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ノルウェー男性閣僚2人が家族との時間を優先して同時に辞任

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
米国の病院で働く妻についていくことを決心した大臣 Photo:A Abumi

ノルウェーの大臣が2人辞任することが、今週発表された。

「進歩党」出身の両大臣の辞任は突然のもので、現地では驚きをもって迎え入れられた。31日、首相は、入れ替わりとなった新しい閣僚3人を王室前で初公開した。

今回、妻のキャリアのために辞任するヒェーティル・ソールヴィーク=オルセン元運輸・通信大臣には、かつて直接インタビューしている。

新しく石油・エネルギー大臣となったヒョル・べルゲ・フィエールバルグ氏にも、インタビューをしたことがある。

ソールバルグ首相率いる保守党と、連立する進歩党。

進歩党は自分らをリベラル政党として名乗っているが、ノルウェーでは右翼ポピュリスト政党の位置にあたり、日本や他国では厳しい移民・難民政策をもつ「極右」として紹介されやすい。

進歩党の総会にて、右側が女性党首であるイェンセン財務大臣 Photo: Asaki Abumi
進歩党の総会にて、右側が女性党首であるイェンセン財務大臣 Photo: Asaki Abumi

平等政策においては、右翼・左翼はあまり関係なく、多くの党は、女性・若者・移民背景・LGBTIを背景に持つ人の声を、積極的に政界に反映させようとしている。

進歩党は、北欧が好むクオーター制などには反対している。

ノルウェーでは、おおざっぱに説明すると、左翼は「政治などが強制的に介入して、男女平等がなされる」と考え、右翼は「政治など他者が介入しなくとも、優秀な女性は自発的にキャリアを積める」と考える傾向がある。

進歩党では、党内の幹部には男性がいまだに多いことが、国内では批判されることもある。それでも、党首(現在の財務大臣)は女性など、他国からみると北欧らしい政党の側面を持つ。

ノルウェーでも、政治家になると家庭優先が難しい?SNSで批判にさらされる家族

ノルウェーでは、政治家という仕事は、国のために何かしたいという高い理想と、政治が好きだという思いがなければ、続けることは難しい。

高い給料が欲しければ、大臣になれる能力のある人であれば、民間企業に勤めてもよいだろう。有名な政治家にはならないほうが、家族との時間もゆっくりと取れ、批判報道やネットでのヘイトスピーチや嫌がらせにさらされることもない。

ネットが普及した今、政治家でいることには、本人とその家族には、よりタフなメンタルが必要とされる。物議をかもす発言をする政治家の子どもが、「いじめられないように」という配慮で、現地メディアは家族の報道には気を遣う。

SNSでの嫌がらせにより、特に若い女性や移民背景がある人は、公の場で社会議論をしたがらない。

妻のキャリアを優先するのが当然と考えた運輸大臣

ヒェーティル・ソールヴィーク=オルセン運輸・通信大臣が、妻のキャリアを優先して辞任することは、日本では大きなニュースになったようだ。

党の総会でスピーチをするオルセン氏 Photo: Asaki Abumi
党の総会でスピーチをするオルセン氏 Photo: Asaki Abumi

これまで政治家である夫のために自分の時間を犠牲にしてきたという妻。米国で1年間、大きな病院で医師として働くチャンスを得た妻に、今回は夫がついていくこととなった。

同氏は進歩党の優秀な幹部で、副党首でもある。

気候変動・環境問題や高い納税制度で、ガソリンやディーゼル車の運転手に風当たりが強くなるノルウェー。進歩党は、「車の運転手の味方」として、有権者に語り掛けてきた。

副党首としてのポジションは続け、帰国したら国会にカムバックしたいという意思を表している。

家族との時間を大切にしたくなった石油大臣

ソーヴィクネス石油大臣 Photo:Asaki Abumi
ソーヴィクネス石油大臣 Photo:Asaki Abumi

ノルウェーでは、タリエ・ソーヴィクネス石油・エネルギー大臣(進歩党)も同じくらいに現地では大きな注目を集めていた。

彼が大臣の座をあきらめる理由、それは、「あの少女との性行為事件が原因では?」と、現地の人なら思うからだ。

2000年、進歩党のプリンスとして、当時は31歳の人気政治家・党の副党首であったソーヴィクネス氏。同党青年部の集まりで、泥酔していた党員と性行為をした。女性は当時16歳だった。別の言葉でいえば、レイプともなる。

今年1月の内閣改造発表で、笑顔を見せていた石油大臣 Photo:Asaki Abumi
今年1月の内閣改造発表で、笑顔を見せていた石油大臣 Photo:Asaki Abumi

同氏が石油大臣になった時は、「そのような人物を、大臣という権力者にさせることはいかがなものか」と、報道陣から首相に対して批判もあがった。こういう時の首相の言い分は、「人間にはやり直すチャンスを与えるべき」、だ。

しかし、MeTooの波がノルウェーに押し寄せてきて、女性が初めて、公に当時のことを口にし始めた。

女性側は今になって裁判沙汰にしたいともしており、そうなった場合、ソーヴィクネス氏や、当時、事件に蓋をしようとした党に再び批判が集まるだろう。

ソーヴィクネス氏の家族や身の回りの人にも、一般市民から嫌がらせがあったとしてもおかしくはない状況。

大臣をやめて、14歳・11歳の子どもとの時間を優先し、地方での人気だった市長職に戻りたいという思いが浮かんだとしても、不思議ではない。

大臣を正式に辞任すると知った家族は、泣いて喜んだという。

昔の出来事は終わったことだと、甘く予想していたのではないか。MeTooの影響がこれほどまでとは、本人は思わなかったのではないか。現地の政治記者たちは、そうコメントしている。

自分にとって大事なものは?

閣僚になれば、家族との時間が減るだろうことは、だれもが予想できる。

「それでも」と、ノルウェーの人々は閣僚になるが、実際に、権力者として、自分たちが支払わなければいけない代償を体感すると、家族の元に戻る人もいる。

先日は、漁業大臣だった進歩党の副党首、サンドバルグ氏も辞任したばかり。後に、「私は、閣僚としてのポジションと、彼女との恋愛のどちらかを選ばなければいけなかった」と語った。

Photo&Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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