あなたも気がつかないうちに加害者に 児童労働1億6千万人以上 現場を知ってほしい
世界では1億6千万人以上の子供たちが児童労働に従事させられているのを皆さんはご存知だろうか。服などに使われる布の原料になるコットンやチョコレートの原料になるカカオの生産現場など、アフリカやアジアなどを中心に劣悪な環境や低賃金で労働に従事させられる子どもの問題が深刻だ。農薬による健康被害も忘れてはならない。
認定NPO法人ACE(エース)は、児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO。インドのコットン生産地とガーナのカカオ生産地で危険な労働から子どもたちを守り、日本で児童労働の問題を伝える啓発活動、政府や企業への提言活動、ネットワークやソーシャルビジネスを通じた児童労働を解決するための活動を行っている。
NPOやNGOなど公益事業者の活動を専門に取材し発信するプロジェクト「GARDEN Journalism」では児童労働ネットワーク事務局長/認定NPO法人ACE代表である岩附由香さんを迎え、「児童労働の今」を聞いた。国際会議に参加するための費用をクラウドファンディングで集めている。
私たちが知らず知らずの間に加担してしまっていないか、ぜひ現場の実情を知ってほしい。
■世界規模で見た、児童労働の定義と現状
堀)
断片的に児童労働が各国で問題になっていって、日本も決して関わりがない話ではなくて、日本の産業ともある意味繋がってくる部分もあるぞと。今、分かっているだけで何人くらいの子供たちが児童労働にかかっているんでしょうか?
岩附)
今世界には、1億6800万人の子供たちが児童労働員として働いていると言われています。
堀)
日本の人口より多いですね。
岩附)
そうなんですよ。日本全土が児童労働している子供で埋め尽くされていると考えたら結構ゾッとすると思うんですけど。私たちがたまたま目にしていないだけで、世界の現状としてはそう。農村とかに行った方が多いので、本当に誰の目にも触れられず、問題はそこにあるのに可視化されていない問題の一つなんじゃないかなと思います。
堀)
だいたい何歳から何才くらいまでの子供がメインなんですか?
岩附)
児童労働というと、子供が働くことなの?と聞かれるんですけど、働くこと自体を禁止しているのではなくて、15歳未満の子供の義務教育を受けないで働いているような仕事と、18歳未満で働いてもいい年齢16歳以上の年齢だけれども危険有害な労働についている場合、この2つが児童労働に当たるんですね。特に途上国で多いんですけど、一番多いのは農業分野で、約6割の子供たちが農業分野で働いています。そういうものの中には実は私たちが使っているようなものの原材料も含まれていて。チョコレートのカカオだったり、Tシャツの原料になるコットンだったり、そういう畑で子供たちが日々汗を流して、学校にも行けずに働いている状況があるというのが現状だと思います。
堀)
地域的にはどういう地域が多いんですか?
岩附)
最も数が多いのはアジアですね。ただ割合が高いのがアフリカで。世界で見ると5歳から17歳の9人に1人が児童労働者なんですが、アフリカの場合は5人に1人と割合が高くなっています。
堀)
そこに従事する子供たち個別個別に見るとどういうバックグラウンドでその労働に従事することになっているんですか。
岩附)
その背景に何があるのかなんですけど、貧困の問題もちろんあります。親の収入だけでは食べていけない、あるいは親に仕事がないですとか病気になってしまったりとか。
もう一つは教育の機会自体はあるんだけれどもクオリティが低いとか、遠くていけないとか、あるいは特に女の子の場合は、「女の子だから学校に行かなくていい、何もしないなら働きなさい」という形で働いていたりとか、そういった家庭の事情もあります。
もう一つあるとすると、国の中の子供に対する優先順位がどれだけ高くあるかということですね。途上国の場合、予算が限られていて、どうしても全体に行き渡るような形でプログラムが展開されてないないという課題があります。そういう中でどうしても支援から漏れてしまう子供達がいるというのが現状じゃないでしょうか。
■岩附さんが出会ったサディスクマル君の話
堀)
実際に児童労働の現場、実態を代表を務めていらっしゃるACEでも色々な現場を見てこられたと思うんですけど、具体的にどのような状況なんですか?
岩附)
私が活動を始めた初期に会った男の子の話を紹介します。私が一番初めに参加したグローバルマーチという世界的なマーチのインドで会ったサディスクマルくんという男の子です。元児童労働者で、救出されました。
岩附)
「どんなお仕事してたの?」
サディスクマルくん)
「糸を作る工場で働いてた」
岩附)
「どんな風に働いてたの?」
サディスクマルくん)
「6日間働いても5日分しかお給料がもらえなくて。
何か失敗するとタバコの火を腕に押し付けられたり。
ご飯を食べてても『もう食べるな』とお皿を投げられたり。」
岩附)
「そんな辛い状況を親に相談しなかったの?」
サディスクマルくん)
「相談しなかった」
岩附)
「なんで?」
サディスクマルくん)
「同じ場所で働いていた一人の子が、あまりにもその窮状に
耐えかねて自分の親に言ったら、親が文句を言いに来た。
親が文句を言いに来た次の日にその子がいなくなっちゃって。
親が探しに来たけど見つからなくって。
あの子は殺されちゃったんだと思う。
そういうことがあったから、自分は親には相談しなかったんだ。」
岩附)
「将来なりたいものは何?」
サディスクマルくん)
「なるものになるよ、来るもの拒まず、だよ。」
岩附)
子供って希望や夢を持って生きているものなのかなという風にその時思ってたんですけど。実は児童労働って、その子の「今」「子供時代」を奪うだけじゃなくて、将来どうなりたいとか、こういう夢を持っているんだという夢や希望とかも奪ってしまう、そういうものなんだなというのをその時にすごく感じて。自分自身が価値があって、社会の中で責任がありながらも自分らしく生きていけるんだというようなそういう心持ちを奪ってしまう、そういうものなんだなというのをすごく感じたことがあります。
堀)
子供が、選択するための教育も受けられないし、この社会にどういう選択肢があるのかを知らされることもなく、ひたすら目の前の労働に従事させられるわけですよね。
岩附)
そうですね。ただ目の前にくるものを受け入れる、「自分にはそれしかないんだ」という諦め感を、まだ本当に小さいのに身についてしまっているということ自体がすごく悲しいやはり、児童労働というのは、もちろん貧しいから働かなくてはいけないとか、親の事情とかある中でのしょうがない選択肢だけれど、子供にとっては絶対にさせてはいけないことで。子供は教育を受ける権利もあるし、子供として遊ぶ権利もあるし、そういう子供の権利を守れる社会にどうやったらなっていけるのかというのをもっといろんな人が考えるというのが必要だと思います。
■混乱に乗じて悪化する児童労働
堀)
実はこの間、シリア難民の子供たちの支援をしているNGOの皆さんとお話をして、現場どうですかと聞くと、難民キャンプ入った子、入らない子含めて、児童労働と隣り合わせなんですね。
岩附)
そうですよね。そこも本当に児童労働の課題の中で、ちょうどこれから開催される11月の会議の中でも取り上げられると思いますけど、そういう危機が起きた時の反応として難民の子供達ですとか、災害ですとか、そういう時に発生する児童労働にどう対応していくのかというのも重要なテーマだと思います。例えば、自然災害で洪水が起きたりすると、人身売買とか人身取引が増えるんです。その混乱に乗じて、インドの場合だとよく洪水が起きる地域があるので、電車で子供達を連れて行ってしまう。その駅でNGOが待ってそれを止めるということもあったり。本当に何か混乱が生じた時に、それで児童労働に連れて行かれてしまうという子供達もいるので、だんだん最近そういう事案が増えて行っているというのも現状だと思います。
堀)
それは親御さんでも本人の意思でもなく、連れ去られて行って労働に従事させられるということですか?
岩附)
そうです。あるいは、親御さんが亡くなってしまったとか、離れ離れになってしまったとか、そういう状況の中で「いい仕事があるから」と騙して連れて行くとか、そういう事例がこれまでもあったので。ネパールの地震の時も、人身取引を監視しているNGOがいつも行っているコンタクトポイントで、地震直後の方が介入して救出する子供が増えたそうです。
■世代を超えた悪循環を生む、児童労働の現場
岩附)
児童労働をすることが実は大人になってもdecentな(ちゃんとした)職に就けない、人間らしい働き口を見つけられないでずっと搾取されたまま続いてしまうということもあります。実は、子供たちが働いている親御さんもインタビューをすると、その人たちも子供の時から働いていて。でも40代くらいで体がボロボロになるんです、農作業とかやっていると。腰が痛くて自分はもうできないから子供にやってもらうしかないんだという親御さんもいて。そうするとその児童労働の循環が世代を超えて繋がってしまって。貧しさとともに、世代を超えた悪循環が繋がってしまうという現状が生まれていると思います。
堀)
今従事させられている子供たちも、そのまま過酷な低賃金の劣悪な環境での労働がずっと続いていくということですか?
岩附)
そうですね。ACEが介入していくと、実は子供を雇うのをやめてきちんと大人を雇うようになったというコットン畑の事例があります。我々ACEとして「インドのコットン畑の児童労働をなくそう」というプロジェクトをやっていて。インタビューすると、やはり子供の方が値段が安いんです。その理由は、子供は交渉をしないで言い値で働いているということ。実は、コットン農場の場合は3ヶ月とか一定期間の間集中的に、タネとタネ、雌しべと雄しべをを擦り合わせて人工交配をさせるというのを、遺伝子組み換えのハイブリッド種のコットン畑では行います。その時にはたくさん労働力が必要です。それを雇う側の農場の持ち主もそれほど豊かではないので、なるべく労働コストを抑えたい。子供が雇われる時って、前借りみたいな形で前金を払われている時があって。親に結構大きな金額の前金を払うんです。そうすると、そんな金額を一度に手にすることはなかなか難しいので親は受け入れてしまう。そうすると、働いている間ずっと最後まで働かなければならない契約になってしまうという状況になっていて。そういう借金のかたに働くというのを債務労働というんですけど、そのような形も見受けられるんですね。ただ、実際にプロジェクトをやっていると子供を雇わないようにしようという習慣が徐々に広まっていって、きちんと大人が正規の値段で働くようになるので、実は児童労働がなくなることは大人にとっても良いことで。子供が働いているのに大人が働けていないという現状もあるわけですよ。なので、子供が働くことで雇用口を奪われることなく賃金がちゃんと上がっていくという構造もあるかなと思います。
■命にも関わる問題が潜んだ「危険な」児童労働
堀)
今聞いていて一つハッと思ったのは、よくニュースでも遺伝子組み換えの話はよく出てきます。特に自由貿易の話では必ず出てくるんですけど、ただ、遺伝子組み換えの作物を作る時ってそういう手作業で?
岩附)
コットンの場合はそうなんです。遺伝子組み換えでなければその作業入らないみたいなんですけど。普通に風に運ばれて花粉が運ばれて普通に受粉するんだと思うんですけど。遺伝子組み換えの場合は、雄しべと雌しべをくっつけるので、雄しべが出るように花の周りをとったり、そこに赤いセロファンをつけて目印をつけて一個ずつやっていくんですね。コットンの木ってそんなに高くないので、骨も折れるし腰も曲げないといけないので結構重労働で。日陰もなくて炎天下なので。もう一つは、農薬の被害も本当にひどくて。
堀)
そうなんですか。
岩附)
コットンってすごい農薬使うんですよ。口に入れるものじゃないので知らない方多いんですけど、世界の中で多分最も農薬を使う作物なんですね。そうすると、子供たちが摘んでいるすぐ横で農薬をスプレーしてたりするんです。私たちは農薬屋さんに行って実際にどうなるのかなと見た時に、「一応これ危険なので、手袋を配っています」と配ってはいるんですけど、暑くてそんなのしてられないという感じの防具なんですよね。そのために結局蒔く人も使っていなくて、そういう危険有害な農薬を日常茶飯事的に使っている。その中で子供たちも働いている。実際に農薬の被害で皮膚病になってしまったり、白血病みたいな血液のがんになってしまったり、そういう子たちもその地域には実際にいるんです。なので、健康被害も大きくて、水も汚染するし、農薬を間違って飲んでしまって亡くなってしまった子がいたりとかもあるんですね。ACEのプロジェクトで、そういう現状の中で何ができるんだろうと考えて、実は今オーガニックコットンの栽培を企業さんに入ってもらって奨励しています。オーガニックに転向した農家さんが一番言っているのは「健康になった」と言っているんです。自然な形で作る農薬を教えるので、ケミカルではないものを使っていかに作物を育てるかというのをやるんですけど。コットンの場合は、これは人権の問題でもあるし環境の問題でもあるし、本当にいろんな問題が絡んでいる現状がありますね。
堀)
その健康被害が出た子供たちっていうのはきちんとした医療的なケアは受けられるんですか?
岩附)
受けてはいるんですけど、多分家族にとっては病院に行くというのがすごく負担で。日本みたいにちょっといけば病院があるという地域ではないので、大きな病院行って、お金がかかって、それがまた借金になってみたいな形もあります。ACEで、コットン畑で働いていることが原因で体調が悪くなった子をインタビューしたんですけど、その時は「お父さんを説得してもどうしようもないんだ、働くしかないんだ」と言われて働き続けることになってしまって。結局その子は助けられなかったんです。
堀)
というのは?
岩附)
亡くなっちゃったんですけど。
堀)
何才くらいの子?
岩附)
10才、11才くらいの子ですね。
堀)
小学生ですね、日本でいうと。
岩附)
それはすごく悲しかったことの一つで。そういう意味では、児童労働というのは命に関わる問題でもあって。単に学校に行けないとか遊ぶ時間がないとかだけじゃなくて、本当に命に関わる問題でもあるということですね。
堀)
農薬散布の実態以外にも、「危険な」現場って児童労働の場合、他にどんなパターンがあるんですか?
岩附)
漁業もありまして。浮きみたいなものを海に置いておいて、そこにずっと何度も潜ったり上がったりしてお魚を取るですとか。
堀)
その何回も上がって下がってというのは、圧がかかるということ?
岩附)
そうですね。健康的にもよくないですし、そもそも働いちゃいけないですけど、労働環境としても劣悪。あと、インドですと、ガラス細工とかマッチとかの工場とかでも子供が働いていて。ACEが支援しているガーナですと、農作業なんですけど、刃渡り30センチくらいのナタで開墾といって森を切り開いて苗を植えるんですけど。まずその畑まで行くのに結構炎天下を歩いて、開墾して蛇に噛まれたりとか、切り傷があったりとか。切り傷をしてしまっても対応がうまくできていないので、それがすごく悪化して膿んだりとか、そういったこともあります。
堀)
他にはどんな例がありますか?
岩附)
ガーナで一つ人身売買のケースがあって。遠くから北部から連れてこられて、カカオの農作業と牛追いのような家畜の世話を任されていた二人の子供たちを救出したことがあるります。その子達は「学校に行かせてあげる」と連れてこられたけれど、実態はずっと労働で。しかも「仕事をしないとご飯をあげないよ」と言われているので、仕事をしないといけない。体調も悪いけれど、それも聞き入れられない。言葉もちょっと違うし、連れてこられているから自分では帰れないし、どうしようもないという状態で。私たちがインタビューの最後に「何か私たちに聞きたいことある?言いたいことある?」と聞いた時に、「今すぐここを抜け出したい」と言ったんです。それが本当にその時のこの子の気持ちだなと思って、これは何とかしなければならないと、そこからいろんな人に働きかけ、警察も動員し、結局その子達を救出しました。私たちが勝手に連れていくと別の誘拐みたいになってしまうので。そういう風に「誰かに何とかして欲しいんだけど、自分ではどうしようもない」という状況にいる子って多分すごくたくさんいて。そういう声がどこにも届かなくて、だんだんそのうちに本人が「これしかないんだ、しょうがないんだ」と諦めていく、そういう構造なのかなと思います。
堀)
そういう産業構造の上に私たちの生活が、豊かさを享受する生活があると思うと、全く無意識でいてはいけませんよね。
岩附)
そうですね。普段目にしないので、そこまで深く考えられないと思うんですけど、ものをたどって行くとそういう現場があるということは知って欲しいです。しょうがないではなくて、やっぱりそこに何かできることがあると思っていて。今企業も自分たちのサプライチェーンの中にそういう課題があるということに気づいて行動を起こそうとしているので、そういう風に行動を起こしている企業を消費者も評価するということもできますし、そういう商品を選ぶということもできます。全部はできなくても、企業が何か変化を起こしたいと思っても支援がないとなかなか踏み切れないので。みんなが消費者なので、その一人一人ができることっていうのが必ずあると思います。一人一人が現地に行って助けることはできなくても、ACEや児童労働ネットワークに加盟している団体もそれぞれいろんな支援をやっていますから、そういった団体を応援してもらうというのも一つの方法だと思います。
堀)
児童労働という言葉が少しずつ社会に認知はされるようになって。フェアトレードとかエシカルとか、ああいう言葉もたびたびメディアで登場するようになりましたけども、実際にそういう中で子供たちが健康被害にも晒されて、人権の問題ももちろんあってということがまだまだ伝わっていないというのも、変えていかなければいけないですよね。
岩附)
そうですね。自分の子供にそれをさせたいかどうかを考えたらいいんだと思うんです。自分の子供にさせたくないことは他の子供にもさせたくないと思うんですよね。児童労働の話をするとたまに、「貧しいんだからしょうがないじゃないか、働かなきゃいけないんだから」という風におっしゃる方がいるんですけど、そう言ってしまうと何も解決しなくて。働かされている親御さん自身も働かせたくているわけではなくて他に選択肢がない、もうこれしかないからしょうがないんだという状態なんですよね。そこをなんとかうまくやっていけるように考えていこうよと話しかけるのが、私たちが現地でやっているプロジェクトです。そういう社会の雰囲気というのが必要だろうなと思っていて。児童労働を他人事ではなくてもう少し身近に感じてもらえるように私たちも努力が必要ですし、自分の子供にさせたくないことは他の世界の子供たちもしてたら「あれなんでかな、どうしてこうなっちゃうんだろな、どうしたらいいんだろな」というのを一緒に考えていってもらえたらいいなと思います。
■意外と身近に存在する、児童労働が関わっているかもしれない製品
堀)
チョコレートや繊維の話がありましたけど、私たちは知らない間に、児童労働が大本になったものを使っていたりするということでしょうか?
岩附)
そうですね。実は今、児童労働によるものが何かっていうのが一つ一つは特定が難しいという状況がありまして。全部は追跡はできないと。アメリカ政府が出しているレポートがあって、「どの国のどういう製品は児童労働とか強制労働がありますよ」というレポートはあるんですね。どの国にどういう課題が大きいのかというのはある程度特定されていて。「この国のどこどこのバナナは児童労働や強制労働があります」といのは公開情報としてあります。ただ、個別の企業のこの商品の原料がどうなのかということまで言われると、なかなかそこまでは特定しづらいというのが現状です。でも、特定しづらいということは「みんなが関係者」ということなんですね。それは、企業も関係者だし消費者も関係者だし、みんな児童労働があるビジネスのサイクルの中に入っているので。そこに入っているということは、みんなの意識が変われば、その原料を作っている現場にもアプローチしていけるんじゃないかなと思っていて。ACEでは、その消費者や企業へのアプローチというのも重視して、サプライチェーン(供給連鎖)の児童労働がなくなって行くように企業がきちんと取り組むこと、そして消費者が児童労働や強制労働がないと言われる商品、フェアトレードだったり、そういうものを好んで買って行くようになることも活動の中で進めています。
堀)
全体の規模感としては、私たちが普段いろんなものを買う時に児童労働が関わっているだろうなというものはどれくらいの規模感になるんでしょうか?
岩附)
それは難しいですね。国内で完全に初めから終わりまで作られたものは、その可能性は極端に少ないと言えるとは思うんですが。やはり可能性が高いのは、原料が主に途上国で作られているもの。原料といっても、例えばパーム油とかですと、スナック菓子にも入っているし、洗剤にも入っているし、チョコレートにも入っているし。いろんなものに入っているんですね。そういう意味ではすごく特定はしづらいんですけど。多分1人の人が1日、朝食を食べてタオルで顔を拭いて、コーヒーを飲んでと考えると、1日の中で児童労働が関わっているかもしれないものを使わない日って逆にないんじゃないかって思うような気がします。
堀)
先進的な、そういう問題に前向きな企業というのはどのような企業があるんですか?グローバル、国内含めて。
岩附)
ACEは森永製菓さんとの連携をやっていて。カカオ産業というのは2000年くらいから問題が指摘されて、世界の名だたるチョコレートを作っているブランドはかなり積極的にいろんな取り組みを始めてはいます。ただそれだけやっても解決ができていないという現状もあるんですけど、意識は持っているなと思います。先ほどいくつか言及したものでいうと、パーム油も認証制度があって、そこから買っている企業も結構多いんですけど、認証制度自体の精度にちょっと問題があったりして、なかなかそれも難しいなあという感じですね。
堀)
問題というのは?
岩附)
認証を受けている現場で強制労働がありましたというレポートが上がってきたりとか。仕組みを作るだけじゃなくて、その仕組みをいかにきちんと機能させるかというのもすごく問われていると思います。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」ができたので、SDGsに沿った形で企業さんも取り組みを始めているところもあります。
■11月開催第4回児童労働世界会議 2025年までに児童労働ゼロを目指して
堀)
今度のその会議は具体的にどういう話し合いが行われて、何がポイントになって、重要な点は何なのか?
岩附)
(今年)11月に開催される第4回児童労働世界会議なんですけど、これは「2025年までに児童労働をなくす」という目標が、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の「8.7」に入ってから初めての会議になるんです。2025年という目標が決まってしまっているので、「そこまでにどうやってこれから取り組んでいくのか」、「何が今必要なのか」というのが話し合われる会議だと思っています。児童労働の現状というのも、4年に1度国際的な統計が発表になりますので、9月に新しい数字が発表になり、11月にその会議が行われて。「世界で企業なNGOや政府や労働組合や国際機関、そういう人たちがどのように連携して取り組んでいくといいのか」、「世界でうまくいっていることは何なのか」ということを共有してさらに児童労働がなくなるようにスピードを加速化させていくのがその会議なんですね。
堀)
岩附さんは前回も参加されたそうですが、どのような様子でしたか?
岩附)
4年前の第3回会議にも参加したんですけど、その時には世界150カ国以上から1300人が参加していたんです。凄い会議で。中でも印象的だったのは、ブラジルが主催国だったんですけど、児童労働をなくすのにすごく積極的な政府だったんです。「キャッシュトランスファープログラム」と言うもので、貧困家庭に現金を支給して、その条件が、「子供が学校に行くこと」と「ワクチンを打つこと」ということ。それで児童労働がかなり減ったという実績があったんです。そのこと自体は知ってはいたんですけど、その会議でルーラ元大統領が来ていて。スピーチで、ルーラ元大統領も児童労働者だったんだというんです。「僕はそれで怪我をして小指がないんです。」と言って見せて、本当に小指がないんです。子供の時に働いていた時に指をなくしたと。「兄弟が多くてみんなでテーブルを囲んでもテーブルの上に食べるものが何もないというのがすごく悲しかったので、大統領になった日に決意したのは飢餓をなくすということです」とおっしゃっていて。ブラジルがそういうことができたのは、もちろんその時に経済発展していて新たな税を課税できたというのもあるんですけど、強い誰かの思い、政治家の大統領のコミットメントがあって、政府としても全力で取り組んでいったというのがあるんだなと思って。そういうことってなかなか報告書を読んでいるだけではわからないんですよね。そういうのを考えると、やっぱりこういう課題を進めて行く上で、政治を司る人たちの中でそういう風にコミットしてくれる人が必要なんだなと思いました。
堀)
政府との連携は重要ですよね。
岩附)
他のアルゼンチンとかの事例が発表された時も、アルゼンチンは国内の児童労働委員会というのを作って、そこにマルチセクターで参加をしていて、企業もNGOも政府も。しかも企業の人たちだけが入っている児童労働撤廃のためのグループもできていて。その企業の方がプレゼンしていたんですけど、その方が「児童労働がなくなるように政策を推進することで一番恩恵を受けるのは企業です」とおっしゃったんです。それもまた目から鱗で。企業の人は利益が大事なので、安い方がいいみたいなマインドがあるのかなと思うかもしれないですけど、「いや、これは企業にとってもメリットなんです」という風におっしゃっていて。企業として児童労働が自分たちの産業内にあること自体がその産業の持続可能性にも大きな影響を与えるという認識があるのと、やっぱり買う側の人たちの意識が人権とか労働の意識が高まって来たという背景もあるんですね。世界の会議に行くと、こういう取り組み方でこういう風に連携して取り組みが進んでいるんだなというのがよくわかって。
堀)
連携でいうと、日本の状況はどうでしょう?
岩附)
日本ってまだそれがすごく少ないんですね。「児童労働ネットワーク」も、もともと児童労働は複雑な問題で一つのセクターだけでは解決できないから、企業も政府もみんなで解決でいるような協業を促すことが必要だという認識から始まっているんですけど。なかなかみんなで揃ってというのは難しくて、ただ児童労働ネットワークでの働きかけによって、前回、世界会議が終わった後に日本で外務省と厚生労働省主催で意見交換会というのが開かれて。そこに関係省庁とJICAと国際機関とNGOの代表が集まって、私からも会議の報告をさせていただけて。「世界にそういう動きがあるんだ」ということ自体を政府側の方々も知る機会が少ないので。すごく熱心な政府というのもあるんですけど、例えばオランダ政府とかとかイギリスとか、比較的熱心なんですけど。なかなか日本なそういう国際会議の場にも、児童労働の分野ではなかなかコミットメント自体がなかなか高くないというのがあって。でも他の国のNGOと政府の連携の仕方とかを見てみると、本当に協力しあってやっているんですよね。だからもっと協力していけるように日本でもやっていかなくちゃいけないな、オールジャパンで日本としてもやっていきましょうみたいな形を作っていけると本当はいいんだけどなというのはすごく思いますね。
■日本企業にも求められるビジネスでの人権意識
堀)
日本の国としてそのあたりのコミットメントが弱いというのは、日本の企業が「児童労働には関係がないよ」ということなのか、何が要因なんでしょうか?関係がないことは無いですよね。
岩附)
すごくあると思います。企業の方の方がそういう危機感というのが強いですね。政府の方の方が、まだ日本の企業のビジネスという中での人権分野についてはまだ取り組もうと始めたばかりという感じだと思います。国連の「ビジネスと人権指導原則」というがありまして、2011年にできたんですけど。「国は人権を保護する義務がある、企業は人権を尊重する義務がある、そしてその救済メカニズムが必要」という3本柱になっていて。その人権をビジネスセクターでどういう風に保証していくかということの国内行動計画というのを各国が作ることになっているんですけど、日本はまだできていなくて。昨年の11月に「作ります」という宣言を国際会議でされたので、今取り組みが始まっていて。関係省庁が集まって会議をするということが始まっているみたいなんですけど。そういう会議を経て、(海外では)実はいろんな法律ができていっているんですね。
堀)
例えばどんな法律ができたんですか?
岩附)
「ビジネスと人権の指導原則」から、「英国現代奴隷法」という法律ができていて。英国現代奴隷法の中の一つに、「企業がサプライチェーン(供給連鎖)の中に人権問題があるかどうかのdue diligence(精査)を行なって、その情報公開をしなければならない」という情報公開が義務付けられている法律があるんです。それを監視するのは誰かというと、「それはNGOセクターがやってくれたらいい」と。政府は情報公開だけを義務付けしますという法律なんですけど、すごくいいなと思っていて。due diligence(精査)をしたかどうかを報告するので、「やってません」という報告をしようと思えばできるんです。でもそしたらNGOから必ず何か言われるので、そういう緊張感をうまく使ったバランスのとれた法律だなと思っていて。そういう仕組みが、実はイギリスだけじゃなくて、今アメリカでもフランスでもオランダでもどんどんできているんですよ。いわゆる先進国の中で。日本はまだそういうのが全くなくて。そういう意味では一つの省庁だけで取り扱える課題じゃないというのも課題で、前に進めづらいのかなと思います。
堀)
それはある種、人権をどうするかという話もさることながら、産業としても持続可能な開発、発展を維持するためにもこういう改革が必要なんだという風に目が向いているからですよね。
岩附)
そうだと思います。Sustainability(持続可能性)をそういう風に考えていと思いますし、逆にそういうルールをどんどん作っていっているのが欧州だと思いますね。
堀)
それに(日本は)無警戒というか。
岩附)
そうなんです。困るのは日本の中小企業さんで。なぜかというと、欧州の取引先から日本の大企業に来て、日本の大企業からサプライチェーン(供給連鎖)である日本の中小企業のところに来て、「あなたのところ児童労働ないですよね」と急に言われるという現象が今起きていて。
堀)
もう起きている?
岩附)
そうなんです。そういう意味では日本もサプライヤー(部品製造業者)でもあるんですよね。買うだけじゃなくて、サプライヤー(部品製造業者)でもあるので、人権を守るということが実はすごくビジネスの中で重要になっていること自体に無自覚、あまりにもというのがありますね。それで今どうしていいかわからなくて困っているというのが現状だと思いますね。
堀)
実際、きちんと調査した結果、証拠としてうちは関わっていませんということを出せないと取引というのはできなくなるんですか?
岩附)
契約の中にそれを入れているところもあります。それは契約次第だともいますが、契約によってはそれを入れているというのもあると思います。
■若者とアルゼンチンでの国際会議へ クラウドファンディングで資金集め
堀)
今回資金として一番必要としているのは?
岩附)
今回アルゼンチンで国際会議があるので、そこへ4人で行きたいと思っています。その渡航費というのが一番クラウドファンディングを必要としている理由です。児童労働ネットワークは実は本当に小さな組織で。それぞれの団体さんが会員になってくださって運営しているというネットワークなので、もともと財源がなくて。4人も地球の裏側のアルゼンチンに派遣するというお金がないということ。また、これまで1回、2回、3回と一人だけずっと行っていたんですけど、一人だと分科会に別れた時に同時並行で行われるので全部のお話聞けないんです。なので複数人でいきたいということ。さらに、今回行く予定をしているのが、私と児童労働ネットワークの代表の堀内さんと、ACEで児童労働ネットワークの事務局をしている杉山と、もう一人若者。
堀)
若者も連れていくんですね。
岩附)
こういう国際会議に一緒に若い人を連れて行きたいという気持ちがあって。振り返ってみると、自分自身も20代の若い時にアジア開発銀行の総会でスピーチをすることになって、冷や汗かきながらだったんですけど、機会があったことで、「そういう会議が何なのか」とか、「何が決まるのか」とか、「そこでどういう風に動くことが大切なのか」とか、だんだんとわかってくるんですよね。機会がないと本当にわからないので。今から若い人たちにそういう機会を作らせてもらって、世界の動きに遅れがちな日本をもうちょっと一緒についていけるようにしたいという思いがあります。元児童労働者の子供達とか若い子たちが活躍しているんですよ。
堀)
世界で?
岩附)
そうなんです、私たち自身も、学生の時に始まって今年で20年で。うちの事務局長の白木とか、「あなたは児童労働者なの?」と間違われながら活動していたので、同じ世代の人たちが今どんな風に頑張っているのかっていうのを見てもらうのもいいんじゃないかな、そしてそういう人たちとつながれるといいなと思っていて。若い人たちと一緒に行って、会議でいろんな人の話を聞いて繋がって、今後の連携を模索していくということと、若い人たちと一緒にその場を体感しながらいろんなものを日本に持ち帰って、日本の会員団体さんを含め共有して行きたいなと思っています。
堀)
ちなみに、その若者というのはもう決まっているんですか?
岩附)
若者は、フリー・ザ・チルドレンジャパンさんから選出していただくんですけど、これからフリー・ザ・チルドレンジャパンさんが合宿をされるのでその中で決まっていくと思います。
堀)
何才くらいの子でしょうか?
岩附)
中高生かな。10代の子だと思います。
堀)
次の世代も育成しながら。
岩附)
そうですね、日本にいると若干世界が狭くなってしまうので、広い世界を見てもらえたらいいなと思います。