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「神試合」だったルヴァン杯決勝 LCC欠航で会場入りを諦めかけた札幌サポーターにも神が降臨

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
ルヴァン杯決勝前の両チームサポーターのコレオグラフィー(筆者撮影)

10月26日、埼玉スタジアムで開催されたルヴァンカップ決勝、北海道コンサドーレ札幌対川崎フロンターレは延長戦でも決着がつかず、PK戦の末に川崎フロンターレがルヴァンカップ初優勝を飾った。

歴史に残る激闘の裏で、北海道から埼玉まで遠征した札幌サポーターの中に、前日の悪天候の影響で試合当日早朝に搭乗予定だったフライトが欠航となり、別の移動手段を急遽手配して、何とかキックオフまでに埼玉スタジアムまで辿り着いた道民が数多くいた。

早朝の羽田便におけるファーストクラスの空席を探し当てて、大金を払って代替航路を確保した者、花巻空港や茨城空港などとりあえず本州に出る早朝便を手配し直して、そこから陸路で辿り着いた者など、それぞれがそれぞれの経路で決戦の地を目指したわけだが、当コラムでは空路を諦めて、札幌から埼玉スタジアムまですべて「陸路」で辿り着いた猛者を紹介したい。

試合から一夜あけて札幌に帰ってきた彼にLINE通話で取材を行い、詳しく話を聞いた。

(書き手:村上アシシ、語り手:けんたろう)

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

試合前日の10月25日、埼スタ遠征に向けた荷造りを終えて、夕方に自身が経営しているシメパフェ専門店のディップ&メリーに出勤。

【21:30】

バーカウンターに立ちながら常連客と「明日の早朝便で埼玉にサッカー見に行くんですよ」などと世間話をしていると、一緒に遠征予定の友人、cobaからLINEが来た。

「明日のジェットスター、欠航になった…」

スマホの画面に表示されたその文字が最初、頭に入ってこなかった。にわかに信じられなかったのだ。

常連客と会話をしながら、スマホを操作する。ジェットスターの予約確認画面でログインすると、確かに「欠航」という文字が出てきた。

「諦めたらそこで試合終了ですよ」というスラムダンクの有名なフレーズが頭をよぎる。これだけ楽しみにしていたルヴァンカップファイナルの遠征を取りやめるなんて選択肢は有り得なかった。

LCC(ロー・コスト・キャリア)だと、代替手段を航空会社が用意してくれないため、仕事をそつなくこなしつつ、cobaとLINEのやり取りをしながら、代替手段を自ら探した。

インスタのストーリーで函館までの運転手を募集

【23:00】

cobaと手分けしながら代替手段を検討した結果、茨城空港まで飛んで陸路移動、旭川空港まで陸路で行ってから羽田に飛ぶなど、いくつか候補が挙がったが、2人分まとめて席を確保するのが難しかった。

最終的には函館まで陸路で行って、明朝始発(6:39発)の函館新北斗発大宮行の北海道新幹線に乗るのが最も現実的だ、という結論に至った。

問題は札幌から函館までの移動手段をどうするか、だ。乗り捨てできるレンタカーを探したが見つからず、深夜バスも全滅。万事休すか…。

【00:30】

自宅に帰れば車はある。だがしかし、函館に乗り捨てていくのはさすがに無理だ。そこで思い付いたのは「ドライバーの募集」だった。駄目元でLINEの大人数のグループやインスタグラムのストーリー、ツイッターなどに「函館まで運転してくれるドライバーを募集!」と告知してみた。

すると、 インスタグラムのストーリーを見たコンサドーレのサポーターの知り合いがものの数分で返事をくれた。

「僕、暇なんで行けますよ」

まさかインスタのストーリーがこんな非常事態に役に立つとは思わなかった。「僕は埼スタに行けないので、僕の分まで応援してきてください」と伝えてきた彼が、まるで神のような存在に思えた。やはり持つべきものは友達だ。

立ち席特急券で北海道新幹線に乗車

【01:00】

お店の閉店時間とともに店を出る。閉店後の清掃作業などは店長にお願いした。嫌な顔ひとつせずに「頑張ってきてください!」と声をかけてもらった。

【01:30】

cobaとも落ち合って、自宅に車を取りに行き、運転手に名乗り出てくれた友人とも合流。約300kmの5時間のドライブ旅の始まりだ。

【06:00】

函館新北斗駅に到着。無事ここまで運転してくれた友達とがっしり握手してお別れ。新幹線の発車時間まであと30分ちょっと。

みどりの窓口に辿り着くと既に30人くらいの長蛇の列ができていた。発車時間までにチケットを買えるのか、不安がよぎる。

前方の様子を確認すると、予約したチケットの発行と、当日券を購入する券売機は別の列のようで、もうひとつの列に並ぶとものの数分で券売機に辿り着けた。

6:39発の始発は指定席が全席完売だったが、立ち席特急券をひとり21,940円で購入できた。約4時間、席に座れない鉄道旅となるが、背に腹は代えられない。

一睡もせずに辿り着いた埼スタは絶景だった

【10:38】

定刻通り、大宮駅に到着。同じ新幹線に乗っていたコンサドーレのユニフォームを着た札幌サポーターが途中で話しかけてきて、合計6人で大型タクシーに乗って埼玉スタジアムに向かうことになった。

遠征先に向かう旅の途中でも、赤黒カラーのものを身にまとっていればこういった素敵な出会いもあるんだなと実感した。

タクシーの列に並んで、大宮駅を出発したのが11時半。埼玉スタジアムにはキックオフ1時間前の12時に到着することができた。

写真説明:左が自分(けんたろう)、中央が別の便で既に到着していた友人のゆかり、右がcoba

自分にとって、埼玉スタジアムは初めて来る場所だ。

函館までの車内でも、新幹線の中でも一切寝ることができなかった。夜を徹して陸路で1,000km、10時間かけて辿り着いた埼玉スタジアムの景色は絶景だった。

史上最高の「神試合」を生で見れて幸せ

試合は負けてしまったが、来てよかったと心から思う。

自分はどちらかというと、にわかファンだ。コンサドーレのアウェイ遠征は片手の指で数える程度しか行ったことがないし、ゴール裏で90分間飛び跳ねるような熱狂的なサポーターでもない。

そんな緩めな自分からすると、史上最高の「神試合」だった。PK戦の結果なんて運でしかない。「2位では意味がない」とか厳しめの意見を目にすることがあるけど、そんなことはない。素晴らしい準優勝だと思う。こんなに神がかった試合を生で見ることができて、本当に幸せだった。

最後に、急遽深夜に出発することが決まったやんちゃな陸路旅に、快く送り出してくれた妻に感謝したい。ありがとう。

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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