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吉祥寺の道路陥没。年間9136件の道路陥没を誘発する地下の「見えない空洞」はなぜできるのか

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
国土交通省資料を著者が図版化

地下にできた空洞が土砂を引き込む

 11月2日、東京都武蔵野市吉祥寺本町二丁目の市道が、長さ約10メートル、幅約2メートル、深さ4~5メートルにおよんで陥没した。

 事故原因について、同市のWEBサイト内の「吉祥寺本町二丁目4番1号先(市所有認定外道路)の道路陥没について(令和3年11月4日更新)」には「隣接工事(民間工事業者)との因果関係について現在調査中」と記されている。

 一般的に道路陥没は、以下のようなメカニズムで発生することが多い。

①「何かの要因」で地下に空洞ができる

        ↓

②それが水(地下水や降雨)で削られて大きくなる

        ↓

③空洞が地表近くまで広がり、そこに土砂が流れ込む

 ①「何らかの要因」で地下に空洞ができる

 これには自然由来のものもあれば、人工的なものもある。

 自然由来のものは、たとえば、地質や地盤に関係するもの、地下水の流れ、パイピング現象(豪雨時などに土壌に水が染み込み、地下にパイプのような水の通り道ができる)の発生など、水の流れに関係するものがある。

 日本列島は、地殻を形成するプレートが4枚ぶつかり合う上に位置し、活発な地殻変動により山地が発達し、地震などで地下の空洞ができることもある。

 人工的なものは、たとえば地下埋設物の劣化や損傷、トンネル工事などでできる地下の空洞である。

②それが水(地下水や降雨)で削られて大きくなる

 こうしてできた地下の空洞を水が大きくする。地下の水の流れである。浅い場所の地下水の流れは雨の影響を受けやすい。また、近年は短期間に強い雨が降ることが多くなっている。

 そして、

③空洞が地表近くまで広がり、そこに土砂が流れ込む

 というのが一般的なメカニズムだ。

 さて、吉祥寺の現場を見ると、陥没した市道の横に工事現場がある。市道と工事現場の境には、深さ10メートルほどの「土留め」と呼ばれる壁が立てられている。

著者作成
著者作成

 地下に何らかの構造物をつくったり、埋設したりする場合、一定の深さまで穴を掘る。このときに、何の措置もせずに穴を掘ると、上図左のように周りの土が崩れてきたり、地下水が流入したりする。そこで上図右のように壁を立てて防いでいる。

 吉祥寺の現場では、壁の底の部分が傾き、市道側から工事現場側へ土砂が流入したことが確認されている。何らかの力で土留め壁が動いたために、地下の空洞ができ、そこに土砂を引き込んだ可能性がある。

全国の道路陥没は年間9163件

 国土交通省の調査(「道路の陥没発生件数とその要因」によると全国の道路陥没の発生件数)によると、令和元年度(2019年4月〜2020年3月)には、年間9163件の道路陥没が起きている。

 内訳は、市町村の管理する道路が7726件、都道府県の管理する道路が1293件、国道が144件となっている。

 この調査では陥没の要因は大きく3つに分けている。

 1つ目は、道路施設が要因の場合。全国では4814。道路施設とは、道路側溝、管渠、ボックスカルバート、橋梁、法面、擁壁、電線共同溝など。これら地下埋設物の劣化や損傷が大きな要因になっている。

 2つ目は、道路占有物件が要因の場合。全国では1864。道路占有物件とは、下水道、上水道、電力、ガス、通信など。こちらも地下埋設物の劣化や損傷が大きな要因だ。

 3つ目が、その他の要因で、河川施設(護岸)や樹木など。

 ちなみになぜ、このように分類されているか。

 陥没の調査や補修は、道路管理者の負担で行うことが多い。だが、上記のように水道管など道路占用物件が陥没の原因となることが少なくない。

 そこで2018年10月17日、会計検査院が、道路占用物件を管理する事業者にも路面下の空洞調査の費用を負担させるべきだと指摘している。

 だが、これが進むと上下水道事業者のコストが増加することになり、水道料金の値上げにつながる懸念がある。

最近発生した大きな道路陥没

 昨年10月18日には、東京都調布市で道路陥没が発生した。道路の陥没や地下の空洞が、相次いで見つかった。それについて先月12日、有識者委員会(委員長・小泉淳早稲田大学名誉教授)と東日本高速道路会社(NEXCO東日本)は、同社が行なった「特殊な地盤条件下でのシールドトンネル工事」が、陥没要因として可能性が高いとしている。

 被害を訴える住民は集会を開き、地盤の緩みのおそれがある地域での詳細な調査や結果の速やかな公表などを求めた。NEXCO東日本は、これまで「地盤に問題はない」と主張してきた地域の2か所で地盤調査を開始している。

 2016年11月8日には、JR博多駅前で大規模な道路陥没事故が発生した。陥没箇所は長さ約30メートル、幅約27メートル、深さ約15メートルあった。

 この事故を教訓として2018年6月、政令市や有識者でつくる「都市の危機管理における路面下空洞対策戦略会議」は、路面下の空洞対策を取りまとめた提言を、小此木八郎国土強靱化担当相(当時)に提出している。

 提言では、自治体に対して、道路陥没を防ぐための事前対策(危険な空洞を発見するために探査・調査を実施して、適切な補修を行うなど)と、大規模な事故が発生した場合の対応手順書の整備を求めた。

 2015年1月30日には、世田谷区瀬田の国道246号の歩道が陥没した。下水道管のつなぎ目がずれて、周辺土砂が管に流入したことが原因で、路面に1辺約30センチの穴が開き、その下に縦約1メートル、横約50センチ、深さ約50センチの空洞ができた。

 前述した2つの道路陥没に比べると規模は小さい。年間9163件の道路陥没の多くはこうした規模の小さいものだ。

 下水道管の老朽化に起因する道路陥没事故は年間2900件(令和元年)発生している(国土交通省「下水道に起因した道路陥没事故の状況」)。老朽化した管が破損して地下に空洞ができ、そこに土砂が流れ込んで、陥没が発生する。

道路陥没を未然に防ぐには

 道路陥没を未然に防ぐには、前述の「都市の危機管理における路面下空洞対策戦略会議」の提言のとおり、探査・調査によって地下の空洞を見つけ、補修を行う必要がある。

 ただ、4メートル以内の浅い場所の空洞については、電磁波レーダーを搭載した専用車による路面下空洞探査で発見することができるが、それより深くなると、複数の物理探査やボーリング調査を組み合わせることになる。コストと手間がかかり、なかなか進まない実情がある。

 地下の見えない空洞は、道路施設にしろ、道路占有物件にしろ、地下埋設物の劣化や損傷が大きな要因となっている。地下の見えないところでインフラ老朽化が進んでおり、それが道路陥没の一因となっている。

 そうした穴を、近年の激しい豪雨による水が大きくしていく。

 吉祥寺の道路陥没を自分ごとととらえ、探査・調査、補修を進めていく必要がある。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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