ノルウェー版「共謀罪」とは?(3)監視社会で市民が自由な発言を控えるリスク
「ノルウェーにはすでに共謀罪がある」という日本の記事を見かける。それにしては、ノルウェーでは大きな反発は起きなかったようだ。現地の専門家たちから話を聞いた。
ベルゲン大学法学部のアーリン・ヨハネス・フースブ教授(Erling Johannes Husabo)は、十分な議論と国民への説明義務の重要性を指摘する。
「EU、欧州評議会、国連の枠組みに加盟しているために、多くの国の法律では、テロ準備段階で取り締まる対策が義務的に盛り込まれています。日本のメディアでノルウェーが特に事例として取り上げられているとしたら意外です」。
「国際組織犯罪防止条約はテロ対策が目的ではないので、日本での議論がテロ対策と条約で紐づけられているとしたら奇妙な気もします」。
「準備段階を犯罪化することに対して、政府はもっと慎重になるべきだという見方には私は賛成です。国民の自由と法の安全を保護するためにも」。
「準備段階といっても様々な形があります。誰かとの共謀、爆破物の製造、テロリストの育成、テロの学習、テロの経済的支援など。私は日本での議論の詳細を知りませんが、議論をするのであれば、どのような犯罪行為に対する対策なのか明確であるべきでしょう」。
「最も問題があるのは、詳細が不明瞭なままで、テロの“計画や準備”が犯罪化されることです」。
ノルウェー情報保護局Datatilsynetのディレクターであるビョーン・エイリック・トン(Bjorn Erik Thon)氏は、ノルウェー版共謀罪のリスクをこう語る。
「ノルウェーでも心配する声はありました。2001年以降、どの時点で刑罰対象とするかという時期は、どんどんと早い段階に移されてきました」。
「これでは悪いことをしていない人が監視され、捕まる可能性が高くなります。より多くの監視体制も招きます」
少数派の意見を持つ者であれば、発言を恐れるようになる可能性
「懸念すべきことは、冷却効果といわれる現象が起きることです。監視されることを人々が恐れて、コミュニケーションを避けるようになります。大多数と異なる政治的意見や性的嗜好をもっている時などに。裁判所やEOS委員会など、監視前後に警察の行為を審査する体制はノルウェーでは整ってはいますが」。
Text:Asaki Abumi