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ミッションは、東北の手しごとや文化を伝えること/Koquela(コケラ) 金盛友実さん

岡沼美樹恵フリーランスライター/編集者/翻訳者
大学で伝統工芸を学び、東北の魅力を再認識したというKoquelaの金盛友実さん

東北の手しごとや文化を伝えることをミッションに、2021年に発足したブランド「Koquela」。

東北が誇る伝統工芸品であるこけしの卸や、オリジナルデザインのかわいらしいこけしの販売を行っているこのブランドの主宰者が、今回の主人公・金盛友実さんです。

仙台出身の金盛さんは、こけしがあるのが当たり前の環境で育ちました。

「当たり前すぎて『もう知ってます』っていう感覚だったんです。でも、二度目の大学である京都芸術大学で地域振興と伝統工芸を専攻し、少しずつ考えが変わってきました。たとえば、京都や金沢の方たちって、地元の伝統工芸品にすごく誇りを持っていらっしゃるんですね。『うちにはこんなにすごいのがあるんだよ』って。それで、先生方からも『一度、地元の素晴らしいものにふれあってごらん』というアドバイスをいただき、東北の工人さんや職人さんにインタビューをすることになったんです」

金盛さんは、かわいらしいこけしたちの魅力を再発見。魅了されていきました(写真提供:Koquela)
金盛さんは、かわいらしいこけしたちの魅力を再発見。魅了されていきました(写真提供:Koquela)

こうして始まったのが、「こだまProject」。このプロジェクトで金盛さんは、東北を中心に全国各地の工人・職人の手しごとを取材し、Instagramで発信するようになりました。

ところで、金盛さんにとって京都芸術大学はふたつ目の大学。なぜ、進学を決意したのでしょうか。

「前職はキャリアカウンセラーだったのですが、結婚を機に仙台から東京に移り住むことになりました。夫のおばあちゃまが京都芸術大学の出身で。『ここはいいわよ』と勧めてくれたんです。東京にはサテライトもあり、通信で授業を受けることができたのも背中を押してくれました。もともと私はモザイクアートが好きで、タイルや左官の勉強もするほどタイル職人になりたいと思っていたんです。職人さんという職業には『自分がなりたかったけどなれなかった』ということもあり、ものすごくリスペクトがありました。だから、職人さん、工人さんが一族でその技を極めていくというところに、大きな興味もあったんです」

大学の先生方からのすすめもあり、始まった金盛さんのフィールドワーク。まずは、金盛さんのお父さまが宮城県白石市の出身だったこともあり、インタビューはもっともなじみのある白石の弥治郎系こけし(※)工人から始めることになりました。

「最初に星定良工人のもとを訪れました。もしも怖い職人気質の人だったら早々に撤退しようと思っていたのですが(笑)、星さんは本当に優しくて穏やかな方で『わざわざ話を聞いてくれてありがとう』と言ってくださったんです。私が訪ねたとき、星さんは創作こけしを制作されていて『最近はこういうものばっかりなんだ』っておっしゃっていて。私はそのときに『こけしをひとつ買わせてください』と、奥の方にある昔ながらのこけしを手にしたんです。星さんは『もう処分しようと思っていたから、あげるよ。本当はこういう昔ながらのをつくりたいんだよな』って。それを聞いて、私、反射的に『私がちゃんと伝統こけしの魅力を伝えて、流行らせるので安心してください!』って言っていたんです」

※伝統こけしは、津軽系(青森)、南部系(岩手)、木地山系(秋田)、蔵王・高湯系、山形系(山形)、肘折系(山形・宮城)、作並系、鳴子系、遠刈田系、弥治郎系(宮城)、土湯系(福島)の11系統があり、宮城県には東北の中でも最も多い5系統が存在しています

金盛さんが最初に訪ねたのは、技巧派の星定良工人でした(写真提供:Koquela)
金盛さんが最初に訪ねたのは、技巧派の星定良工人でした(写真提供:Koquela)

思わず口をついて出た言葉。しかし金盛さんは、星工人との約束を果たすべく、行動を開始します。

「私はデザイン科だったので、卒業研究の論文と、あとは自分がデザインし、星さんにつくっていただいた鏡餅の形をした『正月こけし』を提出しました。星さんは技巧派の工人さんで、つくっていただいたものが学科賞と同窓会賞をいただいたんです。大学の先生方からも評価が高く、『これはぜひ商品化して、こけし本来の、五穀豊穣の無病息災という意味を伝えていってはどうか』と背中を押していただき、商品化することにしました」

2021年3月に大学を卒業し、4月1日に起業した金盛さん。その年末から年始の正月に間に合わせるべく、星工人に20体の正月こけしの発注をかけます。しかしながら、その1カ月後、体調不良となった星工人はわずか65歳という若さで亡くなってしまいました。

「ものすごくショックで、大学の先生にも『もうやめたいです。私、星さんじゃなくちゃできないです』って弱音を吐いたんですけれど、先生が『しっかりしたものをつくって、星さんの墓前に報告しなくちゃだめだよ』と言われて…。そんなときに、弥治郎こけし村を訪問したら、新山(吉紀)さんが『星さんのことは残念だったけど、いい奴がいるから紹介するよ』と。それで出会ったのが、髙橋博斗さんだったんです。髙橋さんも星さんのような技巧派で、実は私が星さんの工房を訪れた7月、その場でたまたまお会いしていたんです。星さんからも『髙橋くんは頼りになるからね』とご紹介いただき、挨拶だけはしていたんです。まさかその髙橋さんに星さんにお願いしていたことを継いでいただくとは思いませんでした」

星工人亡き後、金盛さんの強力なパートナーになってくれた髙橋工人(写真提供:Koquela)
星工人亡き後、金盛さんの強力なパートナーになってくれた髙橋工人(写真提供:Koquela)

髙橋工人だけでなく、遠刈田系の佐藤英裕工人の力も借り、「正月こけし」を世に送り出した金盛さん。この商品は、第9回新東北みやげコンテストで入賞を果たしました。

髙橋工人と遠刈田系の佐藤英裕工人の手による正月こけし(撮影:渡邉樹恵子)
髙橋工人と遠刈田系の佐藤英裕工人の手による正月こけし(撮影:渡邉樹恵子)

さらにその翌年の第10回新東北みやげコンテストでは、「ベビーかぶと」が優秀賞を受賞。これは、「正月こけし」の髙橋工人と福島で350年の歴史を持つ伝統的工芸品である「大堀相馬焼」とのコラボレーションが実現したもの。

「大堀相馬焼とこけしがコラボしたのは、これまでにないことですし、それぞれのファンの方にそれぞれの文化を伝えるきっかけをつくれたのかな、と思います」

スヤスヤと眠る姿がかわいらしい、ベビーかぶと
スヤスヤと眠る姿がかわいらしい、ベビーかぶと

こけしをフックとして、日本全国、そして世界中の人々を東北に誘致したいという金盛さん。彼女の次なる一手に注目です。

愛おしさがあふれ出ます
愛おしさがあふれ出ます

金盛さんがプロデュースした「ベビーかぶと」については、ウェブメディア「暮らす仙台」にてご紹介しています。ぜひご覧ください。

Koquela

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撮影:堀田祐介(blow-up)

フリーランスライター/編集者/翻訳者

大学卒業後、株式会社東京ニュース通信社に入社。編集局でテレビ誌の制作に携わり、その後仙台でフリーランスに。雑誌、新聞、ウェブでエンターテインメント、スポーツ、広告、ビジネスなど幅広いジャンルの執筆活動を行う。2016年よりウェブメディア「暮らす仙台」で東北のよいもの・よいことを発信。ローカルビジネスの発展に注力している。好きなものは、旅、おいしいものを食べること、筋トレ、お酒、こけし、猫と犬。夢は、クリスマスのニューヨーク・セントラルパークでスケートをすること。妄想は、そのスケートのお相手がジム・カヴィーゼルだということ。

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