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今の「アイドル」のイメージってなんだろう――空野青空に聞く北陸と東京のアイドル・シーン

宗像明将音楽評論家
空野青空(筆者撮影)

 富山県在住のソロ・アイドルである「あおにゃん」こと空野青空が、ニュー・シングル「My name is IDOL」をリリースした。

 東京でも活発にライヴをしている空野青空だが、2018年11月11日には彼女の22歳の生誕祭が石川県小松市で開催された。そのイベントに私はMCとして招かれ、初めて空野青空の地元である北陸のアイドル・シーンを体験することができた。

 空野青空が活動する北陸や東京、そしてニュー・シングル「My name is IDOL」の収録曲について、マネージャーの「大佐」もまじえて話を聞いた。

リリースと確定申告がかぶるとつらい

――ソロ・アイドルとして活動していますが、タレント活動も多いですよね。HAB(北陸朝日放送)のCMや百万石でんきのオフィシャルアンバサダーとか。

空野青空  たしかに北陸に帰るとそういうお仕事をして、また東京にライヴ活動をしに来るっていうことが多いですね。

――HABって地上波で見られるんですか?

空野青空  見られます。

――そうなるとHABのある石川県では、空野青空さんを知っている人が多い?

空野青空  そうなんです!

大佐  富山でもケーブルテレビが入っているお宅は見られるんですよ。富山はけっこう普及率が高くて。

――石川県や富山県で知名度が上がった感覚はありますか?

空野青空  そこまで明確には感じないんですけど、見てくれた人がいたり、ツイートを見たりすると「ありがたき」って思います。

――北陸の街を歩いていて声をかけられることはあるんですか?

空野青空  北陸の街、歩かないんですよね。北陸に帰ると、だいたい引きこもるっていう選択肢しかなくって(笑)。お仕事でライヴがあったら、気合いを入れて出撃するんですけど。でも、ふだんはできるだけ人が少ない時間を見計らってショッピングセンターとかに行くんですよ。

――ふだんは人を集める仕事をしているのに!

空野青空  そうそう(笑)。

大佐  そもそも「富山のご当地アイドル」というイメージでは活動してないんですよ。

空野青空  そうなんですよ。北陸戦士(北陸のファン)のみんなには、けっこう「かたじけない」って思ってるんですけど。北陸でのイベントが少なくなってきちゃってて。

――東京のレーベルのtoomidolに所属しているから、バランスは難しいですよね。富山県では事務作業をしているイメージもあります。

空野青空  富山に帰ったら、だいたい家に引きこもってるか、事務所で何かしらしてますね。

――事務所で何をしているんですか?

空野青空  だいたいのことをやってます。Adobe Illustratorもいじれば、経理もするし。だから、今の季節は確定申告がリリースにかぶるのがすごいつらいです(笑)。あと、告知もパソコンでカタカタってやってる。

――オフィシャル・インフォメーションのTwitterアカウントも運営しているのは空野青空さんなんですか?

空野青空  いや、あれは「あおにゃっち」(空野青空が描いたキャラクター)がやってます。そう、中の人なんていない!

――わかりました、そっとしておきましょう!

空野青空。旧地下鉄万世橋駅付近(筆者撮影)
空野青空。旧地下鉄万世橋駅付近(筆者撮影)

自分たちが北陸のアイドル・シーンを築いてきたことは間違ってなかった

――2018年11月11日に「空野青空 Lv.22 Birthday Live!! ~にゃんにゃんフェスティバル2018~」で石川県の小松THE MAT’Sに呼んでいただいたときに、「北陸ってこういう感じなんだ」と体感したんです。西金沢少女団のひろかさんが、空野青空さんがいないときに楽屋に来て、「これ誕生日プレゼントです」って、空野青空さんのお母さんに渡そうとしていて、お母さんが「いやいや、青空に直接渡して」って。空野青空さんは北陸でリスペクトされているんだなと思いましたね。

空野青空  そんな、とんでもないですよ。

――北陸のアイドル・シ-ンでは、空野青空さん、まおさん(せのしすたぁ)、ぷにたんさん、オモテカホさんが四天王という印象を受けますね。しかも、北陸にはソロ・アイドルが多い印象があります。

空野青空  今のご時世って、グループ・アイドルがどんどん解散しちゃってるじゃないですか。その中で、まだアイドルをやりたい子がソロ・アイドルの道を選んだり、タレントの道を選んだりするから、そうやってソロ・アイドルって生まれてくるのかなっていう感覚があって。時代の流れというか、悲しいところでもあり、でもまた新しいスタートを切れるんです。

――おやゆびプリンセスの元メンバーが西金沢少女団を作ったりもしていますね。かと思うと富山PRガール(仮)みたいな子どもたちもいて、びっくりしたんですよ。

空野青空  かわいいですよね! あおにゃん自身もグループに入る前って、芸能の世界で輝いてみたかったけど、そのきっかけがまったくなくって。当時アイドル・シーンがそんなに栄えているわけでもなかったから、けっこう苦労したとは思うんですよ。でも、富山PRガール(仮)ちゃんは、ある程度北陸に築かれたアイドル・シーンの中で戦えるじゃないですか。そういうところを見てると、自分たちがアイドル・シーンを築いてきたことが間違ってなかったのかなって思うし。どんどんそういう若い子たちが芸能の世界でいろんなことを学んで輝いていってほしいなって思います。

――いい話すぎて、インタビューをここで打ち切ったほうがいい感じですね。

空野青空  うそ!?(笑) 

――富山の子たちって、何を見てアイドルに憧れるんですかね。テレビの中のアイドルなのか、それとも地元のアイドルなのか。

空野青空  基本的にはテレビの中のアイドルだと思います。あおにゃん自身も「ミュージックステーション」みたいな音楽番組でアイドルが輝いているシーンを見て、「こうなりたいな」とか思ったのが「輝く仕事をしたい」っていうきっかけだったんじゃないかな。

――そのときは誰を見てそう思いましたか?

空野青空  あおにゃんはAKB48さん。まゆゆ(渡辺麻友)が好きでした。

――今では、東京の女の子も空野青空さんのイベントに来るわけじゃないですか。2018年7月22日の空野青空さんのバーベキュー大会では女の子も多かったし、高校生の女の子がふたりも来ていましたよね。どうして来てくれると思いますか?

空野青空  そう、JKが! 素晴らしかったです……!

――それはさておき、なんでそういう子が来ると思います?

空野青空  あおにゃんって「憧れのアイドル像」っていうよりは、オタクとしての要素があるから、オタク同士で親しみやすいじゃないですか? そういう部分のほうが届いてるのかな。自分自身もオタクだから、そこはどんどん出していきたいし、「オタクでもいいんだ、オタクでも輝けるんだ」っていうところをいろんな人に見て知ってほしいです。

空野青空。JR山手線秋葉原駅寄りガード下、ニュー秋葉原センター前(筆者撮影)
空野青空。JR山手線秋葉原駅寄りガード下、ニュー秋葉原センター前(筆者撮影)

精神的に「うっ」となる感覚がわからない

――2018年11月15日に「よゐこのオールナイトニッポンPremium」に出たのはすごいなと思ったんです。Twitterの告知動画でも、濱口優さんに「困るなぁ」と言われてもブレずにキャラをやっていて、素晴らしいなと思ったんです。

空野青空  「ブレない」とか「ハートが強い」みたいな表現をよくされるんですけど、その感覚がわかんなくて。

――わからないんですか?

空野青空  そう。「これをされたら人は『うっ』てなっちゃう」とか、そういう感覚がわかんないんですよ。なんでだろう?

――空野青空さんが大好きな寺嶋由芙さんに「二度と近寄るな」って言われたらどうしますか?

空野青空  真顔で言われたらちょっと「あっ」てなるかもしれないですけど……。

――笑顔で言われたら?

空野青空  ご褒美。

――手に負えませんね! ふだん「うっ」と思うことはないんですか?

空野青空  ないかも。もしかしたらアイドルとして感情にフィルターがかかっているのかな。アイドルとしての自分というものは、自分の中である程度構築されているじゃないですか? それになりきってるのかな。

大佐  いやでも、ふだんからわりと強引なんですよ。あんまり人の影響を受けない。

空野青空  強引ってやめてください! こんなにひかえめなのに……。

――ひかえめなのに自分で言ってますね……。

大佐  「この場はこう行きたい」って自分で思ったら、一直線なんです。我が道を行く。でも、ある程度空気を読んでるとは思うんですよ。

空野青空  やったぁ!

空野青空「My name is IDOL」typeBジャケット
空野青空「My name is IDOL」typeBジャケット

承認欲求がないのはかわいくないのかも

――ニュー・シングル「My name is IDOL」がリリースされましたが、これほどストレートなロック・サウンドは初めてですね。MVでは女子高生になったり。

空野青空  そう、JKになりました!

――今22歳で、女子高生の格好をして学校で撮るというのはどういう気持ちだったんですか?

空野青空  「まだいけるな」って思いました。最近、髪を短くしたんですよ。

――「ボブにゃん」ですね。

空野青空  そう、ボブにゃんになってから「ちょっと若返ったかも」って思って。そもそも年齢を感じたら負けだと思ってるんで。「年齢を感じたら本当にそこから一気に老ける」っていうのを聞いたことがあって、たしかに自分自身もがむしゃらに頑張っているときは全然疲れないけど、「疲れた」って言うと、めっちゃ疲れると思うんです。いつまでも若々しくありたいから、「あおにゃんはずっと元気なままでいるんだ」と思って、Lv.22(22歳)ですが「JKにゃん」にチャレンジしました。

――さっき「フィルターがかかってる」って言っていましたけれど、「キャラクターを作っている」こととは別物なんですか?

空野青空  それとは違うんですよね。だってオフの日のあおにゃんって、あんまり人と会いたくないこともあるし。でも、アイドルモードで「元気になりましょう」ってなったときは、そのままスッといけるし。キャラじゃないですね。

――多重人格ですかね。

空野青空  そう、多重人格。引きこもりのあおにゃんと、アイドルとして輝きたいあおにゃん。そのふたりがいて、喧嘩せずに共存してるんですよ。

――大丈夫ですか、ビリー・ミリガンみたいになりませんか?

空野青空  いやいやいや、いい話ですこれ、いい話! 仲良く共存してる。

――「My name is IDOL」の歌詞では「"I"の証明を」と歌っていて、女の子が自分の居場所を求めているような内容ですね。

空野青空  わりとゴリゴリなアニソンとか、配信限定シングルの「Melty Snow」みたいなトランス系の楽曲ばっかり聴いてたから、バンド・サウンドでこの歌詞が来たときは、どう歌えばいいかがわかんなくって。「自分を認めて」っていう気持ちって、あんまり自分自身になくって。

――ないんですか?

空野青空  そりゃ認めてほしいっちゃほしいけど、「自分が、自分が」じゃなくて「みんなが楽しい」っていうのが好きなんですよ。だから「自分を愛して」っていう気持ちを込めるにはどうすればいいんだってすごい考えました。

――最終的にどうなったんですか?

空野青空  なんかいい感じに!

――話を一気にはしょりましたね!

空野青空  一般的なアイドルちゃんって、「自分を認めてほしい、愛してほしい」っていう気持ちが大きくてアイドル活動をしてる子も多いと思うんですよ。それって全然悪いことじゃなくって、むしろすごいいいことだと思ってて。自分自身、それができないところもちょっと悪いところかなって思ってて。何かかわいくないじゃないですか?

――そういう意味で「My name is IDOL」では、空野青空さんは自分そのものではないキャラクターを演じることに挑戦しているわけですね。東京のアイドルは、中学校で学校に行けなくなって、高校でアイドルになるような子も多いんですよ。そういう子にインタビュー仕事でたくさん出会うんです。

空野青空  そうなんだ、心配!

――他人事になっていますね!

空野青空  でも、あおにゃんも高校中退してからアイドルになりました。もともと中学3年生ぐらいのときに十二指腸潰瘍になっちゃって。そのあとに高校に進学しても体調が最悪で、そういうときに部活動や勉強、クラス委員もやってたりして、すごいつらくなっちゃって「もう無理だ」って行けなくなっちゃったんですよ。

――通信制高校への転入は考えなかったんですか?

空野青空  そうしたかったんですけど、あんまり裕福な家庭じゃなくって。ちょっと病気療養期間があって、そのあとお金を貯めようとしてバイトを始めたんですよ。

――何のバイトだったんですか?

空野青空  カレー屋さんのゴーゴーカレーでバイトしてました。1、2か月ぐらい経ったとき、そこの主婦の人から「オーディションあるけど、そういうの受ければいいのに」って言われて、「じゃあ受けてみようかな」と思ったのがきっかけなんです。

――精神的に病んでいたわけじゃないし、そこはちょっと「My name is IDOL」の歌詞とは違うんですね。

空野青空  そうですね。あおにゃん自身もこの歌詞についてはたぶんずっと考えるだろうなって思います。今の「アイドル」のイメージだと思うし。

空野青空「My name is IDOL」typeAジャケット
空野青空「My name is IDOL」typeAジャケット

空野青空、夢小説について熱弁する

――カップリングの「I SCREAM」は電波ソングっぽい要素があって、空野青空さんのテイストを感じますよね。

空野青空  まさにそう!

――5文字で終わりましたね!

空野青空  歌ってて楽しいのはやっぱり電波ソングだし、楽しい気持ちで歌いたいじゃないですか。

――じゃあ、カップリングの「DOSITE」みたいな明るい楽曲もお気に入り?

空野青空  そう! 「DOSITE」はすごい歌詞がいいんですよ。あおにゃん、夢小説が大好きだったんですよ。

――夢小説って何ですか?

空野青空  ええ、夢小説、知らないんですか!? 好きなアニメとかのキャラクターと一緒に恋愛できる小説のツールがネットにあるんですよ。自分の名前を入力すると、小説の主人公の名前が、全部自分の名前になるんです。「DOSITE」には、キュンとくるような、少女漫画みたいな歌詞がめちゃ出てくるんですよ。もうそのキュンキュン感というか、もどかしい恋模様みたいな雰囲気がかわいすぎて。

――昔自分がそういう恋をしていたとか?

空野青空  実は中学時代にあおにゃんがすごい好きだった人、「イナズマイレブン」に出てくる豪炎寺修也君っていう人なんです。

――キャラですか!

空野青空  小説内でいろんな恋をしてきたんですよ。それを思いだして歌いました。

――そんなシングル「My name is IDOL」は、ローカル色はないですよね。空野青空さんが考える今後の活動の方向性はどんなものでしょうか?

空野青空  ローカルも大事だと思うんですけど、いろんなところで活動できたらなって思うんです。別に東京でいっぱいイベントがあったとしても、北陸はもちろん、いろんな地方にも行きたいし、それぞれの土地の戦士の人たちに会いたいっていう気持ちは揺らがないですね。

空野青空。ソフマップAKIBA4号店アミューズメント館前(筆者撮影)
空野青空。ソフマップAKIBA4号店アミューズメント館前(筆者撮影)
音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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