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なぜ「早とちり」がダメなのか〜動物実験でわかった即断即決より熟考の重要性

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 人間は誰しも間違いをしたり失敗したりするが、ケアレスミスと並んで早とちりによるものも多い。ラットを使った実験では、熟慮した後の失敗のほうが早とちりで失敗したほうより経験値になることがわかった。

素早い決断と行動は重要か

 チャンスの女神には前髪しかないなどとよくいわれる。これは幸運を得るためには、前髪をつかむほど素早く行動すべきという意味だそうだ。

 ビジネスの世界では即断即決が求められる。夏休みの宿題も、後回しにすればするほど気持ち的にもストレスになる。なんでも早め早めの行動が良しとされてきた。

 もちろん、スポーツの世界では素早く動かなければ試合に負けてしまうだろう。生物進化の過程でも即断即決が発揮されてきたと考えられ、緩慢な動きをする動物はナマケモノなど限られている。

 生存競争では、選択のミスはしばしば個体の死滅や種の存続に関係する。即断即決も沈思黙考も、ミスをすれば生き残ることができない場合が多いので、どちらが経験的な蓄積になるのかわからない。

 自然環境で生き残るためには、状況ごとに即断即決したり沈思黙考して熟慮したりと、柔軟に行動を変える必要がありそうだ。適切なタイミングで適切に行動することが重要ということになるが、そうした生態はどうなっているのだろうか。

学習によるラットの実験

 脳研究で著名な東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループは、実験動物のラットを使って2択から正解を選ぶという課題を行わせ、学習速度の個体差を決定する要素を調べてみた。結果は、米国の科学雑誌『PLOS ONE』に発表(※1)したが、早とちりするラットのほうが学習を身につけにくくなるそうだ。

 同研究グループは、壁に2つの穴を開けた小部屋に22匹のラットを入れ、どちらの穴からも報酬のエサがもらえることをあらかじめ学習させてから、その後、緑色のライトが点灯したほうの穴にエサがないことを学ばせた。緑色のライト点灯がないほうの穴に鼻を突っ込むと正解となって、ラットはエサをもらえることになる。

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ラットを使った実験の図。まず4日間で2つの穴のどちらかからエサをもらえることを学習させ、その後に緑色のライトが点滅したほうにはエサがないことを学ぶ。緑色のライトにエサがないことを学んだラットごとに、考える時間と成功体験がどのように関係するか調べた。Via:Yosuke Yawata, et al., "Answering hastily retards learning." PLOS ONE, 2018

 こうした学習テストを4日間させ、それぞれのラットが正解を学ぶ期間を調べた。すると、全てのラットが4日間で学習を成立(正解率80%以上)させ、1日目に学習を成立させるラットが最も多かったが、3日間かかるラットもいて学習成立の期間にバラツキがあったという。

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22匹のラットの学習成立(上の折れ線グラフの赤いドット、正解率80%以上)の期間の違い。下の棒グラフをみると、個体によって学習する回数に違いがあることがわかる。Via:東京大学のリリース(2018/09/25アクセス)

急いては事をし損じる

 さらに各ラットを調べ、熟慮した後に学習を成立させたラットと即断即決で学習を成立させたラットで各実験テスト開始時から鼻をどちらかの穴に突っ込むまでの時間を比べてみたところ、正解したケースより不正解のケースのほうが即断即決が多く、ラットの正解率と学習成立の速さ遅さに関係はないことがわかった。

 各ラットで調べてみると個体ごとに差があり、多くは4秒ほど熟慮した後に穴に鼻を突っ込む行動をとるが、熟慮せず早とちりするラットのほうが学習の成立が遅い傾向にあるという。

 また、熟慮型ラットは仮に失敗しても学習成立が早かった。一方、早とちりラットがまぐれで正解しても学習の成立には影響せず、失敗しても熟慮したほうがいいことになる。

 行動の個体差がどうしてできるのか、また自然環境でこうした差がどう影響するのか興味深い。急がば回れ、急いては事をし損じる、短気は損気などともいう。これを人間に当てはめれば、即断即決を尊ぶことも多いけれど、熟慮して行動することも重要ということなのだろう。

※1:Yosuke Yawata, et al., "Answering hastily retards learning." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0195404, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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