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抗議の声が強まるノルウェー北部油田開発 意見対立でも、みんなで話し合おうという姿勢

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
油田開発が物議を醸すロフォーテン Photo: Asaki Abumi

8月前半、ノルウェー北部のロフォーテン諸島では、政治家や市民たちが油田開発と環境について激しい議論を繰り広げていた。

北部油田開発においては地元市民からの抗議の声が強まっており、「LoVeSe」がキーワードとなり議論が続いている。

LoVeSeとは、複数の大政党が油田開発を承認したい、北部3か所の頭文字をとった言葉だ。ロフォーテン(Lofoten)、べステローレン(Vesteralen)、セーニャ(Senja )の地域を示す。美しい自然と漁業で栄えた地域だ。

ノルウェー最大規模の環境青年団体「自然と青年」は、ロフォーテンで夏合宿を行っていた。各政党や地元を巻き込み、各地で政策議論を起こしていた。

ノルウェーには環境政策に熱心な小政党がいくつもある。党の代表を招き、考えを聞く
ノルウェーには環境政策に熱心な小政党がいくつもある。党の代表を招き、考えを聞く
「自然と青年」団体からは将来の政治家の卵もいる
「自然と青年」団体からは将来の政治家の卵もいる

スヴォルヴァール町では市民と一緒にイベントを開催。政策議論が主だったが重々しい雰囲気はなく、まるで祭りのように賑やかなマーケットとなっていた。

ノルウェーでの選挙期間は、「まるで祭りのようだ」と筆者はよく思う。

ロフォーテン諸島にあるスヴォルヴァール町、漁業が盛んな海の町だ
ロフォーテン諸島にあるスヴォルヴァール町、漁業が盛んな海の町だ
気候変動問題を気にかける高齢者の環境団体も応援に駆け付ける
気候変動問題を気にかける高齢者の環境団体も応援に駆け付ける

目玉イベントは各政党の代表を招いての政党議論。

しかし、油田開発に積極的な大政党である労働党・進歩党・保守党はしぶしぶ参加していた。当初は参加を断っていたそうだが、国営放送局NRKがそのことをニュースとして報道し、議論から逃げることを許されなかった。

各政党からの代表が集まり、北部の油田開発について激しく議論
各政党からの代表が集まり、北部の油田開発について激しく議論

北部での油田開発においては、左派・右派ではなく、油田開発賛成派の「大政党」と、反対派の「小政党」という分け方のほうが理解がしやすい。

この日の議論でも、タッグを組んだ小政党から、大政党への批判が後を絶たなかった。

赤党

「どこかの政党は、世界はノルウェーの油田が必要としているといっている。違う。世界が必要としているのは、クリーンなエネルギー。ノルウェーの油田は地球を汚す。世界で最も裕福な国が油田を諦められないというなら、どこの国も方向転換はできない」。

左派社会党

「私たちは大政党と連合を組むとき、妥協をしない。妥協をしてしまったら、自然の未来を油田会社の社長にゆだねることになる。ここから離れた南部のオフィスの椅子に座って、国の未来を短期的に、利益だけしか考えないあの人が」。

中央党

「労働党とは妥協しない。LoVeSe地域で油田開発はされない。私たちは絶対に受け入れない」。

大人の政治家の声を聞く若者と住民たち
大人の政治家の声を聞く若者と住民たち

自由党

「私たちは漁業でずっと暮らしていくことになる。巨大なオイル業界が大政党に圧力をかけ、国民の意見を反映しているのは小政党。これは環境の問題だけではない。民主主義の行方がかかっている。石油ほど多くの収入を出す産業はないかもしれない。それでも、私たちは新しい未来をつくり、解決策を探していく。後戻りはしない。魚たちを守るのは、小政党」。

緑の環境党

「気候変動懐疑派といえば、これまで進歩党が代表していたが、新しい定義を見出した。大政党と彼らを指示する人々は、全員が気候変動懐疑派だ!」。

漁業の未来を心配する漁師

会場で筆者の隣にたまたま座っていたのは、地元市民で1976年から漁師をしているというアルフェルゲ・アーヴェスさん。

「油田なんて欲しくないよ!狂っている」と魚の生態系を心配していた。1か月後の国政選挙でまだどこに投票するかは決めていないが、大政党にはならないだろうと話す。

漁師のアーヴェスさんは油田開発に反対だ
漁師のアーヴェスさんは油田開発に反対だ

油田開発に問題はない、反対派は夢の国に住んでいる

議論の場で、市民から最も大きなブーイングを浴びていたのは、大政党の3党だった。

進歩党で北部ヌールラン県の第一候補者であるヒョルべルゲ・フィエールバルグさんは取材でこう語る。

進歩党のスタンドで住民に政策を説明するフィエールバルグさん
進歩党のスタンドで住民に政策を説明するフィエールバルグさん

「自然、魚、観光業の未来に心配はない。我々は油田開発を早急に始めたい。今すぐに!」。

「このイベントは環境青年団体が主催だが、夢の国に住んでいる若者たちだ。石油業界が主催してくれていたら、もっと現実的な議論ができただろう」と語る。

意見対立は人々が政治に熱心な証拠だから、それはいいことだ

25年間政治家をしているが、北部で油田開発に賛成する進歩党の党員でいると、道端で市民から厳しい意見を浴びせられることもあるという。

「ここは北部だしね。北部の人間は思ったことをまっすぐに口にする。意見が違っていても、人々が政治に熱心なのはいいことだ」と話した。

ノルウェーでは政治を語る時、例え意見が違っても、互いの声に耳を傾けようとする傾向が強い。

中央党のスタンドでも、3人の党員が、「党の中でも油田開発については意見が分かれるよ。党員たちと、リーダーのグループでは意見が違うこともある。まぁ、それが民主主義だから、いろいろな意見があるのはいいんだよ」と話していた。

地方の農家からの指示が強い中央党
地方の農家からの指示が強い中央党

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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