スウェーデン政権危機を逃れるが、NATO加盟申請に心配の種が増える
今回はスウェーデン政権は辞任を回避した。
7日、再犯罪対策が十分ではなかったとして、法務大臣に対する不信任決議案がスウェーデン国会で採決された。
与野党の議席数は大差ないため、1人の無所属の議員が鍵を握ることに。
結果、政権の運命を握ったこの議員は採決を棄権した。
野党は「たった1票」が足りず、不信任案は否決となり、法務大臣は続投となった。
つまり、政権が辞任することはなくなった。今回は。
1人の大臣に対する不信任案は政権に対する不信任案だとして、「もし法務大臣に対する不信任案が可決されたら、政権は辞任する」とマグダレナ・アンデション首相は苛立ちを露わにしていた。
だが事態は収束したわけではない。
なぜ棄権したのか
運命の1票を握った無所属のアミーネ・カカバーヴェ国会議員はクルド系でもあり、スウェーデンのクルド人の人権を守ることに熱心な政治家だ。
彼女はぎりぎりまで、与野党のどちら側につくのか明確にせず、スウェーデン政権に対して「トルコの要求に応じないように」という交渉もしていた。
なぜ、棄権したのか?
可決か否決かの明確な態度を表明せずとも、棄権なら、その票は数えられず、野党は1票足りないまま、不信任案が否決されるからだ。
カカバーヴェ国会議員は採決の前日になっても、どちらの側につくのか迷う態度を見せていた。
翌朝、取材現場に向かう途中で「棄権すると決意した」と発表。
その約5時間後に、スウェーデン国会での議論と採決は始まった。
まさに、ぎりぎりのタイミングでの決断だったわけだ。
同議員が法務大臣をサポートする側に回った理由は「法務大臣は名誉を巡る抑圧問題に取り組んできた」から。「大きなカオスとならなくて良かった」と、カカバーヴェ国会議員は現地メディアに話した。
では一件落着か?そうでもない。
今回の不信任案で野党に足りなかったのは、たったの1票だ。
この数年間でスウェーデン政権が、何度か政権危機に陥った理由だ。
9月の国政選挙までに野党が動いて、別の危機が起こる可能性もある。
それだけではない。
カカバーヴェ国会議員の1票に、これからも政権は依存することとなる。
カカバーヴェ国会議員は無所属でクルド系という背景により、自分は大きな影響力を持ち、注目を浴びる立場にいると自覚している。
すでに、次の国会予算案で、彼女の要求が予算案に反映されなければ、首相側には票を投じないという姿勢を見せている。彼女にとって有利な政策が実行されるように、自分の1票を存分に利用する構えだ。
今後のいくつもの交渉で、彼女の要求が「スウェーデンに住むクルド人を守るため」のものだったり、NATO加盟申請のトルコとの交渉で、「トルコの言うとおりにしない」ことだとすると?
スウェーデン政府は、大きな問題を抱えることになる。
いや、もう抱えているといっていいだろう。
トルコ側が眉をひそめるクルド系議員は、たまたまスウェーデン政権が依存している人物だった
トルコにとっても、今回の騒動はおもしろいものではない。
すでに今回の件を受けて、「スウェーデン政府はクルド系議員に振り回されている」とトルコでは報じていると、トルコ在住のスウェーデン公共局の記者はレポートしている。
カカバーヴェ国会議員の1票の影響力は、今回の件で改めて目立ってしまった。
トルコ側が不快に思い、NATO加盟申請とトルコとの交渉にネガティブに働く可能性があると、スウェーデンのSvenska Dagbladetや公共局は報じている。
今回の件で、政権に閣外協力をする中央党のルーフ党首の言葉が、私の感想に近いので引用しておきたい。
各政党の実力勝負は9月の国政選挙で本領発揮して、今はNATO加盟申請に集中したほうがいいのでは、と私は思うのであった。