青森で「ないもの」をつくる/株式会社エイ・ワンド 高森暖(のん)さん
日本一のりんごの生産地である青森県。JR青森駅に近い場所で、りんごをモチーフにしたかわいらしいお店があります。それが、「エイ・ワンド」。りんごを使用したお菓子や調味料、雑貨に至るまでりんごづくしの店内は、さながら“りんごのテーマパーク”といった趣です。
その「エイ・ワンド」の看板娘である、“のんちゃん”こと高森暖(のん)さんが、このものがたりの主人公です。
青森県五所川原市で床屋を営む家に生まれた高森さん。
「父がやっていた床屋は結構大きくてね。その時代は理容学校を出た人何人も修行のために住み込みで働いていたのね。住み込みさんが大変なのを知っていたから、私は絶対床屋さんにならないって思っていたの。でも、ところがやっぱり自分も理容学校に行って、青森市で理容師になったのね。通いで修行時代を経て、市内で独立してお店を持ったんです。しばらく床屋さんやっていると、年齢を重ねて頭皮とか肌トラブルで悩んでいる方が多いってことに気づいて。私も髪を染めているけど、白髪染めとか何年もやっているうちにアトピーや皮膚炎になったり、体質が変わったりして合わなくなっていくお客さまが多くてね。そういう方たちに青森県の特産を使って、何かできないかなって思って、りんごの石鹸をつくったんですよね」。
高森さんが「りんご鹿角霊芝(りんごろっかくれいし※)」について調べていると、ある新聞記事を発見します。それが、「弘前大学の研究で、りんご鹿角霊芝には皮膚の再生が期待できる」という内容のもの。こうしてお客さまの肌を再生させるべき生まれたのが「りんご美人石鹸」でした。
「お客さまから、『ニキビが治った』『アトピーがよくなった』なんてうれしい声をもらってね。イギリスのことわざで『1日1個のりんごは医者を遠ざける』なんていうのがあるけれど、りんごは身体の中にも外にもいいのよね。それで、りんごの商品開発をどんどんやっていこうと思って、会社を立ち上げたんです」。
※鮮度の高い林檎の若木を原木として栽培された鹿角霊芝。鹿角霊芝は、自然界では1万本に数本しか出現しない非常に珍しいきのこを指します
こうして「りんごを もっと楽しく おいしく」をコンセプトとした株式会社エイ・ワンドをご主人と立ち上げた高森さん。
「エイは青森のAとりんごのAppleのA。ワンドは、津軽弁で『私たち』という意味なんですよ」。
それから、アイデアマンである高森さんの快進撃が続きます。
「ジャムとかジュースとか、そういうのはもうほかの会社が出しているし、今更私がやったところで難しいでしょう。だから、ないものをつくろうと思ったわけ。それで、調味料を開発したんです。果肉をたっぷり使用した味噌、南蛮味噌、バター、醤油、マヨにケチャップに、香味塩。私もそうなんだけど、りんごって皮をむいて切って食べるのが面倒でしょう。だから、毎日食べるのはしんどいじゃない。でも、調味料だったら味を変えれば毎日使えて、手軽にりんごを食べてもらえると思ったんです」。
こうして生まれた「りんご de 食卓」シリーズ。製造を依頼したのは、青森市で1771年創業の三浦醸造でした。このユニークな商品はさまざまなメディアで取り上げられ、全国放送の人気テレビ番組でも紹介されました。さらには、第4回新東北みやげコンテストで優秀賞を受賞。
その後も、コロナ禍に青森を訪れた旅行客の「せっかく青森に来たのに、どのお店も開いていない。せめてホテルの部屋で青森っぽいものを食べたいな…」という言葉に一念発起して「青森ホタテで缶パイ」を開発し、第10回新東北みやげコンテストで優秀賞に輝きました。
「アイデアは次々に生まれてくるの。それをどんどん形にしていって、うまくいきそうだなって思ったら商品として出してみるの」と話す高森さんに、今後の夢をうかがいました。
「2024年に『おにぎりわんど』というおにぎり屋さんを出店したんです。これがうまくいったら青森駅前に2号店を出したい。あとは、今後いろいろな商品開発をしてみたいっていう人たちの手助けができたらいいなって思っているの」と、笑顔をのぞかせました。
ある旅行客の一言がきっかけで生まれた「青森ホタテで缶パイ」のものがたりは、仙台市産業振興事業団が運営するウェブメディア「暮らす仙台」でご紹介しています。ぜひご覧ください。
りんご商品を紹介する青い森わんど
海の商品を紹介する海の森わんど
高森さんのYouTubeチャンネル