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「金正恩訪露」はあっても東方経済フォーラム出席は? ドタキャンの可能性もゼロではない!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
初訪露(2019年4月)し、プーチン大統領と握手する金正恩総書記(労動新聞から)

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」は9月4日付で金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「近くロシアを訪れ、プーチン大統領と会談することを計画している」と報じていた。

 韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相は国会で、金総書記の訪露について「可能性があるとみている」と発言し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領にいたってはインドネシアのジャカルタで開かれている東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議で金総書記の訪露によって取り沙汰されているロシアと北朝鮮との軍事協力について「国際社会の平和を害する北朝鮮との軍事協力の試みは直ちに中断しなければならない」と北朝鮮とロシア双方に釘を刺していた。

 他のどの国よりも事態を重く見ている米国はサリバン大統領補佐官が金総書記に訪露を思いとどまらせ、ロシアに武器を供与しないよう圧力を掛ける一方で、国務省や国防省が揃ってコメントするなど国際社会に警鐘を鳴らしているが、金総書記は「ニューヨーク・タイムズ」の報道のとおり、本当にプーチン大統領との首脳会談のためウラジオストークを訪問するのだろうか?また、今月10~13日に開かれる東方経済フォーラム(EEF)に出席するのだろうか?

 仮に首脳クラスを含め多くの外国の要人が集まるEEFに金総書記が出席するとすれば、極めて異例のことである。

 北朝鮮の歴史を紐解けば、外国の首脳が集う場所に北朝鮮の最高指導者が訪れたのは初代の金日成(キム・イルソン)政権下にインドネシアのジャカルタで開かれたアジア・アフリカ首脳会議(バンドン会議)への出席とエジプトのサダト大統領の国葬参列を含め数えるほどしかない。2代目の金正日(キム・ジョンイル)政権下では一度もなかった。

 金正日前総書記の初の訪露は政権継承から7年後の2001年7月で、モスクワへの公式訪問、それも長旅で、7月28日に平壌を出発し、8月18日に帰国していた。

 平壌からモスクワまでの片道約9千km、往復で1万8千kmの路程を17両の客車に140人の随行員を引き連れた列車の旅は最高指導者としては金日成主席の最後の訪問となった1985年以来、実に16年間ぶりの出来事であった。

 2度目の訪露は翌年の2002年8月で、この時はウラジオストークを公式訪問していた。期間は22~24日までだった。

 帰国後、金前総書記の指示により、ロシアとの親善友好の証として北朝鮮初のロシア正教会が大同江付近に建設された。さらに長年の懸案であった国境線の設定でも合意し、2008年8月に豆満江の河床に中間線の境界線が画定された。

 3度目の訪露は急死(2011年12月17日)する約4か月前の2011年8月で、これが金前総書記にとっては最後の訪露となった。訪問先はシベリア・極東地域で非公式訪問(21-25日)だったことから北朝鮮は国境を超えた時点で訪露を発表していた。

 当時のロシアの大統領はメドベージェフ・現安全保障会議副議長で、金前総書記はブリヤート共和国(東シベリアのバイカル湖の南東部に位置する)の首都(ウラン・ウデ)で首脳会談を行い、帰途中国(黒竜江省や吉林省)に立ち寄り、8月27日に帰国していた。

 この3度目の時は「6月訪露説」が流れていた。というのも6月にロシア通信社「プリマメディア」が複数の消息筋の話として「メドベージェフ大統領が来年開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)総会の開催地、ウラジオストークを6月29日から7月1日まで訪れるのでその際に行われる」と報じていたからだ。しかし、実際にはなかった。

 後にロシアのチマコワ大統領報道官(当時)はメドベージェフ大統領のウラジオストーク訪問では「そのような会談の予定はなかった」とか「我々は(金正日総書記)が来るとは一度も言っていない」と釈明していた。

 北朝鮮がドタキャンしたのか、真相は定かでなかったが、一部ではキャンセルの理由について「訪ロ予定が事前に報道されたため北朝鮮が警備面を危惧したことによる」と伝えられていた。しかし、本当に警備に懸念があるならば、北朝鮮自らが事前に発表はしなかったはずだ。

 最初の訪ロとなった2001年7月の3週間かけての列車によるモスクワ訪問の際は2日前の7月26日に「間もなくロシアを公式訪問する」と朝鮮中央放送による発表があった。 2度目の2002年8月のロシア極東訪問(22-24日)の時も一週間前の15日に「8月下旬に訪問する」と、これまた朝鮮中央放送が発表していた。従って、過去のケースを考えると、「事前に報道されてしまったため取りやめた」というのは考えにくかった。

 今回の「金正恩訪露説」についても米情報当局が事前にメディアに情報を流したことで韓国の大手紙「中央日報」(6日付)などは「動線と日程すべて露出した金正恩はそれでもロシア訪問を強行するのか」との見出しの記事を掲載していたが、前例からして「健康上の理由」以外、「警備上の理由」で中止することはあり得ない。

 平壌からウラジオストークまで鉄道で移動すると、台車交換をする時間まで考慮しても20時間以上かかるが、列車による外遊は経験済みで、周知のように金総書記の専用列車は窓を含む列車全体が防弾素材で製作されており、線路沿いの警護も万全だ。また、飛行機という利用手段もある。飛行機で行けば、ウラジオストークには1時間30分程度で着く。実際に2018年5月に習近平主席との首脳会談のため会談場所の大連まで専用機で移動したこともあった。

 訪露が実現すれば、金正恩総書記にとっては2度目となる。

 最初の訪露は権力の座に着いてから7年目の2019年4月で、24日の早朝に列車で出発し、その日のうちにウラジオストークに到着していた。この時は、北朝鮮は前日の23日に「間もなくロシアを訪問する」と発表していた。プーチン大統領との首脳会談は25日に行われ、26日には金総書記は帰国していた。

 金総書記も父親同様にロシアから招待されてもこれまで一度もロシアで開催された記念行事には出席したことがない。

 ロシア政府は2015年5月にロシアで開かれた第2次世界大戦勝利70周年記念行事に金総書記を招待したが、戦勝祝典に出席したのは当時党序列No.2だった金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長だった。また、5年前の2018年9月にもウラジオストークで開催されたロシア政府主催の東方経済フォーラムへの出席が取り沙汰されていたが、この時も姿を現すことはなかった。

 ロシアに限らず、中国に対しても対応は同じで、例えば2015年10月に30か国の首脳を含む49か国の代表団が参加した中国の抗日戦勝70周年式典も金総書記はパスし、代わりに序列5位の崔龍海(チェ・リョンヘ)政治局員を出席させていた。

 中露ではないが、文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2018年に韓国の平昌で開催された冬季五輪にも招待されても行かず、代わりに金永南委員長と金総書記の特使として妹の与正(ヨジョン)党副部長が代理出席していた。

 訪露の時期が今月10~13日となるのかどうか、その際、東方経済フォーラムに出席するのかどうか、また訪問が公式、非公式のどちらになるのか、さらに北朝鮮が予告するとすれば、いつになるのか、明後日(9日)の建国75周年の式典が終われば、その結果が判明するであろう。

(参考資料:ロシアのショイグ国防相の訪朝は「要注意」! 露朝軍事同盟は復活するか!?)

(参考資料:ショイグ国防相は北朝鮮からどのような兵器を購入する? 注目は北朝鮮の「5つの目録」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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