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W杯に向けて新たなオプション導入へ。3バックでナイジェリアに2-0勝利!

松原渓スポーツジャーナリスト
3バックでナイジェリアに快勝した

 9カ月後のW杯に向けて、なでしこジャパンのチーム作りは第二章へ突入した。

 池田太監督体制になってから、国内では初となる国際親善試合をノエビアスタジアム神戸で実施。これまでは4-4-2や4-2-3-1のどちらかがメインだったが、新たに3-4-3のシステムを試し、ナイジェリアに2-0で勝利した。

 初招集選手もいる中で、ポジションの適性や組み合わせも含め、選択肢を増やすための新たな試みだ。池田監督が8月まで率いていたU-20代表は一足先に3バックを取り入れ、準優勝を飾った。

 池田監督は、「W杯に向けて(3バックに)トライしようという計画があり、タイミング的にU-20W杯があったので(先に)トライした」と明かした。長く温めてきたシステムを、新戦力と海外組が合流したこの試合でチャレンジした形だ。

 とはいえ、代表の活動期間は限られている。3バックに挑戦することがチームに告げられてからの準備期間はわずか3日。その短さも影響してか、前半はボールの奪いどころが曖昧で、攻撃に転じても、パスの出しどころを探る場面が目についた。

 その中で、MF宮澤ひなたのミドルシュートやFW田中美南の抜け出しなどの見せ場を作ったが、スコアには至らず。前半アディショナルタイムには、MFヌゴジ・オコビオケオゲネのフリーキックがクロスバーを叩き、間一髪、ピンチを切り抜けた。

 後半は交代によって攻守を活性化しつつ、選手間でコミュニケーションを図って修正し、新システムへの順応を見せた。

 そして、先制点は64分。ペナルティアーク手前でMF杉田妃和が倒され、フリーキックを獲得。MF猶本光のキックに、FW田中美南が「打ち合わせ通りだった」と絶妙の動き出しで応え、胸トラップから左隅に流し込んだ。

ホームで池田ジャパン初ゴールを決めた田中
ホームで池田ジャパン初ゴールを決めた田中写真:森田直樹/アフロスポーツ

 さらに、その4分後には、田中のスルーパスを受けようとした杉田がペナルティエリア内で倒されPKを獲得。これも田中が落ち着いて決めて2-0とした。

 終盤には、U-20W杯準優勝メンバーのFW浜野まいかとMF藤野あおばが代表初出場を果たす。積極的な守備やシュートで貢献し、ナイジェリアの反撃を退けた。池田監督は、3バックへの初挑戦で見えた課題と収穫をこう振り返っている。

「ボールを奪うところはもっと思い切ってやれる部分もあったと思いますが、時間が経つにつれて、相手との駆け引きの中で(感覚を)掴んだ選手もいたと感じました」

池田太監督
池田太監督写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 ナイジェリアは、来年のW杯にも出場するアフリカの強豪だ。ただしこの試合は、本調子には程遠かった。ランディー・ウォルドラム監督は日本への賞賛を述べた後、ベストを尽くせなかった悔しさと申し訳なさを言葉に滲ませた。

「試合の2日前に8人の選手が到着して、その夕方に4人が到着しました。前日練習の時点で12人しか揃っていなくて、その夜に6人が着きました。日本のような素晴らしいチームと対戦するのに、長距離移動の後で24時間の休憩をとる時間すらなく、理想的とは言えませんでした」

 試合の日程は3カ月以上前に決まっていただけに、コンディションと向き合う方法はもっとあったのではないか?という疑問は残る。ただそのような状況でもスピードやドリブルには脅威を感じた。本番でさらに手強い相手になることは間違いない。

【3バックで見えた可能性】

 平日の夕方(キックオフは16:25)に実施された試合だったこともあってか、観客は1,671名と寂しい数字だった。慣れた4バックを使えば、多彩な攻撃やさらなるゴールも期待できただろう。

 ただし、今必要なのは目の前の数字ではなく、W杯から逆算したチームの強化。今回のチャレンジを皮切りに3バックのオプションを自分たちのものにできれば、チャレンジは成功だったと言える。

 1年2カ月ぶりの代表復帰となったDF北村菜々美は、「新しいシステムで混乱することもありましたが、試合の中で修正していくことができました」と、好感触を得ていた。

東京五輪以来の招集となった北村
東京五輪以来の招集となった北村写真:西村尚己/アフロスポーツ

 3トップの一角で出場し2ゴールに絡んだ杉田が課題として挙げたのは、試合の入り方だ。「前半は動きがリアクションになっているところがありました。もっとしっかり入らないと、相手が格上になった時に取り返しのつかないことになると思います」。一方、3バックのシステムについては、サイドと中で流動的に動いてコンビネーションを生み出せる良さも感じたという。

 自陣からのビルドアップやフィニッシュに至る崩しの質は、当たり前だが、4バックに比べてまだぎこちない。ただし、3バックの方が個々の特徴を引き出しやすくなるケースもあるだろう。

 たとえば、所属のバイエルンで3バックの左でもプレーしているDF熊谷紗希は、左サイドでビルドアップに関わるシーンを何度か見せた。攻撃参加も、熊谷の大きな魅力だ。

「いつもより高い位置でボールを持てるところがあるので、4バックのセンターとはまた違った楽しみがあります。斜めのパスなどを差し込める場面を増やしたいと思っていますし、相手を見ながら、ボールを持ち出すプレーも数多く出せたらいいなと思います」(熊谷)

バイエルンでは攻撃参加でゴールも決めている熊谷
バイエルンでは攻撃参加でゴールも決めている熊谷写真:REX/アフロ

 また、所属するINAC神戸で今回と同じ3バックの中央をやっているDF三宅史織や、東京NBでは複数ポジションでプレーしている北村も、違和感なくプレーしていた。これまで左サイドバックが本職の選手はDF宮川麻都だけだったが、北村も同ポジションでプレーできる。宮川と同じく池田監督が率いた2018年U-20W杯優勝世代の一人で、候補に定着する可能性がある。

 そして、田中、杉田、宮澤の3トップが織りなす変化に富んだ動きにも面白さを感じた。一人ひとりのプレーエリアが広く、それぞれの強さや速さがよく出ていた。それは、所属チームのポジションに近い位置でプレーしたことも大きいだろう。

「普段やっているポジションで、慣れている感覚がありますし、駆け引きや、ボールへの関わり方などでも自分の良さが出しやすかったです」(宮澤)

 田中は、昨年10月の新体制発足後、初ゴールとなった。「なかなか期待に応えられず不甲斐ない気持ちだったので、ホームで決められて嬉しいです!」と、溜めていた喜びを爆発させた。

 取り組んできたクロスからの攻撃や、崩してシュートまで持ち込むシーンは少なかったが、セットプレーという打開策を示せたことは大きな収穫だ。セットプレーはトレーニングでも時間をかけている部分で、成果が出始めている。

 試合中の修正力や個の躍動、セットプレーと、さまざまな可能性を示した3バックへのチャレンジ。会場を神戸から長野に移し、中2日で迎える9日のニュージーランド戦では、どのような変化が見られるだろうか。

 試合は長野Uスタジアムで14:55キックオフ。日本テレビ系で生中継される予定だ。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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