、12月2日のロンドン市長主催の夕食会で「この危険な時代を背景に、同盟国のどれかを選ばなくてはならないとか、アメリカかヨーロッパのどちらかにつくという考えは、まったく間違っている」、「その発想を私は完全に拒否する」と演説した

ただ問題は、そのようなものだけではないことを、付け加えておきたい。

極右政党「リフォーム英国」党の、ファラージ党首という人物がいる。ブレグジットの立役者で、お馴染みの顔かもしれない。

彼は、トランプ候補のゲストとして、米大統領選の夜を、トランプ氏の地元フロリダで過ごした。

9月20日、英国バーミンガムで行われた党全国大会で演説するファラージ党首。
9月20日、英国バーミンガムで行われた党全国大会で演説するファラージ党首。写真:ロイター/アフロ

ファラージ氏はBBCウエールズのインタビューで、ラミー氏とトランプ氏の関係における「問題」とは、「非常に重要な米海軍基地があるチャゴス諸島の放棄」など、他の問題からもたらされるだろうと警告したという。

(チャゴス諸島は2024年10月、「脱植民地化」のために、イギリスからモーリシャスに主権が渡されると発表された。しかしディエゴ・ガルシア島という最大の島には、米英軍の基地がある)。

ちなみに、この二人は以前から仲が良いようだ。2020年の米大統領選のとき、ファラージ氏はトランプ氏の応援にアメリカまで駆けつけていた(バイデン氏が当選し、トランプ氏は大統領の座を追われたが)。

あのEU大嫌いのファラージ氏のことだから、労働党の悪口をトランプ氏に吹き込んでいる姿を想像してしまう。

1月からの「議長国ポーランド」が鍵となるか

フランスとイギリスの報道で違いはあれど、どちらにも共通していたことはもう一点ある。

ポーランドへの期待である。

労働党の勝利のすぐ後、7月6日から、ラミー英外相は、ポーランド、ドイツ、スウェーデンへの旅に出た。

外相は「リセットに真剣に取り組んでいます。ポーランドとドイツでは、(英国で)新しい政権が誕生したことを喜んでいると感じました。私たちは未来を見据えたいと明確に考えています。調整しなければならない問題はたくさんあると思いますが、すべては交渉と話し合いの問題です。しかし、私は進むべき方向を定めました」と語った。

さらに、この広範な問題提起は、ポーランドのシコルスキー外相とラミー氏によってなされたという。シコルスキー外相は、将来の協力について両者は「いくつかの独創的なアイデア」について話し合ったと述べた。

2023年に、両国は、外交政策・安全保障・防衛に関する2030年戦略的パートナーシップ共同宣言に署名した。これがさらに進んで、ロンドンがベルリンやパリと結んでいるような「特権的パートナーシップ」に向かう可能性もあるだろう。

北欧・バルトとの協力を強化し、EUの一つの核の中心になる野心をもつポーランドにとって、イギリスとEUとの軍事・国防面での和解がなされれば、一層強力な味方を得ることになるだろう。

参考記事ポーランドと北欧の連帯が、ウクライナ戦争停戦のカギとなるか。激動の欧州(1)

フランスの報道では、イギリスが欧州防衛基金に参加するかどうかの問題は、もっと後、ポーランドが2025年1月にEUの輪番議長国を引き継いだ後に詰める可能性があるとの専門家の話を伝えていた

現在のハンガリー議長国の任期が早く終わって、次のポーランド議長国になるのを、ほとんどのEU加盟国が待っている。

しかし、多くの欧州当局者は、EU離脱交渉中の、英国の都合のいいとこ取りをしようとした行動を忘れていない。依然として疑念を抱いている。信頼とは、一度壊れてしまうと、回復はなかなか難しいものだ。

「英国が本気で取り組んでいることを示すには、欧州防衛基金などの取り組みに、財政的かつ有意義な貢献をする意志を示さなければならない」と、シンクタンク「The European Council on Foreign Relations」のアナンド・サンダー氏は述べている。

イギリスの強みは、英議会の外交委員長のソーンベリー議員(労働党)が述べたように「われわれは(英議会の安定)多数派であり、5年間ここにいる」ことだ。

12月1日からはEUの欧州委員会で、第二次デアライエン委員会も始動したばかりだ。これから5年間は、特別なことが起きない限り、各国から一人ずつ選ばれる委員(大臣に相当)のメンバーは変わらない(ちなみに委員長を入れて27人中11人が女性である)。

主要各国の政治情勢に不安が残るものの、英政権が安定していることで、EUとイギリスの和解は、部分的ではあるものの、ゆっくりながらも進んでいく可能性は高いだろう。

次回は、トランプ次期大統領の訪問を受けたフランス、あるいはドイツのことを書く予定である。

トランプ次期大統領は12月7日にパリにやってきた。ノートルダム大聖堂の再開を記念する式典の出席のためだが、欧州でまず一番最初にフランスに来たことは意義深い。
トランプ次期大統領は12月7日にパリにやってきた。ノートルダム大聖堂の再開を記念する式典の出席のためだが、欧州でまず一番最初にフランスに来たことは意義深い。写真:ロイター/アフロ

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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