ノルウェー版「共謀罪」とは?(4)15年前に新設、2013年から単独計画も犯罪化
「ノルウェーにはすでに共謀罪がある」という日本の記事を見かける。それにしては、ノルウェーでは大きな反発は起きなかったようだ。現地の専門家たちから話を聞いた。
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ノルウェー法務・危機管理省のアンドレアス・ビョルクルン氏(Andreas Bjorklund)は、ノルウェーのテロ刑法の背景をこう語る。
「計画段階で犯罪化する法ができたのは2002年です。その理由には、経済的テロ犯罪との戦いにおける国連との条約、国連安保理決議第1373号があります。さらにノルウェーでは、2013年6月に、“一人での”テロ準備も犯罪化される改正がなされました」。
複数犯から単独計画犯の取り締まりも可能へ
単独のテロリスト予備軍を取り締まる改正案は2012年7月に提出され、その年の11月まで審議され、2013年6月に国会で可決された。
「改正の理由については、当時の法務・危機管理省がこう判断したからです。“他者との共同なく、危険なテロ行為を単独で計画し実行することが、疑いの余地なく今や容易である。単独犯を探し出すことが難しいという現状は、潜在的なテロリストに悪用される可能性がある”」。
「ノルウェーが国際組織犯罪防止条約を締結したのは2003年で、2013年の改正とは関係がありません」とビョルクルン氏は付け加えた。
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これまでの取材をまとめるとこうなる。
「国際組織犯罪防止条約を結ぶために共謀罪を新設した国はノルウェー」(日本経済新聞)という情報はどうやら正しいようだ。国連の条約に加盟するために、類似する刑法をもつ国はほかにもあると専門家は指摘する。
国際組織犯罪防止条約を理由にテロ法案を作る国々
国際組織犯罪防止条約は、そもそもが「経済的な組織集団」対策であり、「テロ対策」は主要目的ではない。だが、言葉の解釈の仕方では、この条約の一部分を口実にテロ対策案をつくる国もある。
ノルウェー国会は「経済テロ」対策のための新設であると当初から明らかにしている(国会の2001年提案書原文)。
一方、ベルゲン大学法学部のフースブ教授は、「国際組織犯罪防止条約はテロ対策が目的ではないので、日本での議論がテロ対策と条約で紐づけられているとしたら奇妙な気もします」とも指摘していた。
一般市民を監視するリスク
- 日本で物議を醸す共謀罪は、ノルウェーでは15年も前に新設されていたことになる(複数での計画段階のみ)。
- 2011年の単独犯による連続テロ後(77人死亡)、2013年には「単独」での計画段階も犯罪化する改正がなされた。日本より先をいっている。
- 市民の監視をする際、警察による過ちを防ぐ対策として、監視前後に第三者機関による審査体制が整っている(ノルウェー版「共謀罪」とは?(1)を参照)。「だから大丈夫」とするのがノルウェー国家公安警察(PST)の見解。
- 「詳細が不明瞭なままで、テロの“計画や準備”が犯罪化されるとしたら問題がある」とベルゲン大学法学部フースブ教授は日本での動向について語る。
- 警察へ信頼を寄せているノルウェー国民。しかし、監視されるかもしれない可能性により、一部の市民は自由に発言をすることを控えるかもしれない。えん罪の可能性も必ずしも否定できない(ノルウェー版「共謀罪」とは?(3))
- 「スカンジナヴィア諸国の人々は、政府をあまりにも信頼しすぎていると思います」とオース弁護士は答えた(ノルウェー版「共謀罪」とは?(2))
Text:Asaki Abumi