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フードアナリスト=食の専門家が「おすすめください」にダメ出しで物議! 飲食店ではスタッフに訊けない?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「おすすめをください」の是非

飲食店に訪れた際に、何をオーダーしようか迷うことはあるかと思います。その際、スタッフに“おすすめをください”と伝えることはありますか。

Threadsで、スタッフへのおすすめに関する興味深いポストがありました。

新潟で食べ歩きをしているというフードアナリストの方による以下の投稿です。

飲食店やバーで、客の「おすすめください」は困る、という投稿をたびたび見ますが、
店側はその客が常連でない限り、好みがわからないわけで。おすすめされたものが好みじゃなくても、こういうおいしさもあるんだ、と寛大な心で受け止めるのであればいいけど、そうじゃなくて客側の好み通りのものを提供してもらうには、その客が詳しく話すしかないわけですけど、その客に味について語彙力がないと聞きようがないですよね。
かといって何も店側が客に食の専門知識で話せ、と言ってるわけでもないと思うのですが。一見でおすすめを訊くのはその店に少し慣れてからの方がいいと思います。訪問しょっぱなから聞くのは避けたほうが良いかと思います。

店は常連でない限り、客の好みがわからず、おすすめの提供が難しいと指摘。客の味については語彙力がないと聞きようがないので、慣れてからの方がよく、最初から尋ねるのは避けるべきだと述べていました。

ちなみに、フードアナリストとは、一般社団法人日本フードアナリスト協会が認定した食の情報と情報発信の専門家になります。

また「飲食店やバー」という表現がありますが、一般的に参照される総務省の日本標準産業分類からすると、この区分けは適切ではありません。「中分類76 飲食店」という分類の中に「761 食堂、レストラン(専門料理店を除く)」や「766 バー、キャバレー、ナイトクラブ」があるので、バーは飲食店になります。

プロからの意見も

フードアナリストの方による主張は物議を醸しており、やや反対派が多い印象です。反応の中には、次のような、ずっとレストランでサービスや調理を務めていたというプロフェッショナルな方からの意見もありました。

プロ目線で言うとオススメのご要望に対応出来ないのはレベルが低いなとしか…
食事であれば営業前ミーティングで普通は共有するし、ミーティング無しなら個の力で上手くやるべき。
酒であれば何杯飲むか?普段どんなの飲むか?などヒヤリングすれば良いだけの話。こだわりを持つのも良いけどその前に基礎能力高めないといけません。

おすすめの要望に応えられないのは、プロからみればスタッフのレベルが低いということです。わからないのであれば、客にヒアリングするべきであり、基礎能力を高める必要があると断じています。

食体験とは

客が飲食店に訪れたときに得られる食体験は主に、食事やドリンクのおいしさ、空間の快適さ、サービスの素晴らしさがあります。サービスは、単に配膳したり下膳したりすればよいだけではありません。スタッフとのコミュニケーションも多分に含まれています。

飲食店、それも、高級なファインダイニングを訪問した際には、緊張からリラックスへのゆるやかな転換が必須。最初は期待感が高いので緊張しますが、スタッフとの軽妙な会話も堪能しながら、料理の妙妙たる味わいを賞玩し、趣旨を凝らしたお酒を嗜み、だんだんと緊張感がほどけ、リラックスしていきます。そして、会計を済ませて退店する頃には、お腹も心も満たされ、店主をはじめとしてスタッフとも打ち解け合い、次の予約もとったりして、見送られて家路へと向かうものです。

最初の緊張感と最後のリラックスのギャップが大きければ大きいほど、印象深い食体験として銘記されます。それもそのはずで、もしも、最初から最後まで緊張が続いたのであれば、楽しくないのでもう2度と訪れたくないでしょう。反対に、最初から最後までリラックスしていたのであれば、ワクワク感や刺激がないのでファミリーレストランで十分です。高いお金を支払ってまで高級店に訪れる理由が見い出せません。

そして、緊張からリラックスへのギャップを生み出すためには、スタッフとのコミュニケーションが大きな役割を果たします。

スタッフのサービス

飲食店のサービススタッフが行うことは次の通りです。

開店準備、電話やインターネットでの予約管理、客の出迎えと案内、注文の応対、料理やドリンクの配膳と下膳、会計業務、掃除、閉店作業など、客が快適に過ごせるように業務を遂行します。

ただ、客が快適に過ごせるようにするのは、ファストフードなどのチェーン店でも心がけていることです。ファインダイニングをはじめとしたレストランであれば、快適に過ごせるようにするだけではなく、より付加価値のあるサービスを提供しなければなりません。

楽しく過ごせるようにするのは当然のことで、知的好奇心の充足も必要です。料理やお酒がただおいしかったというだけではなく、これまで知らなかった味や知識を得られると、忘れられない食体験へと昇華されます。

知的好奇心を満足させるには、コミュニケーションは絶対に必要です。

よくあるクレームとして、常連客にだけ親切に応対したり、話しかけたりして、初めての客にはつれないというものがあります。これはひとえにコミュニケーションの不足に起因しているのです。

おすすめ応対の意義

ここまで述べてきたことを考えると、客からの質問=コミュニケーションを断絶するのは、好ましいことではありません。一方的で理不尽なクレームであれば、対話を突っぱねたり、いなしたりするのは理解できます。

しかし、スタッフを信頼して決めてもらいたがっているのに、あえて拒否するのは、最初から客に満足してもらうことを放棄しているようなもの。細かい条件が課されているのであれば、要望に応えるのは難しいかもしれません。しかし、そうでなければ、スタッフが一番自信をもって勧められるもの、その客にとって最も満足してもらえそうなものを、提示すればよいだけです。

重要なことは、スタッフがその客に対して、どれだけ真摯に向き合い、考えているかです。料理の食味やワインのペアリングと同じように、おすすめとして挙げるものに正解はありません。

こういったスタッフとのコミュニケーションも含めて、客は飲食店の食体験を楽しんでいるのです。ほとんどのスタッフは、基本的には頼られること、提案できることに喜びを感じています。

したがって、飲食店に訪れたのであれば、遠慮なくおすすめを訊いていただくのがよいと思う次第です。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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