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「日本への攻撃ではない」「ICJは恐れない」…慰安婦訴訟の代表弁護士が語る”日本政府賠償判決”の全て

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
判決を控える慰安婦訴訟で代理人団長を務める李相姫弁護士。12日、筆者撮影。

韓国で1月8日に宣告された「日本政府敗訴」の歴史的な判決をめぐり、日本社会には「断じて受け入れることはできない」(菅首相)雰囲気が色濃い。だが今回の裁判、そう単純に切って捨てるのは余りにも惜しい。論点を当事者に聞いた。

●国家による暴力を見続けてきた弁護士

「日韓関係が破綻する」との危惧の声があちこちから聞こえてくる。今月8日にソウル中央地裁であったいわゆる「慰安婦訴訟」の判決で、日本政府に対し元’慰安婦’被害者の原告たち12人への賠償命令が下ったからだ。

日韓のメディアはさっそく、一人1億ウォン(約950万円)の賠償金のために韓国の裁判所が「日本政府の何を差し押さえるのか」を当てるのに忙しい。

被告の日本政府は一貫して本裁判を認めず、法廷にも一度も出席しなかったため、賠償金を支払うことはないと見られるからだ。さらに控訴の意思もないことを明かしており、23日に判決が確定する見通しだ。

そして本来、今月13日にもう一つの「慰安婦訴訟」判決が出る予定だった。だが2日前の11日に裁判所は3月24日に新たな弁論期日を設けることを通告し、判決はその先へと延びた。

筆者は今回、この裁判で原告側の代理人団長を務めている、李相姫(イ・サンヒ、48)弁護士に話を聞いた。

弁護士歴22年の李弁護士は、日韓の歴史訴訟の他に、韓国政府が過去に自国民を殺害した「民間人虐殺」事件や、在外コリアンをスパイにでっち上げた事件など「国家による暴力」への鋭い追及で知られる。先月発足した『第二期真実和解委員会』の9人の委員のうち一人に選ばれるなど、韓国屈指の専門家だ。

国家と被害者たる個人の関係を見続けてきた同氏が語る「慰安婦訴訟」の意味は、日本で受け止められる「国際法を無視した韓国司法の暴走」とは全くかけ離れたものだった。

そこには「人権」と「未来に向けた教訓」という、日韓そして人類に共通するテーマが横たわっていた。

李弁護士の口からは「判事の悩み」や「原告の本当の願い」といった、日ごろ韓国でニュースを追う筆者も聞くことができない、目からウロコの話が次々と出てきた。

内容を最大限詰め込むために長くなったが、これもネット記事の醍醐味だろう。ぜひ、じっくりと読んでいただきたい。もちろん、これをどう受け止めるのかは、読者であるあなたの自由である。

●裁判の焦点は「主権免除」と「裁判管轄権」

本文に入る前に、8日の判決文を参考に裁判の内容と判決要旨を簡略に説明しておきたい。この裁判は2013年に、日本軍’慰安婦’被害者女性達が日本政府を相手に慰謝料を請求する調停申請を行ったことから始まった。

だが日本政府が調停に応じないため、被害者女性たちは裁判に移行することを決め、2016年12月に裁判所が受け付けた。日本政府はさらに裁判書類の受け取りを拒否するなどこれに応じなかったため、19年になって裁判所は「公示送達」を行い同年5月に裁判が始まった。

裁判の焦点は、「国家免除(主権免除とも。以下、日本での通用度を考え主権免除とする)」、すなわち韓国の裁判所が日本政府を裁けるのか、韓国の裁判所に裁判権があるのかという部分にあった。

「主権免除」とは、「全ての主権国家は平等で独立している」という原則に基づき、「ある国の裁判所が別のある国を対象とする訴訟の裁判権を持たない」という国際慣習法を指す。

日本の立場としては(ア)被告が国家(日本政府)であるため、韓国の裁判所では裁けない、(イ)裁判をできるとしても、これらは日本で計画し、主導したものなので日本の裁判所で行うべき、と主張できるということだ。

判決文では、(ア)について「主権免除」の範囲を定めた国内法を持たない韓国が、国際的な事例を根拠に「日本政府(日本帝国)による反人道的犯罪行為は『強行規範』を違反したものであり、国家の主権といえども主権免除を適用できない」としたのだった。

さらに(イ)の裁判管轄権については、▲日本軍の不法行為が韓国の領土の中で行われた点、▲被害者が韓国国民である点、▲すでに国連人権委員会の報告書などにより慰安所の現地調査が不必要な点、▲世界各地で訴訟を提起した原告が韓国で訴訟を提起することを日本政府が予想できた点、▲国際裁判管轄権が排他的でない点、▲訴訟当事者の公平性を損ねない点を根拠に「国際裁判管轄権が存在する」と見なした。

判決文の冒頭では、原告である12人の元’慰安婦’たちが受けた被害が詳細に書かれている。ある者はだまされ、ある者は強制的に連れられ「慰安所」に集められ、日本軍兵士に性的暴行を加えられる’慰安婦’としての生活を余儀なくされた。

それではインタビューを紹介する。

●李弁護士への22の質問

(1)代理人団長として関わる訴訟(8日に判決が出た裁判ではなく、担当している裁判)は16年12月に始まった。訴えることになったきっかけと裁判に関わるきっかけは。

2015年12月の「日韓慰安婦合意」のためだ。当時、日韓政府は慰安婦問題は妥結したと発表した。これにより韓国政府が外交的にこの問題を解決するという期待が全く無くなった状況だった。’慰安婦’被害者が直接行動を起こす他になかった。

私は『民主社会のための弁護士会』にも所属しているため、「慰安婦合意」の検証や分析を行っていた。その流れで訴訟に参加した。

(2)その間の裁判(同上)の経緯は。

その間、全部で6度の公判があり、合わせて10の準備書面を提出した。日本政府が座るべき被告席は、常に空席のままだった。しかし、私たちは公判の前日に必ず報道資料を出して、メディアを通じて日本政府に「何をするのか」を伝え、公判後にも必ず会見を開いていた。

最後の公判は昨年9月にあった。この時に原告の一人、李容洙(イ・ヨンス、90)さんが出席して当事者審問をした。

(3)裁判の取材には日本のメディアも来るのか。

韓国のメディアも日本のメディアも全社が来てチェックしていった。日本のメディアは韓国メディアよりも熱心に取材していた。

(4)13日に予定されていた判決が延びた。どう見ているのか。

単純に宣告を延期するというのではなく、弁論をもう一度するということになった。期日の前に、判事がなぜ弁論を行うのか、何を準備すべきかを知らせてくれることになっている。

——新たな論点が出るということか?

その間、やるべきことはやった。裁判部が知りたがっている部分を話し、書類も提出した。とはいえ、今回のような重要な事件で、宣告の2日前になって弁論を再開するというのは異例のことだ。これ以上の論点はないはずだが…どうなるか見守っている。

(5)8日の判決の背景に、李弁護士などが裁判所に提出した資料が援用されたとの話がある。

私たちが別の裁判のために準備した資料を使ったという話は聞いている。多くの影響を与えたと思う。

——二つの裁判は全く同じなのか?

ほとんど同様だが、8日に判決が出た裁判は、調停がそのまま裁判になったもので「訴状」がない点で異なる。

(6)李弁護士が担当する裁判ではないが、8日の判決を前に「勝てる」と思っていたのか?

まず話しておきたいのが、「慰安婦裁判だから勝って当然では」と考えてはいけないということだ。韓国の司法部も質が高い。特に今回は、「国家免除(主権免除)」というとてつもない「壁」をどう乗り越えるか、とても苦労した。

このために、日本の弁護士や国際法学者とセミナーも持ったし、2004年にイタリアであったフェリーニ事件(Luigi Ferrini v. Germany 2004、※)に関し、2012年のICJ(国際司法裁判所)でたたかったイタリアの弁護士とも会議を重ねた。また、他にも英国の著名な国際法学者などにアドバイスも受けている。

「主権免除」の問題は、ここまでやってこそ乗り越えられる問題だ。裁判所側も繰り返しこの点を尋ねてきた。繰り返すが「勝って当然」の裁判ではなかった。半々で、負ける可能性もあると見ていた。

※フェリーニ事件:フェリーニ氏が提起した、第二次世界大戦中のドイツによる強制動員に対する損害賠償訴訟。「反人倫的な犯罪および基本的人権に対する重大な侵害など、国際犯罪にまで『主権免除』を適用できない」という趣旨の判決が下された。

同様の判決が続くや、2012年ドイツはICJ(国際司法裁判所)に提訴し、ICJはイタリアの裁判所の判決を「主権免除を尊重する義務を違反したもの」とした。しかしイタリアの憲法裁判所はこの決定に対し2014年、「主権免除の国際慣習法はイタリアの憲法秩序の基本的価値を侵害する」という違憲判決を下した。

——「強行規範」という聞き慣れない言葉もあった。これは何か。

「強行規範」とは人類が共同体を維持するために、必ず守られるべき法律のことだ。民法、刑法、商法など韓国の国内法でも定められている。奴隷禁止、人身売買禁止などを犯す場合には、主権という理由で国家を保護してはいけないということ。国家も共同社会の一員であるため、共同体が維持できる範囲の中で保護されると考えればよい。

(7)8日の判決を受け、韓国の法曹界の反応はどうか。

大きな反響があった。国際人権の観点から画期的という評判だった。ただ、今後日韓関係が悪くなる場合には、どんな批判が出るかはまだ分からない。

——判決を修飾する最もふさわしい言葉は?

歴史的な、画期的な、そんな判決だ。

(8)8日の判決は国際的にも関心が高かったと言われているが、どういうことか。

国際人権法という側面から、欧州や米国の国際法学者がとても高い関心を寄せている。この事件の結論によって、国際人権の流れが決まるとも言われている。

加害国で救済を受けられない人権侵害の被害者が、自国で加害国を訴えた時に「主権免除」の原則と被害者の人権が衝突することになる。

各国は平等なので法廷で罪を問えないという「主権免除」の考えが従来あったが、それが第二次大戦を経て、被害者の人権を重視する方向に一定のコンセンサス(合意)がある状態だ。

国連では「主権免除」に関する協約を作り(04年、国家及び国家財産の裁判権免除に関する条約。署名国が20に満たないため未発効)、EUも協約を作り発効されている。カナダや日本でも国内法を作り死亡や傷害事件での主権免除を認めていない(※)。

そこで国際慣習法としての「主権免除」をどう捉えるのかという話になる。イタリアが揺るがした「主権免除」の原則に、今回の韓国の判決が決定的なダメ押しを加えることになる。

つまり、重大な人権侵害についてはどんな国家にも免罪符を与えることができないという、国際法の原理が形成されることになる。この点で重要だった。

※日本での主権免除:2009年に「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」が制定されている。

——海外では実際にどんな反応があったか。

裁判を共にした人たちはみな喜んでいる。アムネスティ香港からも「とても素晴らしい」と連絡が来たばかりだ。

(9)李弁護士自身は8日の判決をどう受け止めたか。

先に述べた国際人権的な意味もあったが、帝国主義の国際法秩序の中で保護を受けられず振り回された元’慰安婦’被害者が市民として認められた点で安堵した。

今回の裁判の焦点は「裁判請求権を保障せよ」というものだった。いくら身体の自由があり選挙権やプライバシー権があるとしても、これらが実際に侵害された際に国家が保護してくれなかったら、人権がないのと同じだ。

原告となった’慰安婦’被害者の方々が法廷で繰り返し主張してきたのも、「憲法が保障する裁判請求権を認め、市民として認めて欲しい」というものだった。判決によりようやく完全な市民になることができた。

(10)原告である’慰安婦’被害者たちにとってはどんな裁判だったか。反応は。

李容洙さんは8日の判決後には「事実の認定」と「謝罪」を改めて求めている。判決を通じ究極的に要求しているのは、単純な金銭的な執行ではない。

また、‘慰安婦’被害者の女性たちは、対話の最後に必ず「戦争は絶対にいけない」と言う。日本政府が事実を認めることは、「二度とあのような戦争をしてはならない」という意味に他ならない。「謝罪」には「戦争の再発防止」が含まれている。

※判決後、原告の一人、李玉善(イ・オクソン、93)さんは「1億ウォンでも3億ウォンでもいらない。日本の謝罪が先だ」と明かした。

(11)判決を下した裁判所側には負担があったと思うか。

二つのとても大きな負担があったはずだ。まずは「主権免除」の原則をどのように乗り越えるのかという部分だ。判事というのは確固とした法理を持って判断することを好むが、今回は憲法を基盤として、この論理を克服した。これは大変だったと思う。

もう一つは「強制徴用裁判決のトラウマ」克服という負担だ。18年10月当時、最も残念だったのが、判決が持つ人権的な意味と被害者の声がかき消され、ただ日韓関係についての話しか出てこなかったことだ。

特にベテラン外交官や学者が主張した「日韓関係の破綻を司法部が引き起こした」という批判から自由な判事はいないだろう。大変なプレッシャーに耐えた勇気ある判決だったと考える。

(12)今回の事件は、日本による植民地支配当時の出来事だ。時効というものはないのか?

時効は被告が主張するものというのが裁判のルールだ。日本政府は裁判に出席していないので、これを主張していない。

——日本側は「時効だ」と言えるということか。

そうだ。一例として、過去に’慰安婦‘被害者だった宋神道(ソン・シンド、17年死去)さんが日本で起こした裁判がある。この時には00年11月に東京高裁で日本政府が時効を主張し、これが受け入れられた。当時は日本での裁判だったので、日本政府が対応した。

もっとも、重大な反人倫的な犯罪に対しては時効を適用しないという国際的合意があるので、実際に主張していても受け入れられなかっただろう。

(13)日本政府もメディアも社会も「国際法違反」「すでに解決済み」の一点張りだ。どう反論できるか。

この場合の「国際法」とは1965年の請求権協定を指すものだが、日本政府はこれまで、被害者たちの賠償請求権が消滅したとは一度も言っていない。

これまでの日本国内の慰安婦訴訟判決を見ても、被害者たちが主張する事実関係を認めつつ「不法行為の責任がない」という反論ではなく、「時効で消滅した」や「請求権協定で解決した」とするものだった。

‘慰安婦’被害者の問題は、公権力による重大な人権侵害が起きた時、加害国家がどうすべきなのかという側面から眺めてみると分かりやすい。

2005年に国連総会でこれに関するガイドラインが作られたが、▲事実を認定し、▲公式に謝罪し、▲賠償し、▲教育し、▲追慕することが必要というものだった。これらが分離してはならないという点も強調された。

つまり、事実を認定しない賠償も、賠償のない謝罪も、謝罪のない事実の認定も、事実を認定しない謝罪もあり得ないということだ。同時にすべきというものだ。

これを65年に当てはめる場合、加害国として日本は責任を果たしただろうか。少なくとも事実を認め、真実を究明し、賠償も金銭だけでなくトラウマの治療やリハビリなどの過程への支援も含め、さらに日本社会への教育や追慕も行う必要がある。

日本政府は河野談話(93年)以降、教育をする素振りを見せたが、今はほとんどが歴史を否定し、「平和の少女像」についても国際的に阻止するなど、追慕事業も妨害している。これでは解決と見られない。

※河野談話:1993年8月4日に河野洋平官房長官(当時)が発表した談話。戦争中に軍当局の要請により「慰安所」が設置され、多くの「慰安婦」が強制的な状況下で残酷な生活していたことを認め、「慰安婦」だった人々に謝罪と反省を伝えた。

——それでも請求権協定で解決済みという思想は日本社会で強固だ。

65年の請求権協定を結ぶ過程で、日本と韓国政府の交渉のテーブルに「慰安婦問題」が上ったかどうかについては、日韓の立場が異なる(日本は上ったとし、韓国はそうではないとしている)。争点を請求権協定にだけ限定してしまうと答えが出ない。

だがこれを「主権免除」を克服する国際人権的な側面から見る場合、先に述べたような加害国が取るべき一連の手続きを採ればよいだけで、65年の協定に敢えて触れる必要はなくなる。対話をすべき議題が出てきたと日本社会が受けて止めて欲しい。

(14)2015年のいわゆる「日韓慰安婦合意」で「最終的に解決した」という見方はどうか。

2015年の日韓合意は、国会での批准を経た条約ではなく、政治的な合意に過ぎないというのが韓国の憲法裁判所の解釈(※)だ。裁判請求権という国民の基本権を含めるものと見られないというものだ。

また当時、韓国政府は大きな失敗を犯した。’慰安婦‘被害者たちに会って「とりあえずお金を受け取って、謝罪は別に受け取ってください」と述べていた。この事実を知って、日本の市民社会も失望した。

先に述べたように、謝罪と賠償、事実の認証は同時に行われなければならない。何かを先にする場合、ズレが生まれてその意味も色あせる。

※憲法裁判所の解釈:2019年12月27日に宣告されたもの。「合意の内容上、韓日両国の具体的な権利・義務の創設余否が不透明である」とし、例えば日本の総理大臣による’慰安婦’被害者に対する謝罪と反省を表明する部分において、「被害者の権利救済を目的とするものなのかが明らかにされず、法的な意味を確定できない」といった理由で「被害者の被害回復のための法的措置に該当すると見なすのは難しい」と判断した。

(15)今後はどうなるのか。差し押さえについての関心は高い。

賠償のための強制執行をするのか、するとしたら何を対象とするのかという質問を、多くの日本メディアの記者から受ける。しかしこれまで、’慰安婦’被害者(原告)たちの誰一人として、強制執行を行うと話したことがない。

それにもかかわらず、日韓のメディアは韓国政府が強制執行について手助けすべきだとか、日韓関係が硬直すると話す。これらは18年の「強制徴用裁判」のトラウマの連続線上にあるのではないか。

(16)今回の判決が類似の訴訟ラッシュを招くとの憂慮もある。

その可能性は低い。訴訟を提起する'慰安婦’被害者が多くない上に、遺族が訴訟を起こした強制徴用の場合と異なり、多くの遺族が'慰安婦'被害者の家族であることを公にするのを望まない。

また、結婚していなかったり、結婚していても子どもがいなかったりなど、家族がいない場合も多い。私が担当している訴訟でも、途中で亡くなった原告がいるが、ついに相続人を探せなかった。

(17)日本政府は判決をどう受け止めるべきか。

今回の判決では、日本政府の不法行為を直視し、どんな国際法の違反になるかを一つずつ羅列している。日本政府はこれを受け入れることで、自らがどんな間違いを犯したのを認めることになり、これに従って賠償をどうするのか決めればよい。

しかし先にも述べたように、今回の判決を「強制執行を行うために下した」と見るならば、それは本当に’慰安婦’被害者の女性たちを誤解するものだ。

例えば今回の判決を強制執行したとしても、やはり原告たちは「事実を認めよ」、「公式の謝罪をせよ」と語り続けるだろう。これについて日本社会は「判決を履行したのにまだ要求するのか!」と言うだろう。これまでの繰り返しになる。

「慰安婦問題」から出た判決であるが、国際人権的に見ると、国家による暴力からどんな国も自由ではないという判決だ。

(18)判決が韓国社会にもたらす意味は。

日本にも韓国にとっても「真の謝罪が何か」ということを考える良い機会となる。先に提示した5つの要素が同時に行われることが謝罪であると、韓国国内を説得する過程が必要だ。

判決を通じ、韓国軍がベトナムで行った公権力による重大な人権侵害について、韓国社会が責任を負うことになるかもしれない。全ての国が責任を負うべき問題となるだろう。

※なお、慰安婦訴訟の弁護団の中には、ベトナム戦争の際、韓国軍によるベトナム民間人虐殺の被害者が韓国政府を相手に起こした、韓国で初めての損害賠償訴訟の弁護を担当している弁護士もいる。

(19)「国際司法裁判所(ICJ)で決着を」という声も日本国内にある。

原告の立場ではICJが怖くない。私も「ICJに行こう」という立場だ。理由は三つある。

まずは、ICJを通じて、日本軍慰安婦制度の反人倫性を国際社会に継続して提起できるようになるからだ。万一、ICJで敗訴してもその過程に意味が生まれる。

次に、フェリーニ事件ではICJがドイツの手を挙げたが、今回の事件は必ずしもそうはいかない点がある。

同事件は武力衝突状況で起きたもので主権免除の対象とされたが、韓国の8日の判決文では、朝鮮半島は北側の中国との国境を除いては武力衝突の舞台ではなかったという解釈をしている点で異なる。

最後に、フェリーニ事件では女性の人権が争点で無かった点がある。ここ数年、国際社会ではジェンダーの問題が飛躍的な発展を遂げている。今回の事件にフェリーニ事件と同じ結果が出るとは限らない。

(20)判決は、今の日本政府に向けられたものなのか?それとも過去の日本帝国に向けたものなのか?

結局のところ、日本帝国が犯した過ちについての責任は、現在の政治共同体である日本国が負うことになる。

私が韓国で韓国政府による過去の過ちを追及する仕事を長い間続けながら、常に悩んできた部分でもある。

過去、故李承晩(イ・スンマン、在任1948年7月〜60年4月)や故朴正熙(パク・チョンヒ、在任62年3月〜79年10月)が犯した人道に反する犯罪に対し国家賠償を行う場合、そのお金は税金から捻出される。

この時に、「なぜ私たちが責任を取るのか」という声がどうしても出てくる。

納得するのは難しいが、祖先が作った政治共同体の利益を現在の私たちが享受しているため、同じ政治共同体が犯した犯罪について共に省察し、責任を取ってこそ共同体が正しい方向に進むのではないだろうか。

共同体が過去に目を閉ざす時、それは死んだ共同体に他ならない。この観点から過去の出来事を政治共同体が忘れてはならない。それはずっとつながっていく。日本にとっても韓国にとっても難しい課題だ。

(21)判決の中、日韓はどう関係を発展させていくことができると思うか?

今回の判決は、国家による暴力に対しアジアの国家がどんな措置を採るべきかを議論する絶好の機会と見る。

なぜなら、慰安婦問題は日韓だけの問題ではなく、アジア全域に関わる問題であるからだ。

今回の判決はどんな国家も国家の暴力から自由ではないということを示す判決だ。日本も韓国も中国も同様だ。

日本にとってこの問題は気が重いだろうが、人権の視点から見ると、全ての人の問題であり普遍的な人権の問題だ。

イタリアでの判決を元に欧州で「主権免除」を扱う部分での整理が進んだように、アジアでも今回の判決を土台に未来志向的な悩みを共有できるとよい。

(22)日韓は歴史認識問題を棚上げし、まず安全保障での連携を、という意見がある。

互いに人権を保障する基盤の上に安全保障を論じなければならない。人権を無視した安全保障はあり得ない。だからこそ、慰安婦問題に限定せず、国際人権の話として向かい合ってはどうか。

日本ではこれまで、「慰安婦」と言えば1965年か2015年の話しか無かった。新しい議題として今回の判決を受け止めてもよいだろう。

●最後にひと言

私たちは「慰安婦問題」を扱うからといって、日本を攻撃しようというものではない。

国家暴力を量産する制度とシステムに対し問題を提起するものであって、人類がどうやって責任を負うべきかという観点から、この問題に取り組んでいるという点を知って欲しい。(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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