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すべて計画通り!「PERFECT HUMAN」オリエンタルラジオ中田敦彦の『紅白』出場への完璧な戦略

てれびのスキマライター。テレビっ子
RADIO FISH「PERFECT HUMAN」

「日本国民の皆さん、僕の才能を楽しんでくれてますか? 我々の楽曲『PERFECT HUMAN』が僕の思惑通り非常に反響を得ているという事でそこそこ喜んでいます。今後の展望なんですけども、私の敬愛するタモリさんの『ミュージックステーション』に出演することを皮切りに武道館でライブをして最終的には紅と白の歌合戦の方にお邪魔しようかなと思っております」

これは、約10ヶ月前の2016年2月19日に放送された『ミュージックステーション』のVTRコーナー「Mトピ」でオリエンタルラジオによる音楽ユニット「RIDIO FISH」が特集されたときの中田敦彦のコメントである。

RIDIO FISHの楽曲「PERFECT HUMAN」は2月13日に放送された『ENGEIグランドスラム』で披露されたのがきっかけとなり大反響を巻き起こし、iTunesチャートで1位を獲得した。そして、中田の冒頭の宣言通り、3月11日には、アーティストとして『ミュージックステーション』本編に登場。武道館ライブこそ実現していないが、見事『NHK紅白歌合戦』の出場を勝ち取った。

何よりスゴいのは、これが「たまたま」ではないことだ。

中田敦彦はこの“プロジェクト”を立ち上げたときから、冗談でも何でもなくそれを狙っていたのだ。

「PERFECT HUMAN」への軌跡

まず、「PERFECT HUMAN」発表までの軌跡を振り返ってみよう。

言うまでもなくオリエンタルラジオは2005年に「武勇伝」で1度目のブレイクを果たした。

その後、低迷したが、2010年頃、藤森慎吾の「チャラ男」で2度目のブレイク。

そして2013年、結成10年を控えたオリエンタルラジオは原点回帰をはかる。それが「カリスマ」というネタだった。

テレビ初披露は2013年12月27日の『爆笑問題の検索ちゃん』(テレビ朝日)。

徹底的に中田がカッコつけ、それを藤森が「痺れる~」と賞賛。すると音楽が鳴り始め踊るという「武勇伝」の流れを汲むネタだった。

これを中田は「中田がカッコつける、藤森が褒める。踊る。これがオリラジ歌舞伎」と形容している。

そして翌年、この「カリスマ」はさらなる進化を遂げる。

やはりテレビ初披露はちょうど1年後の14年12月26日放送の『検索ちゃん』だった。

まず「武勇伝」を全力で披露すると自然な流れで「カリスマ」に移行。

その後、唐突に中田が「しゃらくせー!」と藤森を殴りつけると、別の音楽が流れ始め、突如4人のダンサーがステージに入ってきて踊りだす。そして音楽が転調すると、突然2人が歌い出す。それがオリジナル曲「STAR」だった。今度はオチが「歌」になったのだ。まさに「PERFECT HUMAN」の原型である。

そしてこれがユニット「RIDIO FISH」のテレビ初登場だった。

さらに1年後。ついに「PERFECT HUMAN」が初めて披露される。

今回もテレビ初出しは『検索ちゃん』。15年12月25日のことだった。

昨年同様、「武勇伝」「カリスマ」を披露。その後、「武勇伝」に戻り「ペケポン!」と締めると、またも曲が流れ出す。

それが「PERFECT HUMAN」だった。

翌年2月には『ENGEIグランドスラム』で「武勇伝」「カリスマ」の前フリなしに「PERFECT HUMAN」を2コーラス披露

これこそが「PERFECT HUMAN」の完成形だった。

『ENGEIグランドスラム』がゴールデンタイムでの放送だったということもあり、この日初めてRIDIO FISHを見たという人が続出。たちまち大反響となった。

こうして振り返ってみると明らかなように、「PERFECT HUMAN」は完成形に向けてブラッシュアップを続けてきた結果、それが完成したタイミングとより多くの人が目撃したタイミングが見事に合致してブレイクを果たしたのだ。

お手本はゴールデンボンバー

RADIO FISHが結成されたのは、2014年。

中田敦彦は頭のなかに緻密な計画を立てていた。

16年2月27日に開催された自身のトークライブで語られた話をもとにそれを振り返ってみる(以下、引用部分で特に注釈のないものはそのトークライブから)。

俺はこのプロジェクトで絶対に当てるからついてきてくれ」「お金はもしかしたら払えないかもしれないけど、何かを起こすからとにかくついてきてくれ!

中田の実弟・FISH BOYを含む4人のダンサーに中田はそう宣言したという。

中田にはこのプロジェクトにあたってひとつの“お手本”とも言うべき存在がいた。

それが「ゴールデンボンバー」だった。

彼らを知ったのはMUSIC ON!TVでの音楽番組をやっていたときだった。まだヒットする前の「女々しくて」のPVを観た中田は「おもしれえ!」と思った。

だが、それ以上に藤森が食いついた。

「あっちゃん、これは絶対に流行る!」

中田は藤森のその種の感覚には絶大な信頼を寄せている。実際に、「女々しくて」は大ヒット。エアバンドにも関わらず『紅白歌合戦』にも出場を果たしたのだ。

その事実は中田にとって「あまりにも強烈な出来事」だったという。

鬼龍院翔は、もともとお笑い芸人を目指していた。吉本興業の養成所NSCではオリラジの1年先輩にあたる。だが、お笑い芸人の夢を諦めて、音楽の道に行った。工夫に工夫を重ね、バンドなのに楽器を弾かないという逆転の発想でヒットを掴んだのだ。

いわば、彼らは音楽番組にお笑いネタを持ち込んだ。だからこそハネたのだ。他のアーティストとは誰とも似ていないからニーズがある。その結果、4年連続同じ曲で『紅白』に出場できたのだ。

では、自分たちの武器はなんだろう。中田は考えた。

お笑い番組に歌を持ち込めばいいんだ!逆をやるんだ。そうするとワンアンドオンリーになれるじゃん。俺たちはマジな歌を、“カッコいい”をお笑い番組に持ち込むんだ

オリエンタルラジオのRADIO FISHプロジェクトとはつまり「ゴールデンボンバー作戦」なのだ。

裏テーマは「第2のゴールデンボンバーになる!」だった。

そして『紅白歌合戦』で中田が狙っていたのは、お笑い芸人がよく起用される「応援ゲスト」などの枠ではない。正式な「出場者」とされるアーティスト枠だ。では、それに向けてのライバルは誰か。そう、昨年まで4年連続で出場しているゴールデンボンバーだ。中田は『紅白』の中で“笑いあふれるステージを提供する”ゴールデンボンバーの枠を狙った。

結果、中田の目論見通り、ゴールデンボンバーが落選し、それと入れ替わるようにRADIO FISHが『紅白』出場を果たしたのだ。

「上半期」と「下半期」の壁

もちろん、この『紅白』出場までには、いくつもの“壁”があった。

中でも大きかったのは「上半期」と「下半期」の壁だ。

昨今の日本のエンタメ界では、「下半期」に流行したものが「流行語大賞」選出や『紅白歌合戦』出場に繋がる場合が多い。事実、下半期にブレイクし、“ライバル”と言われたピコ太郎が「PPAP」で流行語大賞にノミネートされトップテン入り。「PERFECT HUMAN」は落選した。

したがって「夏」をどう乗り切るかが『紅白』出場への鍵だった。

そこにも中田が綿密な戦略を立てていたことをうかがわせる。それはこちらの記事にあるようにテレビでの露出を多くても1週間に1度程度にコントロール(しかも、その番組ごとに演出を変えている)しつつ、新曲やMVの発表やアルバムの発売、単独ライブ開催など話題を途切れさせなかった

2月:『ENGEIグランドスラム』で「PERFECT HUMAN」披露

3月:『ミュージックステーション』初出演。『FNSうたの春祭り』「東京ガールズコレクション2016」ゲスト出演

4月:『笑点』出演。公式MV発表

5月:『金曜ロンドンハーツ』『エンタの神様』出演。アルバム「PERFECT HUMAN」発売。LINEスタンプ発売

6月:『うたコン』『ネプローラの爆笑まとめ』出演。10週連続音楽配信開始。

7月:『MUSICDAY』『音楽の日』『うたの夏まつり』出演。新曲「GOLDEN TOWER」をMステで披露

8月:「SUMMER SONIC」出演。赤坂BLITZで単独ライブ。2ndアルバム制作発表

9月:「WONDERLAND」が『カミワザワンダ』主題歌に。『ENGEIグランドスラム』で新曲「ULTRA TIGER」披露

10月:2ndアルバム「WORLD IS MINE」発売

出典:「PPAP」ピコ太郎急上昇に「PERFECT HUMAN」オリラジはどう対抗する-エキレビ! 

飽きさせず、忘れさせない”という言うのは簡単だが実行しようと思うと至難の業だ。彼らはそれをやってのけたのだ。

さらに11月には、『NHKのど自慢』に出演。『紅白』の“予行演習”ともとれる演出で、印象づけた。

こうしたメディアコントロール以外にもひとつ“勝算”があったと中田は言う。

それは「PERFECT HUMAN」という楽曲自体が「全方位型」だからだ。

この曲は音楽的に言えばEDMの文脈に沿った曲である。EDMはクラブなどでよくかかり盛り上がるダンスミュージックだ。

彼の分析では、日本のJ-POPでEDMを取り入れているヒット曲の多くはEDMパートとヴォーカルパートが分離し、ヴォーカルパートがバラード調で「クラブではかけにくい」という弱点があるという。

しかし、「PERFECT HUMAN」は違う。EDMパートとヴォーカルパートの分離もなく、すべてアップテンポで乗りやすい。そのためクラブでかけやすいのだ。特にDJにとって一曲はみんなが知ってるネタモノが欲しい。その需要に見事にハマるのだ。

また「カラオケ」でも歌いやすい。サビの部分に歌詞がないというEDMの常識を覆しているからだ。サビに歌詞がないとJ-POPの文脈上、カラオケでは盛り上がりにくい。「N.A.K.A.T.A!N.A.K.A.T.A!」とみんなで盛り上がれるこの曲はその需要も満たしているという。

さらに放課後や休み時間にも使える。なぜなら振付が簡単だからだ。「フライングマン」(身をかがめて足踏みし、羽のように手を後ろにかざすポーズ)と振り向いて首を曲げるだけでなんとなく「PERFECT HUMAN」になることができる。「ラッスンゴレライ」のようにネタをちゃんと覚えないとできないという負担の重さもない。複数人ででき、人数も問わないなんとなく黒い服を着ればいいだけ。すべて手近で揃えられる衣装だ。あえてそうしたのだと中田は言う。

その結果、簡単に「踊ってみた」「完コピ」等と言って、SNSや動画サイトなどにあげることができてしまうのだ。

加えて宴会などの「乾杯」にも使える。主役の名前を連呼し、主役の人は「I'm a PERFECT HUMAN」と首を曲げるだけで盛り上がる。主役の人にほとんど労力がいらない。画期的な宴会芸だ。

「クラブ」「カラオケ」「動画サイト」「宴会」……。

流行の発信地のほとんどに合致しているのだ。

かつて「武勇伝」でブレイクした時は「大学生の宴会芸」などと揶揄されていたオリエンタルラジオ。

そんな彼らが10年のキャリアの集大成として生んだ芸は「究極の宴会芸」だったのだ。

ネタ番組が限られている現状で、漫才やコントにこだわらずにお笑い芸人として世間にカウンターを浴びせる手段を考えぬいた彼らの最終兵器が「PERFECT HUMAN」なのだ。

「俺たちはそういうものを作りたかった」と中田は言う。

1年間、みんながただただ楽しんでもらえるものを」

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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