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保育中の死亡事故を防ぐために-再発防止の取り組みについて

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

昨年9月に起こった埼玉県川口市での保育中の死亡事故で亡くなったお子さんの親御さんが、検証委員会の設置を市に求めたというニュースが報じられました。

NHK NEWS WEB:保育施設で男児死亡 両親が検証委設置申し入れ

市に申し入れを行ったのは、亡くなったお子さんの1歳の誕生日にあたる日でした。「なぜ死んだのかしっかり調べてもらって息子の死が無駄にならないようにして欲しい」というコメントに、親御さんのお気持ちを想像すると本当に辛く言葉にすることができません。

先日も都内の保育施設で死亡事故が起きたばかりです。

どうしたら、このような痛ましい事故を防ぐことができるのでしょうか。

■保育事故データベースの活用

平成26年9月から、内閣府、文部科学省、厚生労働省により設置された検討会で、事故の再発防止策について議論が重ねられてきた結果、保育所などでの重大事故の情報を、国がデータベース化し、内閣府のホームページで公開するという取り組みが始まりました。

参考:内閣府ホームページ

この取り組みが始まるまでは、国で保育事故の分析や検証はしておらず、保育事業者の間で共有もされていなかったのです。事例共有が可能になったことで園ごとに職員研修で利用するなど、事故の再発防止に取り組めるという点では大きく前進したと言えます。

■第三者委員会の設置

また、平成27年12月の検討会最終取りまとめでは保育施設での重大事故の発生後に地方自治体が第三者委員会を設置して、事故の原因を究明することが提言されました。ここでは利用する施設によって子どもの安全面に違いが出ないよう、子どもを預かる制度全体として考えるべきとして認可外保育所や一時預かりなども対象に含められました。

現在の内閣府ホームページ上でのデータベースだけでなく、さらに地方自治体が中心となって保育事故の事後検証を行うよう体制整備を求めたのです。ただし、これら再発防止のための検証委員会の設置については、法的義務が課されておらず努力義務にとどまっています。

教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会 最終取りまとめ  平成27年12月21日

■ガイドラインの策定

また上記、平成27年12月の最終取りまとめを踏まえて平成28年3月には「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」が作成されました。

これは、特に重大事故が発生しやすい場面ごとの注意事項や、事故が発生した場合の具体的な対応方法等について、各施設・事業者、地方自治体の対応の参考となるようにと定められたものです。事故防止のためのガイドラインや事故発生時の対応マニュアルを作成すること、事前の通告なしに保育施設の立ち入り調査ができることを明確にすることなども提言されています。

このように一歩ずつですが重大事故再発防止のための取り組み、基盤整備が進んでいます。今後はデータベースの質の向上、検証委員会設置の義務化など、さらに踏み込んだ施策が求められます。保育施設の供給拡大とともに、保育事故が増加する可能性が指摘されています。

待機児童解消に向けた施策が、くれぐれも保育事故の増加につながることのないように配慮が必要なことは言うまでもありません。そのためには、実際に起こってしまった事故を丁寧に検証し再発防止につなげていくことが重要です。私たちは過去の教訓を検証し、保育環境の向上、職員の資質向上に努める責任があります。保育施設で子どもが死亡する事故は、1件もあってはなりません。

亡くなったお子さんのご冥福をお祈りするとともに、二度とこのような事故が起きないための取り組みを望みます。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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