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AIの投資額は米の1.5%、日本がG7で6位に甘んじる現状とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
AI投資額、日本はG7で6位(Bing Image Creatorで筆者作成)

日本のAI投資額は米国の1.5%、AIランキングはG7(主要7カ国)の中で6位――。

競争が激化するAI開発だが、「AI覇権」をめぐるプレーヤーは米国、そして中国だ。では日本の位置は?

スタンフォード大学が公開した最新レポートによると、世界のAIランキングで、日本のAI投資額は米中に比べて2桁少なく14位、G7で見ても6位に甘んじている。

この傾向は今に始まったことではないようだ。

過去10年の投資額の合計を見ると、日本の金額は、英国の1年分にも及ばない。

生成AIの利活用を掲げる、日本の現状とは?

●米中の「AI覇権」

AI民間投資の総額では、米国が世界をリードしている。2022年、米国の投資額は474億ドル。これに次ぐ中国(134億ドル)の約3.5倍に相当する。また、新たに投資されたAI企業の総数でも米国は引き続きトップで、EUと英国を合わせた数の1.9倍、中国の3.4倍と見られる。

スタンフォード大学の「人間中心のAI研究所(HAI)」は、4月3日に公開した386ページに上る「AIインデックスレポート2023」の中で、そう述べている。

同研究所は2019年に、スタンフォードAI研究所所長やグーグルのチーフサイエンティストなどを歴任したフェイフェイ・リー氏と同大元副学長のジョン・エチェメンディ氏が共同所長となって設立された

レポートはそれ以前の2017年から継続的に公開され、今回が6回目となる。

世界的なAI開発の現状から政策動向まで、幅広く網羅したレポートの中で、際立つのは米中の存在感だ。

●米国の投資額、中国の3.5倍

2022年のAI分野への世界の民間投資額は、918億6,000万ドル。2013年と比べると18倍の伸びとなるが、前年の1,253億6,000万ドルからは26.7%減。この10年で初の前年比減となった。

2022年の民間投資額で、圧倒的な首位に立つのは米国で、473.6億ドル。2位の中国の134.1億ドルに大きく先行する。

以下10位まで、英国(43.7億ドル)、イスラエル(32.4億ドル)、インド(同)、韓国(31億ドル)、ドイツ(23.5億ドル)、カナダ(18.3億ドル)、フランス(17.7億ドル)、アルゼンチン(15.2億ドル)と続く。

10位以下はどうか。

11位がオーストラリア(13.6億ドル)、12位がシンガポール(11.3億ドル)、13位がスイス(10.4億ドル)。

そして日本は7.2億ドル、14位に名前が出てくる。

米中と比べて金額は2桁少なく、米国の1.5%、中国の4.5%の投資額となる。G7で見るとフランスに次ぐ6位。金額ではフランスの半分にも満たない。

●10年の積み重ね

これは2022年だけの話ではない。

同研究所は、2013年から2022年までの10年間の各国のAI投資額の合計もまとめている。

それによると、首位の米国は2,489億ドル、2位の中国は米国の4割弱の951.1億ドル。

以下10位まで、英国(182.4億ドル)、イスラエル(108.3億ドル)、カナダ(88.3億ドル)、インド(77.3億ドル)、ドイツ(69.9億ドル)、フランス(65.9億ドル)、韓国(55.7億ドル)、シンガポール(47.2億ドル)となる。

日本は11位で39.9億ドル。その額は、英国の2022年1年間の投資額43.7億ドルにも及ばない。

ただ、2022年に新規に投資を受けた企業数を見ると、米国が542社、中国が160社で、以下、英国99社、イスラエル75社、インド57社、カナダ47社、フランス44社、ドイツ41社、シンガポール36社と続くが、日本が32社で10位に入っている。

●論文数では首位の中国

研究成果である論文数ではどうか。

AI関連の学術誌の論文数は、2010年から2021年にかけて一貫して中国が首位を独走する。

2021年では中国の論文が全体の39.78%を占めた。次いでEUと英国が合わせて15.05%、米国が10.03%、インドが5.56%だった。

主要な機械学習(ML)システムの国別ランキングも示されている。

ここでも米国が16件で首位。以下、英国の8件、中国の3件、カナダとドイツが各2件、フランス、インド、イスラエル、ロシア、シンガポールが各1件。

主要機械学習システムの開発者の数で見ても、やはり米国が首位で285人。

これに英国の139人、中国の49人、カナダの21人、イスラエルの13人が続く。

現在のAIをめぐる世界的な潮流の中心にあるのは、チャットGPTを含む生成AIだ。

チャットGPTのように、文章や画像生成などを扱う大規模言語モデル(LLM)・マルチモーダルモデルの開発者数もまとめている。

ここでも米国が54.02%と圧倒的な首位を占める。

これに英国の21.88%、中国の8.04%、カナダの6.25%、イスラエルの5.80%、ドイツの3.12%が続く。

●英国の調査でも

AIをめぐるランキングは、スタンフォード大のほかにもまとめられている。

英メディア「トータス・メディア」が2021年に公開した「グローバルAIインデックス」 は世界62カ国を対象に、人材、インフラ、運用環境、研究、開発、政府戦略、ビジネスの7分野143の指標でランキングを行っている。

それによると、やはり首位は総合評価100の米国だ。

以下、中国(62.92)、英国(40.93)、カナダ(40.19)、イスラエル(39.89)、シンガポール(38.67)、韓国(38.60)、オランダ(36.35)、ドイツ(36.04)、フランス(34.42)までがトップ10の国々となっている。

このランキングは総合評価だが、個別分野のランキングも見ることができる。

米国は人材、研究、開発、ビジネスで1位。インフラは4位、運用環境は35位、政府戦略は17位だ。

中国はインフラが1位のほか、研究、開発、政府戦略、ビジネスで2位につけている。人材は24位、運用環境は6位だ。

日本は総合評価が30.53で16位だった。

分野別の順位では、人材26位、インフラ7位、運用環境48位、研究19位、開発5位、政府戦略21位、ビジネス12位、という結果だった。

●日本の課題

世界的にAIをめぐる競争環境が激化する中で、日本の置かれた位置や存在感は、かなり心もとない。

このギャップにどう向き合うかが、日本の課題となる。

(※2023年5月22日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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