なぜシティは大型補強を敢行していないのか?欧州王者の確信と中盤補強のトレンド。
ヨーロッパ・チャンピオンが、始動している。
昨季、チャンピオンズリーグを制したのはマンチェスター・シティだった。2016年夏のジョゼップ・グアルディオラ監督の就任から、およそ7年が経過。念願だったビッグイヤーを手に入れ、シティは3冠を達成した。
■欧州王者の補強
だが、今夏、シティは積極的な補強に動いていない。
イルカイ・ギュンドアン(バルセロナ)、リャド・マフレズ(アル・アハリ)
がチームを去ることになった。他方で、シティが獲得したのはマテオ・コバチッチ(移籍金2800万ユーロ/前所属チェルシー)のみ。ほか、ジョシュコ・グヴァルディオル(ライプツィヒ)の獲得を決定的としている。
昨季、シティが欧州の頂点に立った背景には、アーリング・ハーランドの獲得と適応があった。決定力のあるストライカーの加入で、グアルディオラ監督はゼロトップの戦術を捨て、CFを頂点に据える従来の型に戻した。
ただ、そこで終わらないのがグアルディオラ監督だ。ジョン・ストーンズを“偽CB”に化けさせ、【3−4−2−1】を形成した。このシステムチェンジで、シティはポゼッションとビルドアップを向上させ、なおかつ守備を堅固にするというミッションを完遂した。
グアルディオラ監督は後方からの構築を重視する指揮官だ。彼が指揮官ポストに就いて以降、シティはCBの補強に注力してきた。
ストーンズ(移籍金5500万ユーロ)、アイメリック・ラポルト(6500万ユーロ)
ルベン・ディアス(7100万ユーロ)、ナタン・アケー(4500万ユーロ)、マヌエル・アカンジ(1750万ユーロ)…。ディフェンスラインの補強に、2億5300万ユーロ(約379億円)を投じてきた。
■CBと中盤のチーム強化
昨年夏の移籍市場で、CBの複数選手が高額な移籍金で移籍した。
ヴェスレイ・フォファナ(移籍金8000万ユーロ/約120億円/チェルシー)、マタイス・デ・リフト(6700万ユーロ/約101億円/バイエルン・ミュンヘン)、リサンドロ・マルティネス(5700万ユーロ/約85億円/マンチェスター・ユナイテッド)、ジュール・クンデ(5000万ユーロ/約75億円/バルセロナ)といった選手たちである。
一方、この夏の移籍市場に目を向けると、興味深い事実が浮かび上がる。中盤の補強に、資金が投じられているのだ。
デクラン・ライス(移籍金1億1600万ユーロ/約174億円/アーセナル)、ジュード・ベリンガム(1億300万ユーロ/約154億円/レアル・マドリー)を筆頭に、MFの選手のビッグディールがまとまっている。
カイ・ハフェルツ(7500万ユーロ/アーセナル)、ドミニク・スボスライ(7000万ユーロ/リヴァプール)、メイソン・マウント(6420万ユーロ/マンチェスター・ユナイテッド)、サンドロ・トナーリ(6400万ユーロ/ニューカッスル)、クリストファー・エンクンク(6000万ユーロ/チェルシー)、マヌエル・ウガルテ(6000万ユーロ/パリ・サンジェルマン)…。トップ10のうち、実に8人が中盤の選手だ。
■中盤補強の背景と理由
「デクラン・ライスをチームの一員に加えられて、嬉しく思う」とライスを称賛するのはミケル・アルテタ監督だ。
「ライスは素晴らしい技術を備えていて、プレミアリーグやイングランド代表でハイパフォーマンスを継続してきた。彼のクオリティに疑いの余地はない。必ずクラブに貢献してくれるだろう。アーセナルで成功するためのポテンシャルがあり、優れた才能を持っている」
「ライスは24歳にして、プレミアリーグで豊富な経験を備えている。ウェスト・ハムでキャプテンを務めて、昨年、ヨーロッパのタイトルを奪っている。彼の役割は大きかった。そういう選手を獲得できて、とても興奮しているよ」
ライスはボランチが本職の選手だ。だがCBでもプレーできて、守備力と後方からの球出しにおいて力を発揮する。そういう意味では“ストーンズの逆”と言えるだろう。
目下、欧州のマーケットはオープンな状態だ。キリアン・エムバペ(パリSG)やハリー・ケイン(トッテナム)らの去就に注目が集まるなか、少し視点をずらしてみると、意外に本質的なものが見えてくるかもしれない。