【敬語の間違い】所在を尋ねる「おられますか?」は何がダメ?【直してみよう】
お読みくださってありがとうございます!日本語と日本酒で生計を立てる日本唯一(かもしれない)日本語教師の高橋亜理香です。
みなさんは、敬語に自信がありますか?生活で飛び交う敬語は意外と間違いが多く、街の広告、駅のポスター、TV番組…実は、よくよく見ると誤用を発見することがしばしば。
「でもその敬語、どうしてダメなの?」「じゃあ、どう直せばいいの?」と路頭に迷ってしまう人は、この機会にぜひ解決してみましょう!
今回は、最近TVドラマで耳にしたセリフをひとつ分析。みなさんも一緒に考えてみてください!
「シェフ、おられますか」?
先日仕事中に、とあるTVドラマを流し見していたとき、ふと耳が反応するセリフがありました。
店を訪れた女性が、スタッフに「今シェフがいるかどうか」と所在を尋ねる場面だったのですが、その際のセリフが
「シェフ、おられますか?」
というものでした。
はい、この時点でおかしいと気づくことができた人は敬語マスターですね!
「違和感はあるけど、何が違うのかわからない…」といった人や「え?これ間違ってるの?」と驚いた人は、ここから注目です!
尊敬語と謙譲語の意義と区別
それではこの敬語、まず何が間違っているのでしょうか。
そもそもこの文を敬意なしで表現すると
「シェフ、いますか?」
つまり、この「います」という動詞に敬意を加えればいいだけなのですが、そこでひとつ間違いが生じています。
敬語に直す際に、まず注意すべき点が「尊敬語」と「謙譲語」の区別です。
尊敬語は「相手(第三者も含む)の行為を高めるための敬語」であり、謙譲語は「自分の行為を下げることで敬意を示したい相手を高める敬語」という役割を持っています。
その区別のために必要になるのが「行為をおこなう“動作主”はだれなのか?」という点。動作主が相手であれば尊敬語を、動作主が自分であれば謙譲語を用いらなければなりません。
この場合「います」の動作主、つまり“いる”のはシェフなので、敬意を表したいシェフの動作を敬語にする必要があります。そのため尊敬語を使わなければならないのです。
「います→おります」は謙譲語!尊敬語は「います→いらっしゃいます」
ですが、セリフにあった「おります」は実は謙譲語!自分の動作に用いる敬語です。「(わたしは)ただいま外回り中で、新宿におります」のように使うのが正しい使い方。ドラマでは、自分の動作ではない行為に謙譲語を使ってしまっていたのが間違いのひとつです。
ここでは「います」の尊敬語「いらっしゃいます」を本来用いるべきなのです。
というわけで、セリフとしては
「シェフ、いらっしゃいますか?」
が正しい敬語変換。また「いらっしゃいます」や「おります」は元の動詞の原型が残っていない「特別な敬語」なので、しっかり覚えてください。
「られます」は、動詞を変形させる「尊敬形」
「あれ?でもセリフは“おられますか?”だけど、“られます”は何?」と思った方がいるかもしれません。そう、ここでドラマのセリフにはもうひとつ間違いが起きています。
「~(ら)れます」というのは敬語の種類のひとつ。動詞の未然形にプラスして変形させることで尊敬語の役割をする、いわば「尊敬形」です。
そのため「おられますか」というセリフは、敬語に敬語を重ねた「二重敬語」という誤用でもあり、尊敬語と謙譲語が混在しているという誤用でもあるのです。
(ただ、古い表現・一部方言としては使用されることが稀にあります。が、これは特殊な例です)
誤用を引き起こしたかもしれない、日本の「ウチソト」関係
ただし、この誤用が生じた理由には日本特有の「ウチソト」の考え方が関連しているかもしれない、という側面があります。日本の敬語は単純に上下の関係だけではなく、ウチソトの関係も考慮する必要があります。その人が家族や身内側(社内の人など)であれば年齢や地位がどうであれ、外部に向けて尊敬を示す必要はありません。また基本的に初対面の場合は、どうあれ相手を立てます。
ドラマでは、シェフを訪ねた女性が実はシェフの母親であるという設定でした。それを加味するとこの女性が“シェフの身内である”点を優先するなら、自分・身内側の行為に当たる謙譲語「シェフ、おりますか?」でも筋は通ります。その場合は、シェフの身内であることを申し出れば正しい使い方でしょう。(セリフそのものはすでに二重敬語を使用しているのでダメなのですが…)
ですが、母親だと知らせないのであれば、謙譲語を使用すると当然聞き手が不自然に感じますから、尊敬語を用いるのが正しい選択でしょう。
「使えてこそ」自由な日本語コントロールを
敬語を正しく使える人は、美しく見えるもの。昨今「おじさん/おばさん構文」などと言われ始め、句読点や敬語の正しい使用が「ハラスメント」的に扱われてしまうこともありますが、その是非はともかく、それなら正しい形を知ったうえで相手に適度に合わせる!のが大人の対応なのかも…と高橋は考えます。
新しい時代でもことばを自在に操れるように、まずは基本の日本語を一緒に見直しましょう!
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