Yahoo!ニュース

ものづくりが、どんどん楽しくなっちゃう/株式会社熊野洞 熊野聡さん

岡沼美樹恵フリーランスライター/編集者/翻訳者
株式会社熊野洞の熊野聡さん

経済産業大臣指定伝統的工芸品である「仙台箪笥」。

その歴史は古く、江戸時代末期に仙台藩の武士たちが、内職仕事として製作し、日常の生活財としていたことに始まります。そんな「仙台箪笥」をつくる「仙台箪笥 熊野洞」に長男として生まれたのが、熊野聡さん。

しかし熊野さんは現在、箪笥ではなく、オルゴールや木製バッグを製作しています。

「小さいころから父の工房に出入りしていて、手先も器用だったので手伝いはしていたんです。そのころから、ものをつくるのが大好きだったしね。大学では工業意匠を学んで、卒業後ドイツに行ったんです。そこで出合ったオルゴールに衝撃を受けましてね。それまで日本では、オルゴールというとおもちゃのようなイメージしかなかったんですけれど、ドイツで見たオルゴールは美術品といってもいいくらい素晴らしかった。それで帰国後、家業は弟に任せて、自分は仙台箪笥の技術を活かしたオルゴールをつくっていこうと思ったんです」

熊野さんが製作したオルゴール。かつては音質を追求して大きな箱をつくっていたそう
熊野さんが製作したオルゴール。かつては音質を追求して大きな箱をつくっていたそう

こうして自らの工房「熊野洞」を立ち上げた熊野さん。

「最初は音を追求して、大きな箱のものをつくってね。全国でオルゴールコンサートなんかもやっていたんです。そのうち、木工技術を使って木のバッグをつくるようになったんですよ」

熊野さんが製作する木のバッグは、「美しい着物」や「ミセス」などハイセンスな雑誌でも取り上げられただけでなく、秋篠宮妃紀子さまが身に着けてくださったこともあるのだとか。

「木のバッグは、留め具が実に難しい。非常に高い精度でつくられているんです。ゆるくてもダメ、きつ過ぎたら割れてしまう。ここが技術力の見せどころ」

熊野さんがつくった木製のアタッシュケース
熊野さんがつくった木製のアタッシュケース

2011年3月11日に起こった東日本大震災では、熊野洞の工房も大きな被害を受けました。

「工房だけじゃなくて、スタッフの家も被災。みんな心に大きな傷を負ってしまった。やっぱり、工房の雰囲気も明るくないものですから、作り手も手にしたお客さまも明るい気持ちになれるものがつくれないかと始めたのが、このケーキオルゴールなんですよ」

熊野さんが手掛けたケーキオルゴール。フルーツを引っ張ると、美しい音色が流れます
熊野さんが手掛けたケーキオルゴール。フルーツを引っ張ると、美しい音色が流れます

そういって見せてくれたのは、本物かと見まごうほどにかわいらしいケーキのオルゴール。その名も「笑顔になるケーキオルゴール」。ケーキの上に乗っているいちごやさくらんぼ、雪だるまなどを引っ張ると、優しいオルゴールの音色が流れる…という仕掛けです。

「百貨店なんかに行って展示販売をするでしょう。お客さまに『ほら、こんな風になるんですよ』なんて見せると、ちょっと頬が緩む。ケーキだけじゃなくて、いろいろな形のオルゴールをつくっているから、そんなのを見せたりするとゲラゲラ笑ってくれたりするんですよ。外国人のお客さまからもそういう反応があるものだから、言葉じゃなく伝わるものがあるんだなって思ってね。自分のつくったもので、喜んでもらえるのがうれしくて。ものづくりがどんどん楽しくなっちゃうんですよね」

「仕事をするのがとにかく楽しい」と話す熊野さん
「仕事をするのがとにかく楽しい」と話す熊野さん

そんな熊野さんに今後の目標についてうかがいました。

「私があと何年ものづくりできるかわからないけれど、これぞ最高傑作というものをつくりたいですよね。私には息子がいますが、跡継ぎではありません。私自身、仕事のことでは父といろいろあったもので、息子たちには『自分の好きなことをしなさい』といってきました。もし、誰かやりたいという人がいたら喜んで教えるんですけどね(笑)」と、チャーミングな笑顔で答えてくれる熊野さん。

熊野さんが考案した「笑顔になるケーキオルゴール」についてのお話は、「暮らす仙台」の「銘品ものがたり」でも紹介しています。ぜひそちらもご覧ください。

熊野洞ギャラリー
宮城県仙台市青葉区小田原7-2-1
営業時間 11:00~17:00 
毎週月曜・火曜休廊
電話 022-223-5897

株式会社熊野洞(工房)
宮城県仙台市宮城野区岩切昭和北1-1
営業時間 9:00~17:00
毎週土曜・日曜・祝日定休
電話 022-255-8673

熊野洞の各ソーシャルメディアはこちら

YouTube
Instagram
Facebook
Pintarest

撮影:堀田祐介




フリーランスライター/編集者/翻訳者

大学卒業後、株式会社東京ニュース通信社に入社。編集局でテレビ誌の制作に携わり、その後仙台でフリーランスに。雑誌、新聞、ウェブでエンターテインメント、スポーツ、広告、ビジネスなど幅広いジャンルの執筆活動を行う。2016年よりウェブメディア「暮らす仙台」で東北のよいもの・よいことを発信。ローカルビジネスの発展に注力している。好きなものは、旅、おいしいものを食べること、筋トレ、お酒、こけし、猫と犬。夢は、クリスマスのニューヨーク・セントラルパークでスケートをすること。妄想は、そのスケートのお相手がジム・カヴィーゼルだということ。

岡沼美樹恵の最近の記事