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3児の母 子供の病気に「恐怖」の季節

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
1人でも大変な子どもの病気(写真:アフロ)

3児の母でありフリーランスのフィットネス・インストラクターとして働くZさんは次男が入院を繰り返し、苦心した。3人目の産後は一時預かりやサポーターに助けられ、仕事を続けて前向きな気持ちでいられた。だが今年も病気のシーズンが始まり、「必死にどうにか毎日を乗り越えている」とZさんから悲痛なメッセージが寄せられた。

30代のZさんは、3児の母。子どもたちは2歳から小学生で、まだまだ手がかかる。それでもフィットネスの仕事を続けたくて、自分のクラスや代講を受け持つ。子育てを通して保育に関心を持ち、保育士の資格を取った。今はNPOの親子広場でも働く。

●毎月のように入院した次男

1人目の産後も、事情があって自分の両親には頼れなかったZさん。2歳違いで次男を授かった。夫は理解ある人だが、長時間労働だという。Zさんはインストラクターの仕事を続け、次男は4か月から保育園に通った。6か月ぐらいの時にぜんそくが出て入院した。保育園でうつった風邪から気管支炎になり発作が起きる。

1週間は保育園を休み、10日ぐらい入院。すると月に数回しか保育園に行けない。毎月こんな生活で、10か月で滅入ってしまった。周りに「かわいそう」と言われると「預けて仕事をする私は、子どもにかわいそうな思いをさせている」と自分を責めた。

次男が入院中、Zさんはほっとしたという。「入院前は、毎日続く夜中・朝方の発作。自宅で吸入や内服がお手上げになると入院しました。管理入院で安静にさせるので安心でしたし、自分も休むことができました」

●一時保育の予約電話「逃せない!」

それから仕事を最小限に絞り、一時保育に4時間だけ預けることにした。すると病気が減った。「一時保育のおかげで、仕事を続けられたのはよかったです。子どもと向き合っているだけの生活は私には無理で、仕事を辞めなくてよかった。産休でブランクがあったから、仕事の枠を取りに行くのが大変でした。フリーランスは現場に居続けないと、すぐ仕事がなくなってしまうので」とZさん。

ところが、一時保育の予約が恐怖だったという。「一か月前から予約が取れるので、預けたい人は一斉に電話します。人気のコンサートチケットを取るみたいに数分、遅れると枠がいっぱいになってしまう。毎月、電話しなければならなくて逃したらと思うと緊張しました」

病気や発作が、毎月から数か月おきになり、4年で10回、入院した。「3人目ができた時、どうしようって思いました。次男の病気の大変さに、3人目はないよねと抱っこひもやベビー服も捨ててしまって。次男を産んでから、私自身もせきぜんそくになって体調も悪かった」

●3人目出産、ママ友・親類に救われる

3人目に娘が生まれるた時は、孤独だった1人目の子育てとは違い、保育園や幼稚園を通してママ友ネットワークができていた。「産後に、食べ物を持ってきてくれたり、長男を預かってくれたり」。また、躊躇せず頼める人には頼む強さもZさんの中で育っていた。「娘が生まれて1か月たたないうちに次男が入院した時、夫方のおばさんに頼み込みました。高齢なので、待合室でベビーカーを見ててもらい、私がその間に次男に面会、授乳、幼稚園に長男の迎えとフル活動しました」

さらに3回目の産後、Zさんは初めて行政の助成で産後ヘルパーを利用した。「次男の時までは抵抗があって使わなかったのですが、2時間1500円の負担で掃除を5~6回お願いし、とても助かりました」

Zさんは次男の妊娠中に保育士の勉強を始め、3年半かけて試験を受け、実技もして3人目を妊娠中に合格。「自分の子育てに自信がなくて、勉強したかった。実際に昨年、保育園にパートで勤めました。アシスタントだったのでお母さんとはかかわりがなくて、子どものサポートだけでなく親子支援をしたいと思うようになったんです。私のように行き詰まっている人がいるはず。力になりたいと親子広場でも少しずつ働いています」

●秋から3人次々と病気、親も倒れ

Zさんにここまでの話を聞いたのは夏前。筆者は、Zさんは多忙ながらも充実した毎日を送っていると受け止めていた。だが11月に連絡すると、子どもの病気シーズンが始まり、参っているという返事があった。「9月末から、インフルエンザに3人が次々とかかり、そのあと次男が流行り目。私もうつって。間に長男と娘がマイコプラズマに…」

Zさんは「今も、次男は発熱してセキが出るのに、上着を着てくれない。『ママお仕事休めないからね、熱が出ても一人でおうちにいてよ』と怒鳴ってしまいました。結局は私が病院に連れて行き、仕事の代わりの人を探すのですが。熱がさほど上がらず、仕事が数時間なら留守番させたいぐらいだけど、4歳では難しい」。

「夫は出張が多くワンオペで、必死にどうにか毎日を乗り越えて…。逃げ場がなくなる恐怖を感じる。ワンオペだから余計に不安になるのかも。なぜ母親だけが我慢、我慢なんだろう」との言葉に筆者も共感した。

●「3人預けるのはハードル高く」

以前は、親類や他のママたちに助けてもらえたと言っていたので聞くと、「世話になっていた高齢のおばさんは病気で入院中。頼りにしていた友達も引っ越してしまって。それに3人をまとめてお願いするのはハードルが高いし、2歳の娘が『ママー!』になるから難しい」という。

最終的に助けを求めるかどうかを決めるのは本人だ。Zさんに「行政の病児保育室を利用してみたら、娘も楽しんでいてよかった。1人だけでも試してみて」と伝えた。Zさんは「近くの病児保育室はいつもいっぱいって聞いて敬遠していたけど、登録しようかな。とりあえずやれることをやる」と前向きになった。

辛い状況でも情報を受け止め、やってみようと思える強さを持っているZさん。「同じように辛い思いをしているママたちに共感してもらえれば」「3児の母で、好きな仕事を続けて、みたいなきれいな話にしないで。現実を知ってほしい」と今の大変さを伝えてくれた。

●1人目の大変さにあきらめた2人目

この記事を読んで、「3人も?」「仕事まで頑張りすぎ」という声もあるだろう。でも授かった命がサポートされないなら、少子化は改善されないと思う。Zさん本人も「自分で選んで決めた道」といい、仕事をするのはいいことか自問自答している。行政は子どもを持ちたい人、持った人が「活躍」できる社会を目指しているはずだ。

筆者は高齢初産して、子どもの病気の多さに職場で居づらくなり、結果的に退職して独立。その後、年齢的なこと、身内の手助けが得にくい現実を考えて、2人目は厳しいと思った。1人でも子どもは頻繁に病気をするので、会社員時代は「仕事が中途半端」と言われ評価はがた落ち。個人で仕事していると、「子育て中」とカテゴライズされ、20年のキャリアと今の実績を見てもらえず悔し涙を流す時もあった。そうこうしているうちに45歳を過ぎた。

病気シーズンの年末、風邪がなかなか治らない46歳の筆者。これから夫が出張に行くので、筆者か娘が感染する病気にかかったらどうしようと思うが、よその家庭も有料のシッターも、それぞれに事情があり、頼めることと頼めないことがある。体調管理をしてワンオペを意識せず、淡々と乗り切りたい。子どもが1人だから、流れに任せられる感覚だ。

●切り捨てずサポートが得られるように

実は筆者の周囲に、3児以上を持つ働くママは多い。ただ、祖父母が病気や出張の時はすぐに駆け付けてくれるとか、会社に理解があるとか、恵まれている部分はあると思う。Zさんはフリーランスなので仕事をキープするのが大変だし、子どもが次々と病気をしたら物理的に苦しい。ワンオペで精神的にも追い詰められる。子どもたちをかわいがっているけれど、これからの人生や自分のキャリアを大事にしたい気持ちもわかる。

他の2児のママも、「子どもたちが次々に胃腸炎になって、世話して吐いたものを片付けて…。食べ物を買いに行くこともできない」と嘆いていた。

そこで「仕事を辞めれば」と切り捨てず、「母親だから自分を犠牲にして世話すべき」と決め付けず、職場の制度や働き方・行政の取り組みがさらに改善され、多様なサポートが増えれば、結婚や子育てへのハードルも下がっていくのではないだろうか。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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