近い将来どうなる公的年金制度、今年の「財政検証」に注目しよう
◆今年は公的年金の「財政検証」が行われる年
2019年がスタートして10日が経ちました。今年は平成から新しい元号になる節目の年。新たな歴史がスタートするのを目の当たりにすることとなります。
暮らしに大きく影響する今年のトピックとしては、10月の消費増税が挙げられますが、実は今年は公的年金(国民年金・厚生年金)の「財政検証」が実施される年に当たっています。それを踏まえて年金制度改正が行われることになりますから、私たちの暮らしに影響するトピックとして無関心ではいられません。
公的年金の「財政検証」は、国民年金法・厚生年金保険法の定めによって少なくとも5年ごとに行われることとされており、国民年金・厚生年金財政の現況とおおむね100年の見通しについての報告書を作成します。
2014年は6月、2009年は2月に結果が発表されていますから、今年も夏頃までには発表されるものと思われます。
年金財政は、公的年金保険料による「収入」と年金給付による「支出」とのバランスが保たれている必要があります。
年金給付は、「40年間厚生年金に加入する、その間の平均収入が厚生年金加入者の男性の平均収入と同額の夫と、40年間専業主婦の妻がいる世帯」をモデル世帯とし、その手取り年収の50%を上回る水準を維持することが検証の前提となっています。
100年先まで収支が安定するよう試算し、見通しを立てるわけですが、人口構成や社会・経済情勢などの変化によって、現実にはまずその通りになりません。
そのため、新たなデータを反映させて見通しを修正し、収支バランスの持続可能性をチェックするのが「財政検証」というわけです。
◆公的年金の給付水準は抑制の方向
現在から比較的近い時期で大きな公的年金制度の改正があったのは、平成16年(2004年)です。この時には、(1)上限を固定した上での公的年金保険料の引上げ、(2)基礎年金国庫負担を3分の1から2分の1に引上げ、(3)後世代の給付に充てるための積立金の活用(財政検証の時に年金給付額1年分程度を保有)、(4)マクロ経済スライドの導入、が柱となりました。
(1)の公的年金保険料については、特に若い世代の「この先どんどん保険料負担が上がるのではないか」という不安を払拭するためのもので、すでに2017年度に上限に達しています。厚生年金保険料の場合、労使折半で18.3%(被保険者本人の負担は9.15%)で固定すると法律で明記されていたからです。
とはいえ、今後の「財政検証」の結果次第では、法律改正により再度アップする可能性はゼロではないと思われます。
注目しておきたいのは、現役世代の人口の減少や平均余命の伸びに合わせて年金の給付水準を自動的に調整する、(4)の「マクロ経済スライド」という仕組みです。
公的年金の大きなメリットとして、「一生涯もらえる終身年金である」ことと、「給付額が物価に連動するのでインフレに強い」ことが挙げられました。しかし、「マクロ経済スライド」の導入により、完全な物価連動ではなくなっています。
将来的に「マクロ経済スライド」による調整がなくても年金財政が安定するまで、賃金や物価の上昇から「スライド調整率」を差し引いて年金額が計算されることになります。つまり、現役世代の収入の伸び率や物価上昇率より抑制された年金の伸び率となるわけです。
実際には、賃金や物価が上がらない状況のもと、「マクロ経済スライド」が発動されたのは2015年度の1回のみ。ほとんど機能せずにこれまで来ましたが、2018年度については推計データから賃金、物価とも上昇が見込まれています。今月末頃発表される2019年度の公的年金額の算出には、2回目の「マクロ経済スライド」発動が予想されています。
また、2016年に「年金改革法」が成立し、「マクロ経済スライド」の年金額改定ルールの見直しが行われましたので、今後はさらに発動される機会が増えそうです。
「マクロ経済スライド」は、それによる調整がなくても年金財政が安定するまで続けられるということですが、その時がいつ来るかは予測できません。
もちろん、年金財政が健全に回るための「財政検証」であり制度改正ですから、「将来、年金がもらえなくなる」といった極端な論には耳を貸さないほうが賢明です。何と言っても、高齢になって仕事をやめてからの収入の柱は公的年金なのです。
ただ、私たち生活者は、年金受給額が抑えられることを念頭に置いて、老後資金プランを立てて行く必要があるでしょう。
◆これから検討されそうな公的年金制度改正
2016年の「年金改革法」では、「マクロ経済スライド」の年金額改定ルールの見直しの他にも、501人以上の企業で働く短時間労働者(パートタイマー・アルバイト)に認められていた厚生年金への加入を500人以下の企業で働く短時間労働者も労使の合意があれば加入可能にする、国民年金第1号被保険者(自営業者など)の女性について産前産後期間(4か月)の国民年金保険料を免除する(2019年4月から)、などが定められています。
また、同時に成立した「受給資格期間短縮法」によって、公的年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されたのも大きな話題となりました。
今年の「財政検証」を元にこれから検討されるであろう公的年金制度改正として、厚生労働省の社会保障審議会の資料を見るかぎり、次の内容が現実的と思われます。
●短時間労働者に対する更なる被用者保険の適用拡大
●年金受給開始年齢を柔軟に選択できる制度の導入
前述のように、すでに厚生年金への加入が認められる短時間労働者の要件が拡大していますが、さらに収入要件や労働時間の要件を下げての適用拡大が考えられます。第3号被保険者の厚生年金加入を促し、保険料収入を増やすのが狙いです。
また、現在は70歳まで可能となっている「繰下げ受給」を、70歳超からも可能とする改正が有力です。健康であれば、60歳代は現役並みに働いて年金に頼らず収入を得、公的年金保険料も払うという人が増えることを見越してです。
65歳からの受給が基本である公的年金を「繰下げ受給」すると、繰下げた月数に応じて65歳でもらえる年金額より増額され、現在の制度では最大42%の増額となります。70歳超に繰下げればさらに増額割合が大きくなるうえ、60歳代に年金保険料も払うためその分の年金額が増えますから、受給開始年齢の選択が柔軟になるのは悪い話ではありません。
年金受給開始年齢そのものが70歳からなど、現在の65歳より引き上げられるのではないかと不安視している人も多いと思いますが、今のところ議論が出尽くしておらず、すぐにはないと思われます。
とはいえ、諸外国で実施されている引き上げスケジュールの資料も作成されており、将来的には可能性があると思っておいたほうが良さそうです。
まずは今年の「財政検証」の結果を注視することにしましょう。