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ブスケッツの代わりはいるのか?バルサが進むべき「正しい道」

小宮良之スポーツライター・小説家
左がブスケッツ、右がニコ(写真:ロイター/アフロ)

 セルヒオ・ブスケッツの代わりはいるのか?

「いない」

 簡潔にそう答えられるだろう。

 ブスケッツは不世出のMFである。世界史上最高のプレーメーカーで、技術とビジョンの高いレベルの融合により、独特のリズムのパスを用いて、正確に時を刻みながら、次々にプレーを広げられた。ボールを奪われないことで、周りが信じてポジションを取れるし、それだけで優位性を出せる、また、ボールを連携して奪い、攻守切り替えの起点となることもできた。サッカーが発展する中、一つの完成形MFだった。

 しかし、ブスケッツと共に栄冠に浴したFCバルセロナは、否応なしに「ブスケッツがいない時代」と向き合うことになる。

ブスケッツの後釜

 ブスケッツが契約満了で退団したバルサは、マンチェスター・シティからドイツ代表MFイルカイ・ギュンドアンを補強している。

 ギュンドアンは欧州王者になったチームで、攻守の車輪になっていた。クレバーな攻守が特徴で、周りとの調和に優れ、ゴールも計算できる。トップクラスのMFだろう。

 しかし、ブスケッツとは似ても似つかない。

 クラブは、レアル・ソシエダのマルティン・スビメンディ、インテル・ミラノのマルセロ・ブロゾヴィッチ、バイエルン・ミュンヘンのヨシュア・キミッヒ、ウルバーハンプトンのルベン・ネヴェスに食指を動かしていたが、金銭的な理由などで契約に至っていない。そもそもファイナンシャルフェアプレーの問題で、財政的に競争力もないだけに、当初から分は悪かった。

 冒頭に書いたように、ブスケッツの代役は探しても手に入らないのだ。

ロメウは一つの選択肢だが…

 そこでクラブは、下部組織ラ・マシアで育ち、ブスケッツに道を閉ざされる形で去ったMFオリオル・ロメウの獲得を目指している。イングランドやドイツで様々な経験を積み、成長を遂げ、昨シーズンはジローナの攻撃サッカーを司っていた。かつてシャビ監督が退団するとき、自らの後継者の一人に名前を挙げていたように、共感できるプレーヤーなのだろう。

 しかし、プレーメーカーとして君臨していた34歳のブスケッツを手放し、すでに31歳になったロメウの獲得を狙う理由が分からない。論理性を欠いた強化である。交渉次第で、ブスケッツをあと2年は引き止められたはずで、その間にラ・マシア出身のMFを発掘するべきだったが…。

 本来、ラ・マシア出身の若手ニコ・ゴンサレスをバレンシアにレンタル移籍させるなどせず、ブスケッツの側で鍛え上げるべきだったはずだ。

 シャビはまだ契約が残るニコを構想外にしているようで、現在はロメウ獲得の換金手段として、各クラブと買い取りで交渉しているという。しかし、本当にニコを手放していいのか。ラ・マシア出身者への軽視は、バルサののど元を締めることになるだろう。

ラ・マシア軽視

 かつてバルサは、ラ・マシア出身者の久保建英に年俸100万ドルをケチって手放し、今や大損だったことが白日の下に晒されている。結局、宿敵レアル・マドリードにかっさらわれ、650万ユーロで売却されたわけだが、そこから1シーズンで価値は爆上がり。今や市場価格は、6000万ユーロと言われる。

 話が逸れたが、バルサはラ・マシアに目を向けるべきだろう。有力選手は外にいくらでもいるが、それをかき集めるだけでは、バルサはアイデンティティを失う。あくまでラ・マシアがバルサを支えるべきで、それはバルサ中興の祖であるヨハン・クライフが主張していたことであり、ある意味、勝利以上に大事なことなのだ。

 今年6月、ヴィッセル神戸とのアンドレス・イニエスタ退団ゲームは象徴的だ。

 バルサはブスケッツの代わりにプレーメイクを担当したのが、細身の17歳MFパウ・プリムだった。日本で言えば高校2年生でユースBチーム所属だが、イニエスタの技に触発されたのか、優れたビジョンと技量を用い、ダイレクトで迅速に次のプレーを促し、プレー方向を変えて展開を広げ、ラインを越えたパスを果敢に突き刺した。ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ、そしてブスケツの系譜を継ぐMFであることを証明したのだ。

 プリムのように、バルサの系譜を継ぐ選手はバルサにいる。

 ブスケッツの代役候補は、実は手元にいるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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