マスク氏、「くそくらえ」暴言から一転 広告主にX復帰呼びかけた理由
米起業家のイーロン・マスク氏は、先ごろフランス南部カンヌで開かれた国際広告祭で登壇し、X(旧ツイッター)への広告出稿を呼びかけた。同氏は2023年11月、Xへの広告出稿から撤退すると表明した広告主に対し「くそくらえ」と発言していた。暴言から一転、ソフトな口調で当時の発言の趣旨を釈明した。
マスク氏、広告主への口撃を撤回
米CNBCや米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの米メディアによると、マスク氏は、広告世界最大手、英WPPのマーク・リードCEO(最高経営責任者)と共に登壇した。マスク氏はリード氏の質問に対し、7カ月前の発言は特定の広告主を対象としたものではなく、言論の自由に関する一般的な議論の文脈で出たものだ、と説明した。
同氏は「幅広い考えを持つ人々が自分の意見を表明できる、グローバルな言論の自由の場を持つことが重要と考えている」とし、「金銭のために検閲されることに同意するよりも、言論の自由を支持する。これが正しい道徳的判断だと思う」と付け加えた。
CNBCによると、23年、米アップルや米IBM、米ウォルト・ディズニー、ソニーグループなどのグローバル企業がXへの出稿を取りやめた。マスク氏による物議を醸す発言や、自社広告がヘイトスピーチ(憎悪表現)などのコンテンツとともに表示されたことを受けた措置だ。
加えて、同氏は反ユダヤ主義的ととられかねない自身の投稿に端を発する広告主の対応も批判した。同氏はCNBCのアンドリュー・ロス・ソーキン氏とのインタビューで、広告主に対し「広告するな」とも述べていた。「もし誰かが広告で私を脅迫しようとしたら? 金で脅迫しようとしたら? くそくらえだ(go f— yourself)」と発言していた。
しかし今回のイベントでは、こうした口撃を撤回した。その上で、「もちろん、広告主には自社ブランドと親和性のあるコンテンツの隣に広告を表示する権利がある。しかし、プラットフォーム上に自分たちが反対するコンテンツが一切存在してはならないと主張することは、適切ではない」(マスク氏)
Elon Musk softens 'go f--- yourself' comment to woo advertisers
https://www.cnbc.com/2024/06/19/elon-musk-softens-go-f-yourself-comment-to-woo-advertisers.html
Elon Musk Pitches Advertisers on a Return to X, Months After Telling Some to ‘F’ Themselves
https://www.wsj.com/articles/elon-musk-pitches-advertisers-on-a-return-to-x-months-after-telling-some-to-f-themselves-532d2745
■「言論の自由が保障されたプラットフォーム」
さらに同氏は、「Xが世界の公共広場となるためには、言論の自由が保障されたプラットフォームであることが重要だ。これは、違法な発言を容認するという意味ではない。法の範囲内での表現の自由を意味する」と強調した。
WSJによると、マスク氏は今回のイベントでXがAI(人工知能)を活用し、ユーザーと広告とのマッチング能力を向上させていることを明らかにした。しばらくXに広告を出しておらず、復帰を検討している広告主に対し「試してみる価値がある」と呼びかけた。「我々は、関心を持ってもらえるユーザーに対し広告を表示するよう注力している。改善を重ねており、大きな進歩を遂げている」と自信を示している。
マスク氏、「万能アプリ」目指すも収益化に苦戦
マスク氏がこうしてグローバル企業に出稿を呼びかける背景には、収益の急減があるようだ。米ブルームバーグ通信がこのほど入手したとする、規制当局への提出書類によると、23年上半期におけるXの売上高は14億8000万ドル(約2300億円)で、マスク氏が買収する前の22年上半期と比べて40%近く減少した。23年1〜3月期には4億5600万ドル(約720億円)の赤字を出している。
収益減少の大部分は、Xの広告問題に起因していると考えられる。マスク氏による買収以前のツイッターの広告収入は総売上高の90%を占めていた。
マスク氏は、広告収入に依存しないビジネスモデルを構築しようと、様々なアイデアを出している。例えば、サブスクリプション(定額課金)型サービスの「Xプレミアム」やクリエーターの収益化を支援するサブスクサービス、個人間送金の「Xペイメント」などである。マスク氏は、幅広い機能を持つ「万能アプリ」を目指しており、特に金融分野に力を注いでいるとされる。しかし、これらはいずれも広告収入の減少を補うものにはなっていないようだ。
ブルームバーグが今回入手した書類は、22年10月に買収されて以来、Xがいかに財務的に苦戦しているかを浮き彫りにしていると、米オンラインメディアのマッシャブル(Mashable)は報じている。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年6月28日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)