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リーグワン苦戦が強さ証明?&ディビジョン1第12節私的ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
フォラウは持ち前の走りでワイルドナイツを苦しめた(写真:REX/アフロ)

 下剋上なるか。多くのファンを興奮させただろう。

 4月9日、埼玉・熊谷ラグビー場。リーグワンで12チーム中11位だったシャイニングアークスが、同3位で昨季のトップリーグ王者のワイルドナイツに惜敗も24―31と僅差だった。

 接点でタフなタックルを重ね、球を奪えば首尾よく陣地を取り、要所で元オーストラリア代表のフルバック、イズラエル・フォラウが豪快なランを重ねた。

 前半11分、カウンターアタックをペナルティーキック獲得につなげる(3―0)。さらに17―24と7点差を追っていた後半30分には、敵陣の深い位置で相手防御を蹴散らす。自身のトライと直後のコンバージョン成功で、24―24と同点に追いつく。その他の場面でも、場内に驚きをもたらし続けた。

 ワイルドナイツのスタンドオフである松田力也は、特にフォラウのカウンターアタックを許したことを猛省。キックの種類を変えることで、被害を最小化できたのではと語る。

「フォラウ選手のところに蹴っていいプレッシャーをかけられればそこからチャンスが生まれると思っていたのですが、そこでプレッシャーをかけきれず。そうなると相手はいいランナーなので、逆に、シャイニングアークスのペースになってしまった。そこでロング(フォラウの頭を超すようなキック)を蹴ったり、蹴る場所を変えたりと戦略を変えれば、前半からもスコアできたんじゃないかと思います」

 シャイニングアークスでは、スコットランド代表スクラムハーフのグレイグ・レイドローがスタンドオフで先発。敵陣でも防御の裏へキックを蹴るなど、無理のないプレー選択で序盤のクロスゲームを醸成した。

 思えば堅守で鳴らすワイルドナイツは、前節のブルーレヴズ戦でも相手がボールを手放した直後の対応に苦慮していたような。戦前、このチームのフッカー兼ディフェンス博士である堀江翔太は、あくまで修復可能な点だとしてこのように述べた。

「(相手にとっては)蹴ることでしか(自軍の防御の突破口は)開けないし、そこ(キックで混沌局面を作られた直後の動き)が(ワイルドナイツの)弱みだと思っている、と、思う」

 シャイニングアークスも、その流れに沿っていたような。

 裏を返せばワイルドナイツは、思うに任せぬ状態で白星を掴んだ。

 後半開始からの10分間で3トライ。そのうち2つは、シャイニングアークスのミスと反則が重なった時に効率よく奪ったものだ。10―21を17―21とされた直後の後半25分には、キックオフの落下地点で反則を誘って17―24と点差を広げる。

 その5分後にはフォラウのトライなどでタイスコアにされたが、再び勝ち越して迎えた後半終了間際には、自陣ゴール前で本領を発揮。一枚岩の防御網を敷き、逃げ切りに成功したのだ。シャイニングアークスの計画遂行力、ワイルドナイツの自滅が、かえってワイルドナイツの生来の凄み(要所での集中力)を浮き彫りにさせた。

 終盤からグラウンドに出た堀江は、要所の接点で球に絡み、後半35分には左端でのオフロードパスで29点目を演出した(まもなく24―31となる)。ラストシーンでも、味方が攻守逆転を決めるラックのそばにいた。アウトサイドセンターのディラン・ライリーは、数的不利を帳消しにする鋭いタックルやスコアを演出する走りで魅した。

 敗れたシャイニングアークスでは、ロブ・ペニーヘッドコーチは「選手たちを誇りに思う」と強調していた。かたや新人スクラムハーフの飯沼蓮は、唇をかんだ。その意気やよし。

「前半は自分たちがチャレンジャーという意識でいい形でいけたのですが、後半は簡単な形でトライをされて、突き詰められていないと感じました。そこを改善できればもっといいチームになる。デビュー戦としては悪くなかったですが、それよりも敗戦が悔しいという気持ちでいっぱいです」

 9、10日に各地であったリーグワン・ディビジョン1の第12節では、2位だったスピアーズが4位のイーグルスとの接戦を落とした(大阪・万博記念競技場で21―30)。

 かくして、ワイルドナイツは2位に浮上。4強同士のプレーオフ争いは佳境に入っていて、5位だったヴェルブリッツは6位だったブレイブルーパスとの対戦で要所におけるミス、反則でブレーキをかけて敗れる(岐阜メモリアルセンター長良川競技場で31―53)。こちらの順位も入れ替わった。

(談話はリモート取材による)

<ディビジョン1 第12節 私的ベストフィフティーン>

1、河田和大(ブルーレヴズ)…ブラックラムズに45―19で勝利。8人一体のスクラムで優位に立ったうえ、17―0とリードして迎えた前半26分頃に中盤右で、17―7となっていた同33分頃には自陣ゴール前左中間で鋭いロータックルを繰り出す。

2、庭井祐輔(イーグルス)…スピアーズと接戦。地面の上でタフに圧をかけ(前半29分には、オペティ・ヘルのジャッカルを未然に防ぐスイープを披露)、大型選手への突進でゲインラインを押し込むこともあった。

3、ヴァルアサエリ愛(ワイルドナイツ)…シャイニングアークス戦で後半から登場するや、レイドローへの突進でトライを記録。スクラムでも向こうのコラプシングを誘い、ラストワンプレーではセカンドタックラーとしてカウンターラックを決める。

4、コリー・ヒル(イーグルス)…ゲインライン上へのパスへ駆け込むランナー、モールの壁役もしくはエンジン役として際立った。

5、サウマキアマナキ(イーグルス)…前半8分から登場。相手ボールの接点、自軍のモール(前方で壁役となり、複数名の防御と押し合った)で奮闘。試合終盤のジャッカルでノット・リリース・ザ・ボールを誘い、敵陣に居座るのに成功。対するルアン・ボタ(スピアーズ)もチョークタックルで攻めを鈍らせ、後半9分頃には自陣深い位置でのラインアウトをスティールした。

6、クワッガ・スミス(ブルーレヴズ)…得意のジャッカルを連発。前半33分のそれはピンチを防ぎ、前半41分のそれは得点機を作った。点差のついていた試合終了間際にも鋭い出足のタックルを披露。身軽さが活きた3トライがなくてもプレイヤー・オブ・ザ・マッチ級と言えた。

7、マット・トッド(ブレイブルーパス)…再三のジャッカル、大外のスペースへのロングパスで魅する。味方が接点から蹴った球を手にし、ゲインラインを破ったのは前半23分頃。間もなく味方のトライが生まれた。対するヴェルブリッツのピーターステフ・デュトイも何度も局地戦に顔を出し、タックル、突進を重ねた。

8、姫野和樹(ヴェルブリッツ)…ブレイブルーパスに敗戦も、再三の突進とジャッカルで気を吐いた。リアム・ギル(シャイニングアークス)も肉弾戦で光った。

9、飯沼蓮(シャイニングアークス)…デビュー戦で80分間、プレー。前年度のトップリーグ王者に接近した。接点から球をさばきながら、視線を防御ラインに向ける。守ってはマリカ・コロインベテに突き刺さるタックル、前年度の新人王である竹山晃暉のカウンターアタックへのジャッカルで魅する。

10、トム・テイラー(ブレイブルーパス)…立ち位置を自在に変えてキックパス、オフロードパスでワイド攻撃を成立させる。

11、高橋汰地(ヴェルブリッツ)…思い切りのよい走り、抜け出した味方へのサポートで打ち合いを面白くした。石井魁(シャイニングアークス)はキックを追う速さが、アタアタ・モエアキオラ(スティーラーズ)は突破力が光った。

12、ヴィリアミ・タヒトゥア(ブルーレヴズ)…球を持てば躊躇なき突進、防御をひきつけての短いパスでゲインラインを破る。

13、セタ・タマニバル(ブレイブルーパス)…ゲインラインの裏側へ抜け出す走り、防御をひきつけてのバックフリップパス、要所でのターンオーバーと八面六臂の活躍。本欄で頻出のサム・ケレビ(サンゴリアス)、ライリーも出色の出来。

14、SPマレー(イーグルス)…フルバックで先発。ウイングのヴィリアメ・タカヤワとともに蹴るか、走るかの判断が冴えた。後半28分頃には敵陣の深い位置での接点に身体を差し込み、スピアーズの反則を誘う。自らペナルティーゴールを決め、23―14とリードを広げた。

15、イズラエル・フォラウ(シャイニングアークス)…問答無用の突破力。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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